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ep.22 暖かな家

まだ夜露が乾ききっていない頃。

俺とミリアがライアスの店から孤児院へと向かうと、3人はすでに門の前に立っていた。

リベリアはこちらを見て睨みつけ、アスペルは気だるげに門に寄りかかっていた。

ルクシアだけは遠方から頭を下げてくれている。


「ごめんごめん。

待たせちゃったみたいだね」


「おせぇよ!

というかお前、ここに住んでんじゃねぇのかよ!

お前の家だろ!?」


「今はミリアと一緒にライアスさんのお店に寝泊まりすることが多いんだよ。

こんな広い家でひとり寂しく暮らすのはおかしいだろ?」


「まぁ…確かに?」


良かった。

結構適当な事を言ったつもりだったのだが、リベリアは勝手に自分の中で解釈したのかうんうんと頷いている。


「…とりあえずさ、中入れてくれないかな?

寒いんだよね。ここ」


アスペルが口を開いた。


「あ、そうだね。

立ち話もなんだから中へ入ろうか」


俺の言葉を待っていたかのように、子ども達は室内へと入っていった。

ルクシアが必死にペコペコとしていたので、軽く笑って手を振る。

…彼女も苦労しているのだろう。


数日前に座った場所に各々が座ったところを見計らって、俺が口を開いた。


「開口一番で申し訳ないんだけど、話っていうのは結論が3人の中で出たって事で良いんだよね?」


「はい。その通りです」


ルクシアがここで初めて口を開いた。

やはり、彼女がリーダーのような役割を担っているのだろう。

緊張で、じわりと汗が滲む。

背筋を撫でる空気が、少しだけ冷たくなった気がした。


誰も言葉を発しない。


そんな沈黙の中で、俺はようやく口を開いた。


「…じゃあ、まずは答えを聞いても良いかな?」


「はい。私たちは、

――あなたの家族にはなりません」


音が、遠ざかった。

言葉を理解するのに数秒かかった。

しかし、昨日の段階である程度覚悟はしていたことだ。

破裂しそうな心臓を必死に押さえつけ、平静を装って聞いた。


「…そ、それは、3人の同意なのかな?」


「はい。3人で出した結論です」


リベリアとアスペルの方へと視線を向けると、2人とも首を縦に振った。

そうか。ダメか…。

言葉にならない息が、胸の奥で溶けた。


「…しかし、この結論とは別にご相談があります」


「……なんだろうか?」


「冬の間だけ、私たちを"使用人"として雇って欲しいのです」


「…使用人?」


想像の斜め上な話で、思わず声が裏返った。

ミリアも聞いていなかったのか、驚きの表情を見せている。

心の整理が出来ぬ間に、ルクシアの言葉は続けられた。


「はい。

こちらから求める物は、食事と屋根のある寝床。

生きていけるなら食事は粗末な物で構いません。

寝床も…屋根裏で十分です」


「待ってくれ。

さすがに話が急過ぎる!」


「こちらから出せるものは

――私たちの全てです」


全て。

そう言った彼女の目には不安の色が乗っていた。

しかし同時に、引き締められたその表情からは覚悟が感じ取れた。


「あ、あのなぁ…

全て。なんて軽々しく使っちゃダメだぞ?

俺がルクシア達を売り払う可能性だってあるだろ?」


「そんなことする人じゃないって、前の話しで分かりました。

それに、もしそんなことをしたら…

――私たちは、"ミリアちゃんを"嫌いになります」


「うぐぅ…」


反射的にミリアの方を見る。

少し、ほんの少しだけ項垂れているように感じる。

友達にここまで言われてしまうことがショックなのだろうか。


実に見事な交渉術。

この場にライアスが居たのなら大笑いしながら商人に勧誘していただろう。

しばしの沈黙の末、音をあげたのは俺の方だった。


「…わかったよ。

ルクシア達の希望を尊重しよう。

でも、なぜ使用人なんだ?」


「3人で話し合った結果です。

スラムでの貸し借りはご法度。

施しを受けるならそれ相応の価値あるものを差し出さないといけないんです」


「ここはスラムじゃないし、俺は気にしないぞ?」


「かぁ〜、黙って聞いてりゃ!

わかんねぇか!?商人のお前と一緒に住み続けるなんてごめんだって言ってんだよ!!!」


ルクシアと話をしていると、リベリアが頭をガシガシと掻きながら叫んだ。

ほんの少し、目尻が熱くなる。

それを必死で堪えて言葉を吐いた。


「えっと…、それは、ごめん。

そこまで察してあげられなかった」


「ふん!わかりゃいいんだよ!

ただ、お前を信頼してないわけじゃないんだ。

なんつーか…その…アスペル!」


「……トラウマ?」


「そう!それだ!

こっちにだって色々トラウマがあんだよ」


あぁ、それで得心がいった。

そういえばこの子達は、数日前に商人に売られそうになったと話をしていた。

過剰な警戒や荒んだ態度はそれが相まってのことなのだろう。

それを考えると、ルクシアが普通に接してくれている事が喜ばしく思えて…

目尻に、別の熱さが込み上げた。


「そうか。

でも、それでも冬の間は一緒に居てくれるって事なんだよね?」


「えぇ、そうです。

しかし、勘違いして欲しくはないのですが、私たちはあくまでも使用人。という事にして欲しいんです」


「じゃあ、無理に仲良くしよう。とは言わないよ。

君たちを引き止めるつもりもない」


でも、ほんの少しだけやり返させてもらう。


「じゃあ、使用人さんたちに最初の命令だ。

今まで通り、接しよう。

俺は君たちをミリアの友達だと思っているし、君たちもミリアや俺にへりくだらない。

良いね?」


暖かな部屋の中で、ただひとりだけ苦虫を噛み潰したような顔をした。

しかし、その冷たさには誰も気がついていなかったのだ。




窓の外では、まだ乾ききらない夜露が朝の光を弾いている。

"部屋の中は"暖かかった。

――ただ、それだけだった。

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