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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第2章 北の森の影

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第017話 撤退と報告

「走れ!」


ヴィクトルの声が洞窟に響いた。


リオンが即座にカイルの腕を掴み、引き上げる。

カイルは歯を食いしばり、足を引きずりながらも走り出した。


エリナが杖を掲げる。


「光よ、弾けろ」


眩い閃光が洞窟内を満たした。

魔物が低く唸り、顔を背ける。


その一瞬の隙を逃さず、五人は洞窟の出口へ向かって走った。


ユイは最後尾を走る。

何度も振り返り、背後を警戒した。


重い足音が聞こえた。

追ってくる――そう思った瞬間、足音は次第に遠ざかっていく。


魔物は、追ってこなかった。


洞窟を抜け、森へ出る。

五人は木々の間を縫うように走り、街道へ向かって走り続けた。


息が切れる。

足が悲鳴を上げる。


それでも、誰一人立ち止まらなかった。


やがて、ヴィクトルが手を上げた。


「ここまでだ」


全員がその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

荒い呼吸だけが響く。


カイルはリオンに支えられながら地面に倒れ込んだ。

鎧は凹み、盾は完全に失われている。


エリナが杖を構える。


「治癒の息吹」


淡い緑の光が広がり、カイルの体を包んだ。

歪んだ表情が、少しずつ和らいでいく。


エリナは順番に、全員へ回復魔法を施していった。


ヴィクトルは立ったまま、北の森を睨みつけていた。


「あれは……記録にない魔物だ」


その言葉に、誰も否定しなかった。


ユイは心の中で、静かに同意する。

前世でも、見たことがありません。


リオンが低く口を開いた。


「ギルドマスター、どうしますか」


「王都へ戻る。今すぐだ」


ヴィクトルは振り返り、全員を見渡した。


「全員、生きているな」


「はい」


カイルが短く答える。

エリナが頷き、リオンも無言で肯いた。


ユイも、小さく頷いた。


傷は多い。

だが、致命傷はない。


「戻るぞ」


五人は立ち上がり、街道を王都へ向かって歩き始めた。

日が傾き、空が赤く染まっていく。


ユイは歩きながら、今日の戦いを反芻していた。


壊れた封印陣。

未知の魔物。

圧倒的な力。


そして、自分の無力さ。


知識はある。

経験もある。


だが、18歳の体では、それを活かしきれない。


その現実が、胸に重くのしかかっていた。


やがて、王都の門が見えてくる。

門番たちがヴィクトルの姿に気づき、慌てて敬礼した。


五人は門を抜け、街へ入る。


「ギルドへ急ぐ」


ヴィクトルの言葉に、全員が早足になる。


ギルドに到着すると、受付嬢が息を呑んだ。


「ヴィクトル様……皆さん、何が……」


「緊急会議だ。上層部を集めろ」


「は、はい!」


受付嬢は奥へ駆けていった。


ほどなくして、上級冒険者たちが姿を現す。

重い空気の中、一行は会議室へ通された。


大きな机を囲み、上層部が席に着く。

ヴィクトルは立ったまま、簡潔に報告を始めた。


「北の森の洞窟で、古代の封印陣を確認した。だが、完全に壊れていた」


室内がざわつく。


「封印陣が……壊れているだと?」


白髪の老人が低く問い返す。


「ああ。そして、その内部から解放されたと思われる魔物と交戦した」


ヴィクトルは、魔物の特徴を淡々と語った。

黒い鱗、四足歩行、深紅の目。

通常の攻撃がほとんど通じない、圧倒的な存在。


話を聞くにつれ、上層部の表情は険しさを増していく。


「それは……」


老人が、言葉を失ったように呟く。


ヴィクトルが静かに頷いた。


「古代種の可能性が高い」


会議室が一気に騒然となった。


「北の森は、即刻立入禁止とする」


ヴィクトルの声が空気を切り裂く。


「同時に、討伐隊の編成を進める。このままでは、被害は確実に広がる」


「討伐は可能なのか」


誰かが問う。


「分からん」


ヴィクトルは即答した。


「だが、やらねばならない」


重い沈黙が落ちる。


「準備に時間が必要だ。情報収集、戦力の再編、その間も森の監視は続ける」


会議はその後も続いた。

対策、連絡網、王都防衛への影響。


ユイは壁際に立ち、黙って聞いていた。


自分は、何もできなかった。


上級冒険者たちの中にいても、力が足りないことを痛感するだけだった。


ユイは、強く拳を握り締めた。


やがて会議が終わり、上層部の冒険者たちが部屋を出ていく。


その時、ヴィクトルがユイを呼び止めた。


「ユイ・セイラス」


ユイは顔を上げる。


「君は、あの魔物について、何か知っているか」


その問いに、ユイは一瞬だけ言葉を失った。


知っているか。

いいえ、と即答することはできなかった。


前世でも、見たことはない。

だが――


ユイは静かに、ヴィクトルを見返した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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