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閑話 太陽の少女

私のお父さんは私が産まれる前に、お星様になったらしい。

だから会ったこともないし、声を聞いたこともない。

でも、――1度だけお母さんが教えてくれた。


「お母さん!お父さんってどんな人だったの?」


お母さんはほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした。

でもすぐに、いつもの優しい笑顔に戻った。


「…お父さんはね。おひさまみたいに笑う人だったの」


「おひさま?」


「そう、あのお空に登ってる"太陽"ね。人を暖かい気持ちにしてくれる優しい笑顔の人なの」


私は空を見上げた。

目を瞑ってしまうほどまぶしいのに、なぜだかポカポカとした。


「ミリアはね。私の太陽なのよ。

ミリアが照らしていてくれるから、私はこうやって幸せなの」


「幸せ?」


「そう、心がポカポカするのよ。ミリアは?」


その時初めて、私は"幸せ"の意味を知った。


「私!幸せ!お母さんと一緒に居られて幸せだよ!!!」


お母さんと二人で笑いあった。


――でも、そんな日々は長く続かなかった。




すこしずつお母さんは寝ている時間が多くなった。

咳が止まらなかったり、身体をぶるぶる震わせる日もあった。

だから私は、お母さんをぎゅっと抱きしめた。

なぜかは分からないけど、そうしたくなった。


「…ミリア…」


「お母さん!大丈夫だよ。きっとすぐに良くなるよ!」


「…私ね。ミリアの笑顔を見る度に、私はまだ枯れてないんだって思えるの」


お母さんは続けて、優しい言葉で言った。


「ミリア。よく聞いて。お母さんとの約束。いい?」


「約束?」


「そう。約束。

困っている人がいたら、手を差し伸べてあげなさい。

はじめましての人には、笑顔で自己紹介しなさい。

泣いている人の話はちゃんと聞いてあげて、

悲しんでる人がいたら、めいいっぱい抱きしめてあげなさい。

わかった?」


「うん!わかった!私、ちゃんと出来るよ!!!」


精一杯に返事をした。

そうしたらお母さんは嬉しそうに笑って私の頭を撫でてくれた。




ある朝、お母さんの体調はまた良くなかった。

そんな時、前にお母さんから「お花の街に居た」と言われたことを思い出した。


「お母さん。お花を見たら元気になるかも!!!」


私はお母さんの為にお花を採ってくることにした。


「お母さん!少し外に出てくるね!」


「ミリア。どこへ行くの?」


返事に困った私は、咄嗟に


「と、友達に会いにいくの!」


「あら、ミリアに友達?」


「そうだよ!」


お母さんは「ミリアに友達ねぇ…」と寂しそうに呟いた。

でもすぐにいつもの明るい声で「行ってらっしゃい」と言ってくれた。

ふぅ、危なかった…




私はスラムを走り回った。

でも、どこを探してもお花は見つからなかった。

地面は乾いていて、土は固くて、草さえほとんど見当たらなかった。


「お花の咲いているところ、知りませんか!」


色々な人に聞いて回った。

すると、親切なおじいさんが「1輪だけ咲いている場所を知っている」と教えてくれた。

しかし、その場所に行ってみると先に人がいた。


お花を採っても良いか聞こうと近づくと驚いた。

その人は、血まみれで座りこんでいた。

綺麗な髪、整った顔立ち、豪華な服。


「………たぶん、お貴族様だ…」


お母さんやスラムのみんなが口をすっぱくして「お貴族様だけには関わるな」と言ってた。

最悪、殺されるぞ。って。

怖かった。怖かったけど。

それでも、この人は助けを待っているように見えた。


「困ってる…よね…」


思い出したのはお母さんとの"約束"。


「…私、できるもん」


お母さんとの約束は守らなきゃダメなんだ。

そう思い、大きく息を吸い込んだ。


「生きてますかー!!!!」


これが、彼。カエルムくんとの出会いだった。




私はお母さんにカエルムくんを"友達"として紹介した。

お母さんはなぜかすごいびっくりして謝っていたけど、誤解が解けたみたいで良かった。

私は難しい話は分からないけど、カエルムくんは嘘をつくような人じゃないって事だけはわかった。


と思って聞いていたら、お母さんは突然すごい怖い顔をして怒鳴っていた。

お母さんの怒った顔は、いつもの優しいお母さんとは全然違って見えた。

でも、その目の奥には――涙みたいな光があった。




お母さんに花瓶に水を入れてきて欲しいと頼まれた。

あの時の、お母さんのあの顔が頭から離れなかった。


「なんで…あんなに怒ってたんだろ…」


「どうしたんだい?」


声がかかって振り向くと、そこには花の場所を教えてくれたおじいさんがいた。

私はまた泣きそうになりながらさっきまでの話をした。


「…なるほど。そういうことかい」


「おじいさん。わかったの?」


おじいさんはゆっくりと頷いた。


「あぁ、わかったとも。お嬢ちゃんのお母さんはね。きっと悲しくて怒ったんだ」


「悲しいの…?」


「そうだとも。お嬢ちゃんはお母さんが好きかい?」


「うん!好き!」


「なら、そんなお母さんにお前はいらない子だと言われたらどう思うんだい?」


「それは…とっても…悲しい…」


「そうだろう?お嬢ちゃんのお母さんも、きっとそんな気持ちだったんだ」


おじいさんは少し悲しそうに微笑んでいた。


「お母さんはね。家族は仲良くしてなきゃダメだ!と怒ったんだよ」


「…そっか。ありがと!おじいさん!!!」


