僕の女装でメロメロにしてやるぜ! 前編
夏も終わり秋が始まったとある日、僕は友人の和田勝と話していた。
「ああー!!なんであんなこと言ったんだ!」
部室に僕の嘆きが響き渡る。
「自業自得だな。諦めてくだしあ」
僕は頭を抱えてうずくまった。
ーーーーーーーーーー
6月の初めに行われた体育祭。
仮装リレーと呼ばれる種目を応援席から見ていた時のことだ。
入学してすぐに、女装してくれない?っという話を友達から持ちかけられた。
しかし、仮装リレーには参加せず女装もしなかった。
「なんで女装しなかったの?」
不意に友達から言われたその言葉に対して、反射的に
「文化祭で女装するの!ナメんなよ!オマエら全員…僕の女装でメロメロにしてやるぜ!!」
と言ってしまったのだ。
その時は冗談半分で言っていたのだが。
周囲では僕が女装すると言う話が瞬く間に広まっていた。
ヤバいことになった…そう思った頃には手遅れだった。
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「助けて…」
「えっ?ムリだよ〜」
「なんで?」
「だって私に出来ることないし」
「あーあーそうですね!あなた無能でしたものね!!」
「トゲのある言い方やめない?」
「事実!!」
「あっ…手伝わなくて大丈夫?カツラ落ちてるけど」
「ファッ!?」
驚いて下を見る。
足元にはカツラが落ちていた。
「えっ…誰の…?」
「ん?お前のでしょ??」
「知らんぞ俺…まだ買ってないし」
「なんでだよ買えよ」
「買うわ!!今日!!」
「もうそれ使っちゃえば?」
「誰が使ったのかもわからないカツラを使えと?」
「うん」
「よく頭おかしいって言われない?」
「大丈夫!大丈夫!お前よりマシだから」
「はぁ?」
「俺の女装でメロメロにしてやるぜ!って言ったの誰だっけ?」
「お前や」
「ちゃうやろ」
「んだよ!悪ぃかよ!!」
「悪いだろ…」
僕と勝の話を遮るように声が聞こえる。
「うるせぇ…」
「ん…?えっ…どこから?」
僕は声のした方向を探す。
「寝れないだろ!!」
自分の下から声がした。
僕は驚いて下を見た。
先ほどまでカツラだと思っていたそれは人の顔になっていた。
「うおっ!!キモっ!!って…丸山サン!?」
「失礼な!!」
「流石にキモいぞ」
「みなまで言うな!」
僕の真下で寝ていた(?)男は丸山保墻という名前で、僕が机に寄りかかって話していた中。机の下に置いてあったブルーシートに包まり顔だけを机の外へと出して寝ていたらしい。
「待て待て待て」
「なに?」
「いつから?」
「勝ー今何時?」
丸山は机の下から這い出て立ち上がった。
「ちょうど18時だね」
「あーじゃあ、ここ来たの15時だから3時間寝てたわ」
「暇人か?それとも変人か?」
「どっちでも嬉しいわ」
「あー変人の方でしたか」
「そんなこと入学した時から分かってただろ」
「勝の言葉の方が地味に刺さるの何?」
「私の精神病んでるからじゃね?」
「伝染したのか…」
「つまり勝=病原菌ってことー!?(棒読み)」
「おい?灰呶くんさ?流石の私も傷つくぞ??」
丸山がふざけて言った。
「やめて!勝のライフはもうゼロよ!!」
後ろから顧問の先生に声をかけられた。
「そろそろ閉めたいので荷物とか片付けてもらえます?」
「はーい」
散らかっていたものを片付け、階段を降りて外へ出た。
「この後どうするー?」
「ド◯キ寄って良い?ウィッグ買いたいんだよね」
「あード◯キね。良いよ」
「丸山もそれで良い?」
「無線イヤホン見たいし良いよ」
「んじゃ行くか」
