表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

一話「少女が歩む壊れた世界」

 ざり、と地面が音を立てる。

 フードを深く被った少女がコートの中から小さな袋を取り出した。中には色とりどりの種類のクッキーが入っている。

 その中から適当に一つ取り出し、肩に乗っているくまのぬいぐるみに差し出した。

「『おう!さんきゅーな!でも俺様チョコチップのやつが良かったんだけど』」

「文句を言わないでください」

 くまのぬいぐるみは大人しくクッキーを頬張り始めた。

 少女は森の中を再び進む。手入れされていない、自然に生成された森だ。

 こう人の手が施されていない自然が増える度、真実を実感する。

「『お!もうすぐ森を抜けるぜ!』」

 くまのぬいぐるみが指す方を向く。明るい陽の光が少女達を導いているように感じる。

 自然と少女の足が早くなるにつれて、鼓動も早くなっていく──ような気がする。やがて、小走りから本当に走り出した。

「『おい!あんま走るなよ!俺様、落ちちまうぜ?』」

 くまのぬいぐるみの訴えに少女は耳を傾けない。

 だって森の終わりは目と鼻の先にある。

 もしかしたら、もしかしたら……!

 光が少女達を包み込んだ。眩しくなり目を瞑る。足は止まらず、むしろ早くなった。

 フードが風によってとれ、少女の目には──

 崩れた建物の隙間から、柔らかな草花が顔を出し、風に揺れるたびに小さな光を反射する。瓦礫に覆われた通りには、静かに水が流れ、割れた石畳に鏡のように空と雲を映す。

 遠くの塔は半ば崩れながらも、夕日に照らされて金色に輝き、まるで失われた時代をそっと暗示しているかのようだ。

 鳥の声も人の気配もない世界で、自然は静かに荒廃を包み込んでいた。

「『おー、ここも随分荒れてんなぁ』」

「そうね……」

 少女は一歩踏み出す。

「とても、綺麗な景色ですこと……!」

 そう言いつつも少女の顔には不快の文字が刻まれていた。

 少女は荒廃した町へと下っていった。

 町は倒壊した建物に苔が生え、ツタが伸び、侵食されていく。

「『今日はここで一休みするのか?』」

「そうですよ、食料も調達したいですし」





 三年前、突如として世界はゆっくりと崩壊し始めた。初めの頃はまだ対策のしようがあると考えられていた。

 しかし、“それ”の侵食は時間が経つ程スピードを増していき、現在までの三年間で“それ”は世界の殆どを侵食した。

 現在、生き残った人類に共通しているものはただ一つ。

『魔術師であること』

 なぜ、魔術師だけが生き残ったのか。それは、きっと──

「『おい、見ろよ!あれ、食料品店じゃねぇか?』」

 くまが指差す先に、一軒の廃れた店が建っていた。看板はほぼ取れかけ、ペンキは色褪せ、ドアに至っては外れてしまっているが。

「保存食ならあるかもしれませんね。入ってみましょう」

 食料品店の中は荒れ果てていた。ショーケースは割れ、腐り果てた生鮮食品が棚から崩れ落ちている。

 少女は一つのショーケースに近付き、中身を確認する。ショーケースの中にあるはずの商品は、型崩れしたもの以外無くなっていた。

「『まるでこの町に誰かが居たみたいだな』」

「いえ、まだいるのでしょう」

「『……なるほどな』」

 少女達は食料品店を出て、町の外れまで来た。

 少女は一番外側に近い木造の家に手を当てる。

 少しザラザラとしているがしっとりとした温かみのある触感。

「これがいいですね」

 少女はその家に杖を向け、小声で呪文を唱えた。

中級風魔法(ガスト)

 杖の先から放たれた突風が家屋を突き破った。木屑が風に乗って舞い、少女の長い髪が靡く。

 木造の家は手入れされないまま放置されていたのか、簡単に崩れてしまった。

 少女は手前に落ちた木片を手に取り、質感を確かめる。よく乾いていて、柔らかめ。これならよく燃えそうだ。

 少女が破壊した家の木片を回収していると、後方に人の気配を感じた。瓦礫を踏む音、服の擦れる音、息遣いから三、四人だと推測できる。

初級火魔法(ファイア)

