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ep.20 縁と選択

家族と思ってくれているのか。

その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。

喉の奥に形容し難い何かが詰まって、全く言葉が出てこない。

父上の真剣な表情を見て、にじみ出るような汗が額を伝う。


そんな時、部屋の扉がゆっくりと開かれた。


「エドリック様、カエルム坊っちゃま。

お取り込みのところ申し訳ございません。

お食事をお持ちいたしましたので、どうぞ冷めないうちにお召し上がりくださいませ」


「おぉ、ありがとう。

カエルム。難しい話をしてしまって悪かった。

とりあえずは食事にしよう」


「………はい」


食事が運ばれ、皿が並べられた。

陶器と金属がぶつかる音が、やけに耳を貫いていく。

今までの家族の食事は良くも悪くも賑わいがあったが、今この瞬間は今までとはまた別の辛さがある。

この世界では珍しい暖かく、味のある食事だと言うのに、喉を通るそれは妙に味がしなかった。




結局、ただの一言も言葉を交わすことなく食事を終えた。

父上がナイフを置き静かにため息を吐いた時、俺の口からはポツポツと言葉が零れた。


「………俺、孤児院を作ったんだ」


「ん?あぁ、手紙に書いていたな。ライアスと行う事業だろう?」


「そうなんだけど、そうじゃないって言うか…」


頭の中を様々な感情がぐるぐると渦巻き考えがまとまらない。

思考をすればするほどに、深く暗いどこかに沈んでいくようだった。


「…孤児ってさ。血の繋がりってないわけじゃん?」


「…そうだな」


「でも、繋がりというか…縁っていうの?

選択次第では、家族になれると思うんだよね」


「それは、あの子と婚約したいということか?」


あの子。というのはミリアの事だろう。

だが、違う。今言いたいのはそんなことではない。


「違う。

ミリアの友達に3人。孤児なんだけどいい子達が居てさ。

みんな自分たちが生きるのに精一杯なのに、誰かを助けることができるんだ」


「…それで?」


「俺、そんなあの子たちがすごい好きでさ。

俺もいつか、あんな子達みたいになりたいって思ったんだ。

それと同時に、あの子たちを守ってあげたいって。

そう思ったんだよ」


いつの間にか、俺の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。

胸が締め付けられるように痛む。

これ以上言葉を続けるなと弱い自分が叫んでいる。

でも、俺は…

――父上の見せてくれた誠意を返したい。


「だから、俺さ。

"あの子たちの家族になるよ"」


父上は真っ直ぐにこちらを見ていた。

心の奥底を透かして覗かれているような。

時間にしてみれば数秒程度なのだろうが、そんな不安の感覚が永遠のように続いた。

そして父上は満足そうに頷くと、先程のような貼り付けたような笑みではなく、幼少の頃に見たような優しい笑顔で口を開いた。


「…そうか。

否定や拒否ではないんだな。

それなら、良かったよ。

また随分早いが、息子の独り立ちだな」


「…茶化さないでください」


「なんだ?ここは公式の場ではないんだ。先程までのように言葉を崩しても良いんだぞ?」


「ルシエル兄上には言葉遣いにお厳しいのに、こんな時だけ調子がよろしいんですね!」


こちらの皮肉にも父上は何処吹く風とばかりにニコニコと笑っている。

まるで相手にされていないような感覚。

先程まで渦巻いていた感情が嘘のように消え去って、今はただ無性に腹が立って仕方がない。


「あぁ、そうそう。そのルシエルだが。今、王城に居るんだ」


「はい?初耳ですが」


「ひと月ほど前に出立した。

手紙で伝えても良かったのだが、まぁすぐにカエルムに会えると思ってな。

言わないでおいたんだ」


そう言って父上はケラケラと笑った。

領主としての威厳は果たしてどこに行ったのか。

しかし、母上に振り回されていた父上を思い出してどこか懐かしい気持ちにもなっている自分が居た。


「騎士見習いとして王城で訓練をしているんだ。

将来的にはラシエル伯爵家を引き継ぐ身分ではあるが、いざと言う時の指揮や戦闘経験は積んでおかねばならん。

数年は帰ってこないだろうが、まぁ死ぬこともないだろう」


「なるほど。と、するとセラフィス兄上もどこかに修行に?」


「あ〜、セラフィスな。セラフィスは…まぁその、なんだ。あの性格だからな」


セラフィス兄上もどうやらお変わりないようだ。

安心は全くできないのだが。


「では、母上はどちらなのでしょう?

てっきり今日も同席されていると思っていたのですが…」


「イゾルデは…お前に対しての負い目が強くてな。

合わせる顔がない。と自室に引きこもってしまっているんだ。

母親の顔すら見せられなくて…すまんな」


「いえ、そういう事でしたら大丈夫ですよ

父上の方からそこまで気にしないで欲しい。と言っていたと伝えてください」


「そう言ってもらえると助かる。

それで、だ。

お前のガールフレンドの話でも聞いてやろうじゃないか?」


「ミリアは、そんな存在じゃありません!」


「何もミリアちゃんだとは一言も言ってないぞ〜?」


俺と父上はその後も有意義と呼べる時間を過ごした。




窓の外が赤く染まり始めた頃。

雑談に花を咲かせていた俺たちだったが、扉を叩く音と共に聞こえた執事の言葉で現実へと戻ってきた。


「エドリック様、カエルム坊っちゃま。

大変お心苦しいのですが、そろそろお開きにされてはいかがでしょうか?」


「っと。すまない。もうこんなに時間が過ぎ去っていたか」


「エドリック様のカエルム坊っちゃまが愛しいというお気持ちは十分に理解できますが、カエルム坊っちゃまにも帰りを待つ者たちが居るのです。

どうかご容赦ください」


そう言われたエドリックは初めて顔を少し赤らめた。

よくやった名も知らぬ執事さん。


「それでは、俺はこの辺りで失礼します。

父上もまた手紙で近況報告を致しましょう」


「あぁ、待てカエルム。

今馬車を用意させるから」


「ライアスさんの店までは目と鼻の先ですよ?

さすがに日中は体裁もあるので馬車で来ましたけど、帰りは裏口からサッと出ますよ」


父上は少しだけ寂しそうな顔をした後、すぐに顔を引き締めた。


「カエルム。

次、何かがあった時。俺を頼れ。

必ず助けになってやる」


「…わかりました。

じゃあ、期待しておきますね」


そう告げると、俺はそそくさと部屋を出た。

少しだけ、そう。ほんの少しだけ口角が上がっていた事を知られたくなかったのだ。

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