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ep.19 血と距離

1度ゆっくりと考えたい。そうルクシアが申し出ると、他の2人もその意見に同意した。

特段焦る話でもないため、その日は1度お開きとすることになった。

元々住んでいた場所を手放して新しい生活を始めろ、なんて言われれば誰にだって考える時間は必要だろう。

むしろ"検討"してくれているだけでも上々だ。


そんな俺は今、ラシエル伯爵家に向かう馬車に乗っている。

今朝、ライアスの店に伯爵家の使いが迎えに来たのだ。

突然の事ではない。

文字を書けるようになってからは、父上と何度か手紙のやり取りをしていたのだ。

その時、「久々に親子で食事でもどうだろうか?」と誘われていた。


正直、俺は内心捨てられたのだと思い込んでいた。

否、捨てられてもおかしくないと今でも思う。

2年前のあの日、ライアスから

「お前の面倒はしばらく俺が見てやることになった」

と、そう言われた時に確信したのだ。

前世の知識があり、三男で、死ぬことのない気味の悪い子ども。

そんな自分を育てたいと思うはずがない。と。


しかし、現実はこうして馬車まで用意して繋がりを保とうとしている。

2年間で何かあったのだろうか。

兄2人のどちらかが死んだから、スペアを用意したい。

…そのくらい言われてもおかしくないとさえ思っている。


沈むような空気が馬車の中を満たす頃、次第に馬車の速度は落ちていった。

窓から外を覗くと、見慣れたはずの白い壁が目に入った。

――帰ってきてしまったらしい。




やがて馬車は静止し、御者の手で扉が開く。

何も変わらぬ屋敷の空気が流れ込んできた。


「思ったより、何も変わってないな」


「お帰りなさいませ。カエルム坊っちゃま」


声の方に視線を向けると、燕尾服を着た初老の男性が、静かに佇み、軽く頭を下げていた。

たしか、父上に付いていた執事だっただろうか。

幼少期から父上と母上以外の人間にほとんど触れてきていないため、この執事ともほとんど関わりがない。

一瞬、なんと言うべきなのか躊躇っていると執事はゆっくりと顔を上げてこう告げた。


「エドリック様がお待ちです。どうぞ、中へ」




執事に連れられ、かつて母上に手を引かれて歩いた廊下を進む。

あの頃と何も変わっていないというのに、妙に足取りは重かった。

いくつもの扉が立ち並ぶ長い廊下の中で、一室だけ扉が少し空いている部屋を目にした。


「恐らくメイドが掃除中なのでしょう。

カエルム坊っちゃまが帰るまでに掃除を終わらせるように言っておいたのですが…。

担当のメイドには減給の処分をしておきます。

どうかご容赦ください」


「いや、気にしていませんよ」


「坊っちゃま。いけません。

使用人にそのような言葉遣いは不要でございます。

また、罪には罰がなければ他のものに示しが付きません」


「……わかった。

好きにしてくれ」


執事はにこやかに頷くと俺の案内を続けた。




かつて、母上が開いた大きな扉を執事が開くと、父上は前に見た光景と同じように椅子に深く腰掛けていた。

しかし、前に見た光景と決定的に違うところもある。

父上以外に座っている人間が居ないのである。


「……よく来たな。まぁ、座りなさい」


父上が着席を促すと、執事が父上の正面に位置する椅子を引いた。


「…失礼します」


「そう固くならなくてもいいんだよ。

今日はカエルムが好きだった物を用意したんだ。

楽しんで欲しい」


「…そんなことより、俺を呼んだ理由はなんでしょうか?」


父上はほんの少しだけ考えた素振りを見せたあと、貼り付けたような笑みで答えた。


「……理由がなければ、呼んではいけないのかい?」


「いえ、ただ俺とはあまり関わりたくないものだと思っていたもので」


父上の貼り付けたような笑みが崩れた。

そして、少し真剣な顔をしたあとに姿勢を正し口を開いた。


「…お前が前世や不死の力の正体を打ち明けてくれた時、俺は…なんと言えばいいのか分からなくなってしまったんだ」


「そうでしょうね。

普通なら拒絶しますよ」


「拒絶…拒絶か。

たしかにそうかもしれない。

考えたくなくて、受け入れたくなくて。

だからお前に助けを求められた時、ライアスを頼ってしまった」


父上は苦虫を噛み潰したような顔で話を続けた。


「あの朝。

ライアスの店でお前に会った時、お前には既に俺は映っていなかった。

俺は…ずっと後悔していたんだ。

白葬花なんて代物に手を出すほど追い詰められている状況を軽視してしまった。

わがままなんてあまり言ってこなかった息子の願いを軽んじてしまった…それが…」


「いえ、"領主としては"ご立派です。

むしろ、そうでないと領民が飢えて被害が大きくなります。

息子の些細な願いと、全ての領民なら後者を取るのは当たり前のことです」


「しかし!!!」


エドリックは机を叩きそうになる手をぐっと抑えた。

そして、深く深呼吸をした後に続けた。


「それでも、俺は間違ったんだ。

領主としてではなく、1人の父としてお前に寄り添うべきだった。

例え不死だろうとも、前世の記憶があろうとも。

お前は――俺の息子なのだから」


部屋の空気がまた一段と重くなったことを肌で感じる。

しばらくの沈黙が続いた後、俺は口を開いた。


「……謝罪のおつもりですか?」


「…謝罪なら、あの日、あの時にすべきだった。

今更謝ったところで、到底許されることではない。

俺が楽になりたいだけだろう」


「では、もう一度お聞きします。

俺を呼んだ理由はなんでしょうか?

手紙ではなく、対面を希望された理由は?」


煮え切らない会話から逃げるように、矢継ぎ早に言葉が零れた。

父上はそんな俺の顔をじっと見てゆっくりと話し出した。


「俺は、確認がしたかったのだ」


「……確認?」


「お前が、カエルムが。

まだこの場所を家だと思ってくれているのか。

俺たちを。


――"家族と思ってくれているのか"」

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