第014話 洞窟の奥
翌日、ユイは早朝に目を覚ました。
体の痛みは引いている。リリアの治癒魔法のおかげだ。だが、心は晴れなかった。北の森の魔物。あの姿が、頭から離れない。
ユイは窓の外を見た。朝日が昇り始めている。今日、ヴィクトルから連絡が来るかもしれない。
ユイは身支度を整え、宿を出た。
朝の王都は静かだ。商人たちが店の準備を始めている。
ギルドへ向かう途中、カイルと出会った。
「おはようございます」
「おはようございます」
二人は並んで歩く。
カイルが尋ねた。
「今日、どうしますか?」
「ギルドで待ちます。ヴィクトルさんから連絡があるかもしれません」
「そうですね」
ギルドに着くと、受付嬢がユイを呼び止めた。
「ユイさん、ヴィクトル様がお呼びです」
「分かりました」
ユイとカイルは、昨日と同じ個室へ案内された。
ヴィクトルはすでに待っていた。
「来たか。座れ」
二人は椅子に腰を下ろす。
ヴィクトルは腕を組んだ。
「昨日の報告を上に伝えた。正式な調査隊の編成が決まった」
「それで、私たちは?」
「協力してもらう」
ヴィクトルはユイを見た。
「君の観察力は信頼できる。それに、現場を知っている」
「分かりました」
「ただし、無理はするな。調査隊には上級冒険者も同行する」
そう言って、ヴィクトルは立ち上がった。
「明日の朝、ギルドの前に集合だ。装備を整えておけ」
「はい」
ユイとカイルは部屋を出た。
ホールに戻ると、カイルが言った。
「明日ですか。準備しないと」
「ええ」
ユイは掲示板を見た。
北の森の依頼はすでに撤去され、代わりに立入禁止の告知が貼られている。
「ユイさん」
カイルが声をかけてきた。
「今日、装備を見直しませんか? 俺、盾を失ったので新しいのを買わないと」
「そうですね。一緒に行きましょう」
二人は武器屋へ向かった。
店内には様々な武器と防具が並んでいる。
カイルは盾を選び始め、ユイは短剣の予備を探した。
「これ、どうですか?」
カイルが鉄製の盾を持ち上げる。
ユイはそれを確認した。
「重そうですね」
「でも、頑丈です」
「それなら、いいと思います」
カイルは盾を購入し、ユイも短剣を一本買った。
店を出ると、カイルが言った。
「あとは回復薬ですね」
「ええ。多めに用意しましょう」
二人は薬屋へ向かい、回復薬を買って鞄に詰めた。
準備は整った。
「明日、頑張りましょう」
カイルが拳を握る。
「ええ」
二人は別れた。
ユイは宿へ戻る途中、図書館へ立ち寄った。
あの魔法陣の文字について、何か手がかりがあるかもしれない。
図書館に入ると、老人の司書が座っていた。
「いらっしゃい」
「古い文字について調べたいのですが」
「どんな文字かね?」
ユイは記憶を頼りに、文字の形を紙に書いた。
司書はそれを見て、眉をひそめる。
「これは、見たことがないな」
「そうですか」
「だが、似たような文字なら、禁書庫にあるかもしれん」
「禁書庫?」
「ああ。特別な許可がないと入れない場所だ」
司書は少し考えてから言った。
「君は冒険者だな。ギルドの推薦状があれば、入れるかもしれん」
「分かりました。ありがとうございます」
ユイは図書館を出た。
禁書庫。
前世でも一度だけ入ったことがある。だが、それは数年後の話だ。今はまだ、入る資格がない。
ユイは宿へ戻り、部屋で休んだ。
明日に備える。
夜になり、ユイは窓の外を見た。
北の森の方角。あそこに、何が待っているのか。未知の魔物、魔法陣、呪い。すべてが謎だ。だが、明日には何か分かるかもしれない。
ユイはベッドに横になった。
目を閉じると、あの魔物の姿が浮かぶ。赤い目、黒い鱗、そして圧倒的な力。
ユイは拳を握り締めた。
次は、負けない。
翌朝、ユイは早くに起きた。
装備を整え、宿を出る。
ギルドの前には、すでに数人が集まっていた。
カイル、そして見知らぬ冒険者たち。ヴィクトルも立っている。
「全員揃ったな」
ヴィクトルが言った。
「今回の調査隊は五人だ」
ヴィクトルは一人ずつ紹介する。
「こちらはリオン。Bランクの剣士だ」
黒髪の男性が無言で頷いた。
「こちらはエリナ。Bランクの魔法使いだ」
赤い髪の女性が微笑む。
「よろしくね」
「そして、君たちは知っているな。カイルとユイだ」
「よろしくお願いします」
カイルが頭を下げ、ユイも頷いた。
「俺も同行する」
ヴィクトルが言う。
「五人で北の森に入る。目的は洞窟の調査と魔物の確認だ」
ヴィクトルは全員を見回した。
「無理はするな。危険と判断したら、すぐに撤退する」
「了解です」
全員が答えた。
「では、出発する」
一行は王都を出て、北へ向かった。
街道を進み、森へと近づくにつれて、空気が重くなっていく。
エリナが呟いた。
「魔力が濃いわね」
「ええ。昨日よりも濃い気がします」
ユイが答えると、エリナはユイを見た。
「あなた、魔力の感知ができるの?」
「少しだけ」
「そう。なら、何か感じたら教えてね」
「はい」
一行は森に入った。
木々が立ち並び、辺りは薄暗い。
ヴィクトルが先頭を歩き、リオンとカイルが左右を警戒する。
ユイとエリナは後方を守った。
しばらく進むと、魔物が現れた。
ウルフだ。目が赤く濁っている。
「来るぞ」
ヴィクトルが剣を抜く。
ウルフが飛びかかってきた。
一閃。
ウルフは地面に倒れた。
速い。
ユイは思わず息を呑んだ。
前世でも見たヴィクトルの剣技だが、改めて見ると圧倒的だった。
「先を急ぐ」
ヴィクトルの言葉に、一行は再び進み始める。
途中、何度か魔物に遭遇したが、ヴィクトルとリオンが難なく倒していった。
やがて、洞窟が見えてきた。
「あれです」
ユイが指差す。
ヴィクトルは洞窟を見つめ、頷いた。
「分かった。慎重に入る」
一行は洞窟に足を踏み入れた。
中は暗く、湿っている。
エリナが光の魔法を使い、周囲を照らした。
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