 後方にいる誰かが呪文を唱えた。

 炎の熱が空気越しに伝わってくる。

 少女は目を閉じ、振り向きもせず、静かに囁いた。

防御魔法(シールド)

 少女が展開した防御魔法に吸い込まれるように、火の玉の魔法は打ち消された。

 少女が立ち上がろうとすると、不意に肩を掴まれた。

「ヒュー。防御持ちなんだ」

 若い女の声が少女の耳元で囁いた。

 足音を立てずに近付くのが得意なのか。それとも、隠密魔法に長けているのか。

 (……気付かなかった)

 少女は女の手を振り払い、一目見る。

 鮮やかな桃色の髪、光り輝くアメジストの瞳。いかにも軽薄そうな女だ。

「あぁ、ごめんねぇ。でもしょうがないでしょ、防御魔法は攻撃以外は貫通しちゃうんだから、さ!」

 女はペロリと舌を出し、両手を合わせて謝る。謝りつつもどこかわざとらしい言い方だ。

「こんにちは、お嬢さん。アタシはメルト。この町を拠点として仲間と一緒に旅をしてるの」

「ごきげんよう、メルト様。私は……ホロウ、と申します」

 ホロウはスカートの裾を摘み、軽くお辞儀をする。

「へぇ、その挨拶の仕方、お姫様みたいね!。ところで、本題なんだけど……」

 メルトの目線がホロウの鞄にずれる。おそらく彼女は食料や物資を要求したいのだ。なら、この町の物資は粗方絞り取ったと考えた方がいい。

「その家、ホロウちゃんが壊したんだよね?」

 メルトが指差す先には、先程ホロウが破壊したばかりの家屋があった。しかし、それは既に木片と化していて、家であったとは判別できない。

 おそらく、彼女達は一部始終みていたのだろう。

「えぇ、そうです」

「困るんだけどぉ、そーいうの!ここはアタシ達の拠点だからさぁ!ホロウちゃん、わかるよねぇ!」

 (そう来ましたか……)

 ホロウは腰を深く折り曲げ、できるだけ申し訳なさそうに言った。

「それはそれは……大変申し訳ございませんでした。メルト様方が居たとは露知らず……」

「そぉなんだぁ!でもさ、こっちは壊されちゃってるからさぁ……どう落とし前つけてくれんの?」

「落とし前、ですか。すみません、何をすれば良いのでしょうか」

 ホロウが更に声を震わせ、頭を下げた。

 メルトはホロウの弱々しい態度に調子に乗ったのか、若干声が弾んでいる。

「わかんないかなぁ……食料だよ、食料!今、食料がちょー貴重なのわかるでしょ?それと─」

 メルトは一気にホロウに近付き、下から顔を覗き込んだ。

 ゆっくりとホロウの顔を見定めるように見つめ、にっこりと優しく笑いかけた。

「ホロウちゃん、私に雇われてよ」

 メルトの飴を煮詰めた甘ったるい声が、ホロウを誘惑せんとばかりに取り囲む。

 ホロウはただ黙って話を聞いた。

 くまも不満があるのかいつもより重く、肩に腕がくいこんでいる。

「暫くの間でいいよ〜?ちゃんと三食昼寝付き、でもこっちの言うことはちゃんと聞いてね。ホロウちゃんはいい子だから、ちゃんとできるよね?」

「業務内容を確認させて頂いても宜しいですか?」

「あ?」

 ホロウの質問に、メルトは眉間に皺を寄せたが応じた。誘惑をするための甘ったるい声からワントーンぐらい下がり、苛立ちを隠せていない。

「業務内容ねー。基本的にはアタシたちの護衛だよ。アタシたちの中に防御持ちがいないんだ。防御結界を張ってもらうことになるから、それじゃ、よろしくね」

 メルトがホロウの肩に触れようとする。しかし、その手は空に触れるだけで、何にも当たらなかった。

「待ってください」

「何」

「私はまだ了承していません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