第011話 森への入口
ウルフが飛びかかってきた。
カイルが盾で受け止める。衝撃が響き、カイルの足が少し後ろに下がる。
「重い!」
カイルが声を上げる。ユイは横から短剣を振るった。刃がウルフの脇腹をかすめる。浅い。
ウルフは素早く身を翻し、ユイに牙を向けた。ユイは後ろに跳ぶ。距離を取る。前世の経験で動きは読める。だが、体が追いつかない。18歳の体力では、反応が一瞬遅れる。
ウルフが再び飛びかかってくる。ユイは横に転がり、攻撃を避けた。地面に手をつき、立ち上がる。息が上がる。
カイルが横から剣を振り下ろした。ウルフの背中に剣が当たる。ウルフが悲鳴を上げた。だが、まだ倒れない。
ユイは短剣を構え直した。ウルフの動きを見る。足の運び、視線の向き、筋肉の動き。すべてを観察する。
ウルフが再び飛びかかる。
今度は読めた。
ユイは低く身を屈め、ウルフの腹の下に潜り込んだ。短剣を上に突き出す。刃がウルフの首に入った。
ウルフの動きが止まる。そして、地面に倒れた。
ユイは短剣を引き抜き、後ろに下がる。息を整える。
カイルが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!」
「ええ、大丈夫です」
ユイは倒れたウルフを見た。赤く濁った目が、こちらを見つめている。カイルもウルフを見下ろした。
「これ、普通のウルフじゃないですよね」
「ええ。目が異常です」
ユイはしゃがみ込み、ウルフの体を確認した。首筋に、黒い痣のようなものがある。
「これは……」
ユイは痣に手を伸ばそうとして、触れる前に引っ込めた。嫌な予感がした。
「カイルさん、これを見てください」
カイルがしゃがみ込む。痣を見て、眉をひそめた。
「これ、呪いの痕じゃないか?」
「呪い?」
「はい。昔、騎士団で訓練を受けた時に習いました。呪いを受けた魔物は、体に黒い痣が出るって」
カイルは真剣な顔で言う。
ユイは立ち上がった。呪い。前世でも聞いたことはある。だが、この時期に呪いを使う者がいるとは思わなかった。
「誰かが、魔物に呪いをかけている?」
「おそらく。でも、誰が、なぜ……」
カイルは立ち上がり、周囲を見回した。
「この森全体が、呪われているのかもしれません」
ユイは黙って考えた。前世では、北の森に異変が起きたのは数ヶ月後のはずだった。だが、今はもう始まっている。何かが、世界の流れを変えている。
「ユイさん」
カイルの声に、ユイは顔を上げた。
「どうしますか? 引き返しますか?」
ユイは少し考えた。引き返すべきかもしれない。だが、ここで引けば何も分からない。そして、被害は拡大する。
「もう少し、進みましょう。でも、慎重に」
「分かりました」
二人は再び森の奥へと向かう。
道中、何度か魔物に遭遇した。スライム、ゴブリン。どれも目が赤く濁っている。そして、すべての魔物に黒い痣があった。
ユイとカイルは協力して魔物を倒していく。カイルが前衛で盾を構え、ユイが側面から攻撃する。動きは自然に噛み合った。
カイルの動きは分かりやすい。ユイは前世の経験で、次の動きを予測できる。だが、それを悟られないよう、さりげなくフォローした。
森はどんどん暗くなっていく。木々が密集し、光が届かない。空気も重くなってきた。魔力の濃度が、さらに高まっている。
カイルが呟いた。
「なんか、嫌な感じがします」
「ええ。奥に、何かがいる」
ユイは立ち止まり、前方を見つめた。木々の間から、何かが光っている。
「あれは……」
カイルも気づいた。二人は慎重に近づいていく。光が強くなる。
そして、木々が途切れた。
そこには、洞窟があった。洞窟の入口から、淡い光が漏れている。魔力の光だ。
ユイは洞窟を見つめた。前世の記憶を探る。この洞窟を知っている。だが、前世では何もなかった。ただの空洞だった。
今は違う。何かが、中にいる。
カイルが尋ねた。
「入りますか?」
ユイは少し迷った。危険だ。それは分かる。だが、ここまで来て引き返すわけにはいかない。
「入りましょう。でも、何かあったらすぐに逃げます」
「了解です」
カイルは剣を構え直した。ユイも短剣を握り締める。
二人は洞窟に入った。
中は思ったより広い。天井は高く、壁は湿っている。そして、奥から光が漏れている。
足音を殺しながら、二人は奥へと進む。
光が強くなる。
そして、広い空間に出た。
そこには、巨大な魔法陣が描かれていた。地面に刻まれた複雑な文様。その中心から、光が立ち上っている。
ユイは息を呑んだ。これは、前世では見たことがない。
カイルが呟く。
「これ、何ですか?」
「魔法陣です。でも、見たことのない種類です」
ユイは慎重に魔法陣に近づいた。文様を確認する。古い文字が刻まれている。だが、読めない。前世でも、こんな文字は見たことがない。
ユイは立ち上がり、周囲を見回した。洞窟の壁にも、同じような文字が刻まれている。何かの儀式の痕跡だ。
その時、奥から音が聞こえた。
重い足音。
ユイとカイルは即座に身構える。
暗闇の奥から、何かが近づいてくる。足音が大きくなる。
そして、光の中に姿が現れた。
巨大な影。
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