ep.1 罪人の転生
処女作です!
至らぬ点もあるかと思いますがよろしくお願いします!
朝。
アラームが鳴っても、体が動かなくなった。
音だけが鳴り、意識だけが覚めていく。
天井の染みを見つめたまま、何分経ったのかもわからない。
怒られたわけでもない。
不自由でもない。
家は暖かく、食べ物もある。
両親は優しい。
それでも、胸の奥が空っぽだった。
笑っても響かない。何をしても、心が反応しない。
日が昇り、沈んでも、世界の形が変わらない。
――どうして俺は、生きているんだろう。
その問いだけが、息をするたびに重くなっていった。
学校へ行かなくなって、季節の移り変わりがわからなくなった。
友人たちは未来の話をしている。
「来週のテスト」「就職」「結婚」――
まるで、世界が続くことを疑っていないみたいに。
俺だけが、その輪の外に立っていた。
ガラス越しに誰かの人生を眺めるような感覚。
声は聞こえるのに、届かない。
ある夜、テレビのニュースで「若者の自殺」という文字が流れた。
画面の中で、遺族が泣いていた。
「どうして止められなかったんだろう」
「どうして相談してくれなかったんだろう」
他人事だった。
……なのに、胸のどこかが疼いた。
――俺が死んだら、誰か泣いてくれるのかな。
恐怖でも希望でもなかった。
ただ、どうでもいい興味。
そんな自分に、少し笑った。
――――――――――
屋上の夜風は冷たかった。
街の灯が遠くで揺れている。
手すりにもたれて見下ろした景色は、まるで別の世界のようだった。
スマホの画面には、あのニュースの切り抜き。
スワイプで閉じると、ホーム画面に家族旅行の写真が現れた。
笑っている。誰よりも自然に。
……いつの俺だっけ。
「……あの頃は、楽しかったな」
気づけば声が出ていた。
誰もいない空に溶けるように。
ほんの少しだけ、まだ心が残っていた。
そのことが、何よりも辛かった。
メモアプリを開き、両親への言葉を書き残した。
ありがとう、と。
ごめん、と。
それだけ。
風が頬を撫でる。
目を閉じた。
静寂の中で、世界が遠のいていく。
――さよなら。
――――――――――
光。
目を開けると、白い空間にいた。
上下も、温度もない。
ただ、光だけが漂っている。
「あなたの罪は、この世で最も重い。」
声が響いた。
男でも女でも、老人でも子どもでもない。
全ての声が、ひとつの響きになっていた。
「……神様、ですか。」
返事はなかった。
それでも、理解できた。
この存在は“上”にいる。
「あなたが殺したのは、自分だけではありません。」
息が止まった。
そんなはずはない。
俺はただ、一人で……。
「見なさい。」
空間が歪み、映像が頭に流れ込む。
――――――――――
父が泣いていた。
怒鳴りながら、泣いていた。
泣き声の中で、母を責めていた。
母は、座ったまま動かない。
目を開けているのに、何も見ていない。
指先だけが、微かに震えていた。
その震えが、痛いほどリアルだった。
――――――――――
「あなたの終わりは、あの人たちの始まりでした。」
神の声が淡々と響く。
「苦しみの始まり。悲しみの始まり。
怒りと絶望と、喪失の連鎖。」
言葉が突き刺さる。
否定したいのに、できなかった。
俺は逃げたんだ。
生きることが怖くて、愛されることが怖くて、
それを“終わり”で誤魔化した。
俺が殺したのは、俺じゃない。
――俺のいた世界だ。
「理解したなら、覚えておきなさい。その罪を。」
光景が消える。再び白い空間。
「あなたには罰を与えます。
使命はひとつ。何があっても生き続けること。
私は、二度とあなたの死を許さない。」
声は冷たく、美しかった。
拒絶の中に、慈悲のような響きがあった。
「加護は与えません。
代わりに、祝福を授けます。」
光が弾け、世界が砕けた。
焼けるような痛みとともに、意識が引きずり込まれていく。
――死よりも重い、生の罰が始まる。




