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目的地に到着しました。

 王都に向かうには山を二つ越えなければならない。


 一つ目の山を越えた所にある小さな宿場町で一般人が泊まる宿に入った。

 店主に「部屋に入る前に身体を洗え」と湯の入った桶と手ぬぐいを渡してきた。身体を滅多に洗わないない奴は嫌がったが、俺が強引に洗った。俺も含め湯が一瞬で黒くなった。にしても、水ではなくわざわざ手間のかかるお湯をくれるとは……店主さん優しいなぁ。


 部屋は十人部屋の仕切り無しの雑魚寝だ。なぜか美形と御者も一緒。もしかして俺たちを見張ってる?


 飯を食ってみんなが深い眠りについた深夜。小さくすすり泣く声で目を覚ました。


(セイ)……?」


 俺の隣で眠っている十歳の男の子……斉が小さくうずくまって泣いていた。


(親元を離れて不安……だよな)


 俺は斉のほうに身を寄せて、幼少期前世の母さんや現世の母さんがやってくれたように、斉の背中を優しくとんとんした。暫くすると斉は寝息を立て始めた。その様子に安堵した俺は目を閉じた。

 

 村から出発して五日後。


 王都に近づくにつれ道中にある宿場町も賑やかさを増していたが、最後の宿場町は今までの宿場町と明らかに違っていた。


 その宿場町は夕暮れ時にも関わらず凄く明るかったのだ。


 一般的に軒下や向かい合う建物に張られた紐に提灯を所狭しと吊るしていたのだが、この宿場町では提灯は飾り程度で、その代わりに整備された石畳の道路脇に銅枠に紙のようなものを張り合わせた灯篭を吊るした棒が街灯のように設置されていた。


 明かりの色も白っぽく、もしかして電気? と馬車からまじまじと見ていると、明かりの付いていない灯篭を吊るした棒……街灯と呼ぶことにする……の下にいる三人の男の姿が目に入った。


 三人の内二人は兵士のような恰好をしており、先端に小さな明かりをつけた棒を持ったお役人っぽい人をガードしていた。


 お役人っぽい人が灯篭に棒の先端にある明かりを近づけると、灯篭にポッと明かりがついた。


 あれだ……前世でショート動画で見た、どっかの国で街灯……ガス灯だっけ? に明かりをつける人にそっくりだ!


 と、不意に視線を感じそっちを見ると美形と目が合った。俺と目が合った美形は何も言わずスッと目を反らした。あれ? もしかして無意識にはしゃいでましたか? と急に恥ずかしくなって居住まいを正した。


 次の日、王都に着いたのは日が傾き始めた頃だった。


 王都は宿場町と賑やかさは同じだったが、なんというか華やかさ? 上品さ? が感じられた。


 そして案の定、街には街灯がずらりと設置されており、兵士二人にガードされたお役人さんが先端が光っている棒を使って街灯に明かりを付くている姿があった。


(あれ、どういう仕組みなんだろう)


 ガス……っぽくないしなぁとまじまじと見ていた俺は、ふと美形がその三人を凝視しているのに気付いた。なんか眉間にめっちゃ皺寄ってる。


「止めろ」


 感情のない声なのに、ワントーン低く聞こえたのは気のせいかな?


 困惑する俺たちを余所に美形が馬車から下りて、三人の元へ行く。美形に気付いた三人はそれぞれ姿勢を正した。兵士二人は胸元で右手をグーにして、それを左手で覆うように掴んだポーズを取り、お役人さんは棒を地面に置いて胸元で裾の長い袖口を左右合わせたポーズを取った。美形のほうが立場が上なのか?


 美形とお役人さんが会話をしている。よく見るとお役人さんはのほほんとした平凡そうな顔立ちでなんだか親近感が湧く。険しい表情を浮かべて話す美形に対し、お役人さんはのほほんとした表情で話している。会話の内容は遠くて聞こえない。あ、美形が戻ってきた。遠くでお役人さんが困ったなぁって感じで頬を掻いていた。


「出せ」


 なんか不機嫌っぽい声だ。お役人さんのほうを見ると、お役人さんは街灯に明かりをつける作業を再開させていた。


 真っ赤な城壁をくぐれば、そこはもう帝の敷地だ。と言っても城壁の中にさらに城壁があるので中は見えない。


 城壁に挟まれた通路を西側に向かって馬車を進めると、門の前で平民に近い服装をした若い男性が足元に明かりのついた提灯を置き、袖口を左右合わせて顔を伏せていた。その後ろに二人の兵士がいて右手をグーにして左手でそれを覆うポーズを取っている。


