第016話 力の差
魔物が低く唸った。
洞窟全体が、重く震える。
ヴィクトルが即座に指示を飛ばした。
「エリナは後方支援! リオン、カイル、側面から回り込め!」
全員が動く。
エリナが後方へ下がり、杖を構えた。リオンとカイルが左右に散る。ヴィクトルは剣を抜き、魔物の正面に立つ。
魔物が突進してきた。
速い。
ヴィクトルが剣で受け止める。衝撃。
足が地面を滑り、岩が削れた。
ユイは短剣を握り締めたまま、動けずにいた。
前世なら、迷わず割り込めた。だが、今の体では、あの速度についていけない。
リオンが側面から斬りかかる。
刃が黒い鱗に当たり、金属音が響いた。だが、弾かれる。
「硬い!」
リオンが舌打ちする。
魔物が振り返り、前足を振るう。リオンは後ろに跳び、間一髪で避けた。
エリナが杖を掲げる。
「炎よ、奔れ」
赤い光が魔物に向かって飛ぶ。
炎が魔物を包んだ。
だが、魔物は止まらない。
炎を突き抜け、そのままエリナへ迫る。
「エリナ!」
カイルが飛び出した。
盾を構え、魔物の前に立つ。
前足が盾に激突する。轟音。
カイルの体が宙に浮き、壁に叩きつけられた。
盾が砕け、破片が飛び散る。
「カイル!」
ユイが叫ぶ。
カイルは壁際に倒れたまま、動かない。
ヴィクトルが魔物の背後へ回り込み、剣を振るった。
刃が後ろ足に食い込み、わずかに血が滲む。
魔物が悲鳴を上げた。
振り向きざまに尻尾を振るう。
ヴィクトルが剣で受け止めたが、衝撃に耐えきれず、後方へ吹き飛ばされた。
ユイの手が震えた。
動きは分かる。攻撃の予兆も、癖も、すべて読めている。
だが、体が追いつかない。
割り込めない。
リオンが再び斬りかかるが、やはり弾かれる。
エリナの氷魔法も、決定打にはならない。
ヴィクトルが立ち上がり、再び剣を構えた。
正面から斬りかかる。魔物は前足で受け止め、火花が散る。
その光景を見ながら、ユイは自分の無力さを噛みしめていた。
知識も、経験もある。だが、この体では、何もできない。
打ち合いは続く。
だが、徐々にヴィクトルが押され始めていた。互角に見えたのは、最初だけだった。
その時、カイルが立ち上がった。
盾は失われ、剣だけを握っている。
「カイルさん、無理しないで!」
ユイの叫びに、カイルは首を横に振った。
「まだ、戦えます」
カイルが前へ出る。
だが、魔物の前足が迫る。
避けきれない。
考えるより先に、ユイは動いていた。
短剣を投げる。
刃は魔物の目を狙って飛び、魔物が反射的に顔を逸らした。
その隙に、カイルが横へ転がる。
ユイは息を呑んだ。
これが、今の限界だ。
残った短剣を握るが、手の震えは止まらない。
ヴィクトルが叫んだ。
「リオン、エリナを守れ!」
リオンがエリナの前に立つ。
魔物が再び迫り、リオンが剣で受け止める。
だが、衝撃に耐えきれず、二人まとめて後方へ吹き飛ばされた。
ヴィクトルが側面から斬りかかる。
だが、魔物の尻尾が薙ぎ払う。
ヴィクトルが地面を転がった。
魔物が動きを止めた。
五人を見下ろしている。
まるで、獲物を選別しているかのように。
ユイは悟った。
このままでは、全員死ぬ。
ヴィクトルも同じ結論に至ったようだった。
立ち上がり、全員を見渡す。
「全員、撤退する!」
洞窟に、その命令が響いた。
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