スッキリした。

そうだよね。家族はみんな仲良くしてなきゃダメなんだ。

早くお水を汲んでお母さんのところに帰ろう。

私は軽い足取りで走った。




――その日の夜


お母さんはずっと考え事をしているみたいだった。

何か力になれることはないだろうかと頭を悩ませていると、お母さんは突然聞いてきた。


「……ねぇ、ミリア。彼のことは好き?」


彼。とは、カエルムくんの事だろう。


「うん!好きだよ!!!」


「…そう、なら。もし私に何かあったら彼を頼りなさい」


――その言葉を聞いた瞬間、胸がザワザワした。

何か。が何かというのは私にもわかった。


「やめて!居なくならないで!!!」


「…大丈夫よ。まだ、もうちょっとは頑張るから」


「ちょっとじゃダメなの!ずっとずっと一緒がいいの!!!」


「………ミリアはワガママね」


そう言って、お母さんは私の頭を撫でてくれた。

そして、私が落ち着いた時にお母さんはまた話し始めた。


「いい?ミリア。私はミリアをこの世界で一番愛してる。

そして、彼もきっとあなたのことを愛してくれる。

彼は、過去の私と同じ目をしてたから」


「……愛…?」


「ミリアにはまだちょっと分からないか」


お母さんはくすくすと笑った後に、続けて言った。


「じゃあ、ミリアは彼…カエルムくんに守ってもらうの。

それで、ミリアはカエルムくんの傍に居てあげるの。

それがきっとお互いの為になるのよ」


「…傍に居てあげるの…?」


「そう。カエルムくんは一見強そうな子だけど、本当はとってもとっても弱くて繊細な…お花みたいな子なの。

だから、傍に誰か居てあげないと、すぐに壊れちゃうのよ」


お花みたいな子…というのは私には難しくて何を言っているのかわからなかった。

でも、お母さんが真剣に話をしていることはわかった。


「約束。できる?」


「…うん。私、頑張るよ。だからお母さんも頑張って…!!!」


「そうね。ありがとうミリア。愛してるわ」


お母さんは優しい笑顔で笑った。




翌朝。私はお母さんの咳で目を覚ました。


「…ぅん、お母さんだいじょ…う……」


私の声は少しずつ小さくなった。

お母さんが――血を吐いていた。


「――!カ…カエルムくんを探してくる!!!」


私は咄嗟にカエルムくんを探しに飛び出した。

お母さんは言っていた。

何かあったらカエルムくんを頼れって。

カエルムくんなら、きっと何とかしてくれる。

カエルムくんなら…!!!


「カエルムって子のお店ありますか!?」


「すみません!カエルムって子を探してて!」


なんど色んな人に聞いて回ってもカエルムくんのお店は見つからなかった。

何時間走り回ったのか分からない。

膝がふるえて痛くなるほど走った。

でも、お母さんがいなくなっちゃうよりもずっとずっと楽だった。


「この辺にカエルムって子のお店ない!?」


「ミリア?…」


振り返るとカエルムくんがそこに居た。

胸の奥がじーんとして、気がついたら泣いてた。


「お願い…。お母さんを…助けて…」


それしか、言えなかった。

でも、カエルムくんはそれだけでわかってくれた。

カエルムくんはすぐに走っていって、見えなくなった。


お母さんを、私を。

こんなに心配してくれる人は初めて会った。

スラムの人達は優しいけど、助けてくれる人は居なかった。

――カエルムくん。


私はカエルムくんを追いかけて走り出した。




カエルムくんに追いついたら、お母さんとお話した後だった。

カエルムくんは「助ける」と言ってくれた。

だから私は信じた。

カエルムくんはいい人だから。




カエルムくんが来なくなって3日。

私はお母さんの看病をしていた。


「…ミリア。ごめんね」


「謝ることじゃないよ。大丈夫。元気になったら沢山おしゃべりしてもらうもん」


「………ミリア。最後だから、少しおしゃべりしましょう」


「最後とか言わないで!!!カエルムくんが助けてくれるよ!!!」


「………ごめんね。って伝えて欲しいの」


その言葉を聞いた時、私は最悪の想像をして涙が止まらなくなった。


「なんで…なんで諦めちゃうの…」


「…諦めたんじゃないわ。私は決して諦めない。でもね。意志は自分よりも長く生きる人に、ちゃんと伝えておかないといけないの」


「…いし…?」


「私の生きる意味…かな…?」


「…生きる…意味…」


生きる意味。

考えたこともなかったそれは、私には難しすぎた。

でも、お母さんにとってすごく大事なものなんだと。思った。


「…カエルムくんは、きっと私の意志を受け継いでくれる。

だからミリアは、カエルムくんが真っ直ぐに歩けるように、傍で照らしてあげていて欲しいの。」


前にも聞いたその言葉。

傍にいて照らしてあげる。とはどういうことなんだろう。

私にはわからなかった。


「照らすって…どうやって…?」


「…そうね。一緒に悩んで、一緒に泣いて、最後には一緒に笑ってあげて欲しい。

あなたは、太陽だから」


太陽…お父さんと同じ。

うん、うん。わかった。




「お母さん。わかったよ。私――

――"太陽"になる」


お母さんは安心したように笑って目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
カエルムが前世の罰を背負って生きなければいけない残酷さに胸が苦しくなりました。でも、ミリアが彼の太陽となるので、これから救われるようにと思ってます。
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