「ご苦労。ここからはお前に任せる」

「はっ」


 美形は俺たちを馬車から下ろすと、そのまま去って行った。


「みんなご苦労様。部屋に案内するから付いてきて」


 顔を伏せていた若い男性が顔を上げた瞬間、俺たちは言葉を失った。………すっごい美少女…いや美少年だ。一瞬ここって女性の後宮? って勘違いしてしまうほどだ。


 美少年は自分の足元にある提灯を持つと門を潜った。俺たち全員が門を潜ると兵士たちが扉を閉め鍵を掛けた。美少年は「ありがとうございます」と兵士たちに礼をし、「こっちだよ」と歩き出した。それについていく俺たち。


「最初に言っとくけど、君たちは役目が終わるまであの門から外に出ることはできないから」


 静かに告げられた言葉に思わず生唾を飲んだ。あんなに家族に啖呵を切ったくせに今更ながらに怖気づいてしまった。斉が俺の手を握ってきた。


「あはははっ! みんなこの世の終わりみたいな顔しないでよっ! 悪さとか変に目を付けられたりしなければ、二、三年ぐらいで出れるし………って君凄い傷痕だねっ! どうしたのっ⁉」


 後ろを振り返った美少年は俺の顔を見て声を上げた。みんなの後ろにいたから俺の顔が見えなかったようだ。


「うっわー……凄く痛そう。痛い? これ切られた痕だよね? 誰にやられたの? 賊?」


 歩みを止めて、こっちに迫ってきた美少年に俺はたじろいた。


「あ、あの……部屋の案内を……」

「あ、そうだった。ごめん、ごめん!」


 美少年は俺の手首を掴んで歩き出した。なんで?


「で、その傷どうしたの?」


 あ、それを聞きたくて俺の手首掴んだのね。俺は傷跡の経緯を簡単に説明した。


「ええー! 骨が折れたりしなくて良かったねっ!」

「あはは。そうですね」


 ほんとにな。……あ、そうだ。


「あの、俺も聞いていいですか?」

「なになに? 僕のこと? なんでも聞いてっ!」

「いえ、あなたではなくて。その……俺たちを連れてきてくれた兵士の方って……もしかして地位の高い人だったり……します?」


 そう聞いた瞬間、美少年の表情からスッと感情が消えた。でもそれはほんの一瞬で「あの方ね!」と無邪気な笑みを浮かべた。……さっきのは見間違いだったのだろうか?


「そりゃあ高いも高いっ! 帝様の右腕だもんっ!」

「は?」


 俺はあんぐりと口を開けた。な、なんでそんな凄い人がっ⁉ 人選間違ってませんっ!?


「僕もびっくりしたよ。門の開閉時間外にここを出入りできるのってお偉いさんのほんの一部だからさ。それなりの身分の人が連れてくるんだろうなぁと思ってたら、まさかのあの方で驚いたの、なんのっ!」

「な、なんで、そんな凄い人が……?」


 顔が引き攣る。


「……前にね、ここに働きに子たちを乗せた馬車が相次いで襲われたんだ。しかも男のほう」

「へ?」

男の後宮(ここ)って人手不足でね、僻地まで行って人を集めてるでしょ? それに目をつけた賊がいるらしくて……ほら、男って女と違って見目が悪くても奴隷として売れるでしょ?」

「………」


 俺の手を握っていた斉の手が震えたので、安心させるように強く握り返した。


「もちろん護衛もいたんだけど、多勢に無勢って感じ。ただでさえ人手不足で大変だってのに……。それであの方が中心となって護衛を強化したらしいよ? ……………あの方に刃を向ける奴がいるのならそいつは相当の間抜け野郎だよ」


 ぽつりと呟くように言った美少年の声音はひんやりとして思わず肩が震えた。 


 しかし納得した。宿に泊まるとき美形も同じ部屋で寝泊りしたのか。俺たちの身の安全を守るためだったのか。……いや、でもいくらなんでも帝の右腕自らが動くって……、道中失礼な態度取ってなかったよね? なかったよねっ⁉


(もし会う機会があったらお礼を言いたいなぁ……)


 まぁ、会う確率はゼロだろうけどなっ! 雲の上のお方に会えるなんて奇跡に近いっ!


「んで? 君はあの方が気になるの? もしかしてお近づきになりたいとか?」

「は? いやいやいやっ! なんでそんなぶっ飛んだ発想になるわけっ!?」


 俺は首をぶんぶんと横に振った。帝の右腕に近づきたいとか死にに行くようなもんだろっ!


「残念。いるんだよねぇ。そういう人間がチラホラとね。ほら、あの方って容姿もいいから」

「いや、あの、同性……」

「あははっ! 男の後宮(ここ)で、それは通用しないよ?」


 まじか。下っ端だし俺には関係ねぇやって思ってたのに。……そうなのか。そうなるのか。そうなっちゃうのかっ! うわぁぁぁ。

 

 俺は思わず頭を抱えたくなった。


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