農民の子に転生しました②
誤字報告ありがとうございます。
布を細長く裂いて作った包帯で顔を覆われた俺は、明姉ちゃんと手を繋いで村の中を歩いていた。血も止まったみたいだし、寝てばかりじゃ身体もなまりそうだったので、必ず誰かと一緒にという条件で外に出ることを許してくれた。
明姉ちゃんは俺がまた大怪我しないようにとしっかりと俺の手を握っているが、前世で低学年以降異性と手を繋ぐ機会なんてなかった俺は内心ドッキドキだ。手汗酷くないよね? 酷くないよねっ!?
村は山岳地帯にあり山を切り開いて棚田を作っている。家は土壁に瓦屋根の平屋で、集合住宅みたいにミッチミッチだ。
(しかし、あれだな……)
前世で転生小説を読んでて本当に良かったと思う。最初は混乱したがここが現実だと受け止めるのにそう時間は掛からなかった。
(もし知らなかったら大パニックになって泣き喚いていただろうな……)
前世の俺がどうなったのか……知る術はもうない。
(今年は帰るかなぁって思ってたんだけどなぁ……)
地元を離れてから両親と兄貴とはメールや電話でのやり取りぐらいしかしていなかった。別に仲が悪かったわけではない。一人暮らしが楽し過ぎて実家に帰るのをついつい先延ばしにしてしまっていたのだ。
(久しぶりに会ったのが俺の死に顔って……)
親不孝な俺でごめんなさい。そして死んだと思った俺は転生していて………。まさかこうなるとは一体誰が予想した?
しかも転生先が異世界ときた。
なぜここが異世界だと分かったかというと数日前の昼頃、寝床でうとうとしていたら外が騒がしくなって、気になって窓から外を覗いたら数人の村人と武装した厳ついおっちゃん三人組の姿が目に入った。
そして、三人組の後ろにある馬に繋がれた荷台にはぶつ切りでされたくっそデカいムカデが乗っていたのだ。マジで「は? え?」と混乱したわ。
その時。頭の中に「狩人」という単語が浮かんだ。現世の俺の記憶だ。えっと、記憶では彼らは狩人と呼ばれ国が認めた魔物討伐隊で、とても強くカッコよくて……。って、え? まもの……とうばつ……? 魔物……討伐……魔物討伐ッ‼??
前世で魔物は架空の存在で、ゲームや小説などでしから出てきていない。
(つまりここは異世界……ということなのか?)
前世にあんなくっそデカいムカデなんていなかった。巨大アナコンダがいてあれが表にでないっておかしな話だ。そう思いながらマジマジとおっちゃん達を見ていたら、寝室に入ってきた明姉ちゃんに見つかって雷を落とされた。
後で博兄ちゃんが教えてくれたことだけど、あのムカデは山の向こう側にある村から討伐依頼を受けていたものだったらしい。
本来は自分の縄張りから出ないはずなのに、なぜかこっち側に移動していて狩人たちは慌てて追ってきたという。んで、無事討伐したのはいいが獲物を乗せる荷台がなく、たまたま近くにあったこの村を見つけて山から下りてきて、荷台と馬を売ってほしいと村長さんに打診しにきたらしい。村長さんは結構言い値で買ってくれたとほくほくしていたという。
「父さんも生まれて初めて魔物と狩人を見たってさ」
博兄ちゃん曰く、魔物がでるのは本当に、ほんっとーに極稀らしい。え? そんなんで狩人やっていけるの? って思っただろ? 俺も思った。
狩人たちは普段は普通の仕事をしていて、依頼が入れば行くという感じらしい。もちろん命がけの仕事なので待遇はかなりいいらしい。
なお、狩人になるためには特別な力……体内に宿っている霊力が高いこと。過酷な訓練に耐え、様々な分野の知識を持っていることが必須とのこと。また年二回は必ず国の審査を受けなければならず、条件をクリアしなければ即剥奪されるらしい。
なので狩人さんたちは仕事がなくても、常に身体を鍛え勉学に励まなければならない。凄い……。
さて、異世界転生と言えば神様からチートな能力を授かって無双したりとか、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたりするのが鉄板。だが、俺にはチートな能力もなければ、革命を起こすほどの知識もない。せいぜい「あんなのあったらいいよなぁー」ぐらいしか言えない。
チート能力にも憧れたよ? でもそんな憧れは早々に砕け散りました。
寝台の上で転生あるあるのステータスオープンを開こうと呟いてみたり、火や水を出そうと詠唱してみたが無反応。しかもタイミング悪く明姉ちゃんに見られて「頭打った?」とガチで心配され、俺の黒歴史となりました。穴があったら入りたい!
散歩から帰ってくると、集合住宅の中庭的広場で女性陣たちが刈り取った羊の毛を調えていた。その横を通り過ぎる時、話し声が聞こえてきた。
「……が変わったらしいわよ」
「そうなの?」
「旦那の話では末の子どもらしいわ………。なんでも……」
何の話だろうと思っていたら、いきなり明姉ちゃんに手を強く引かれて、こけそうになった。
「め、明姉ちゃんっ!」
危ないと避難の目を向けると明姉ちゃんはなぜか顔色を悪くしていた。「明姉ちゃん?」ともう一度声を掛けると明姉ちゃんはハッと我に返り「ご、ごめん」と謝ってきた。「なにかあったの?」と聞いたが明姉ちゃんは首を横に振るだけで答えてはくれなかった。
夜遅く、ふと目を覚ますと居間のほうからボソボソと話し声が聞こえた。声からして俺以外の家族のようだ。
(なんの……話をしてるんだろう……)
凄く気になったが、眠気には勝てず俺はそのまま眠りに落ちた。
翌日の朝ごはんの時、俺は昨日のことを聞いた。するとみんな視線だけを父さんのほうに向けた。
「………村長のところに知らせが届いてな。新たな帝様が即位したと」
ふんふん。
「…………」
「…………。えっ! それだけっ⁉」
「……それだけだ。我々の生活が大きく変わるわけではない」
ま、まぁ確かに? 暴君じゃなければ……ね。だって昨日の皆の声が深刻そうに聞こえたからさぁ。心配になるじゃん。
でもその心配は正しかった。
村のあちこちから聞こえてくる新たな帝の話。
帝が十歳だということ。
その帝が異母兄弟や側室、側室の親族。そして自分の父親を殺して玉座についたこと。
暴君やんけっ‼ 滅茶苦茶暴君やんけっ‼ え⁉ 大丈夫この国っ⁉ そりゃ深刻な声になっちゃうわっ! 父さん、生活に影響ないって言ってたよね⁉ 言ったよねっ⁉
顔も知らない帝に「無茶な政策や他国に戦争を吹っ掛けたりしないでくださいっ!」と心の底から強く願った俺は悪くない。