今日あったクラスの出来事。
〇〇先生の噂。
そんな他愛の無い話をしながらド〇キへと向かった。
ドンドンドン!ド〇キー!!ド〇キホーテー♪
「ほいじゃ、どこから見るー?」
「先にウィッグから見ても良い?」
「いいよ」
和田がフロアガイドを見ながら尋ねる。
「何階だっけ?」
「3階だったはず」
「3階ならイヤホンもあんね」
丸山はスマホをいじりながらそう言った。
エスカレーターで3階へと登る。
「えっと…どこだ?」
僕はフロア全体をくるーっと見渡してそう言った。
「知るかよ〜!」
和田がツッコむようにして言う。
「パーティ用品とかじゃないの?」
丸山がそう言った。
「いや流石にコスプレ用品とかであれよ!!」
「まぁまぁ、パーティ用品見ようぜ」
「いやまぁ、見るけども」
3人はパーティ用品のコーナーまで歩いた。
「いや…無いんかい!!この流れで無いことある?」
「ま〜そんなもんだろ」
「誰だよ!ウィッグはパーティ用品って言ったやつ!!」
僕は後ろを振り返り2人に向かってそう言った。
「僕は悪くないぞ!あくまで、あるんじゃない?って言っただけで確実にあるとは言ってない」
「丸山さんっていつもそうですね…!俺らのこと何だと思ってるんですか!?」
「…キャ」
「え?聞こえなかったんやけど」
「…陰キャ」
「はぁ!?お前が言えたことじゃないだろ!特大ブーメラン喰らってんぞ!!」
「やめて差し上げろ」
「勝もそんな心にも無いこと言ってないで丸山に何か言ったれよ」
「えぇ…(困惑)」
「ってか、唐突に〇夢語録ぶち込むなよ!!」
「丸山さんってこの前、自分で陰キャって言ってましたよね?」
「うぐっ…だ…黙れ!」
「そういや、前に俺と買い物行った時に陰キャだから店員と話すの苦手だって言ってたよな?」
「黙れ愚民ども!!!彼女いないくせに!!」
「くっ…ぐうの音も出ねぇ」
「勝くんってBLに生きる存在だからしょうがないよね…」
僕はそっと和田の肩に手を置いた。
「その話やめてくれ…まじで…本当に…」
和田は顔に手を当てて、そのようなことを呟いた。
「あっ…隣のコスプレのとこにウィッグ売ってるじゃん」
丸山が指を差してそう言った。
「マジで?」
「マジ」
「やっぱ俺が言った通りコスプレ用品じゃねぇか」
「いや〜そんな気してたわ」
「だったら勝もコスプレ用品って言ってくれれば良かったじゃん」
「知らない知らない、私かんけー無いもん」
「大アリだっつの!同じ部活でしょーが!」
丸山が言った。
「その同じ部活だからって括り無しにしよう」
「なぜに?」
「お前らと一緒にされると僕のキャリアに傷がつく」
「はあァ?ガキがよ〜イキってんなよ…キャリアとか社会人になってから言えよ」
僕は軽く睨みながら丸山へそう言った。
「まぁまぁ、とりあえずウィッグ見ません?」
和田が落ち着かせるように言った。
「黙れ短小」
気が立っていたことも相まって僕は和田にそう言ってしまった。
「あっ…悪い…」
次の瞬間、和田の姿勢が低くなり力を溜め込むようにして重心を落としていた。
その所作の意を理解しようとした瞬間。
和田の足元を見ようとした刹那ーーー
和田の姿は視界から消え右脚の爪先が僕の股間へと達していた。
ドスっと鈍い音を立てて僕は崩れ落ちた。
「グッ…………!!」
「これはお前が悪いな」
丸山が僕に向かってそう言った。
「柔道部が前蹴りして良いのでしょうか良いや良くない(反語)反則だろ!!」
「元な!元!もう柔道部じゃないからな私」
「ま…まぁ見よかウィッグ」
「大丈夫そ?」
「お前な〜自分からやっといて心配すんなや」
「大丈夫そうやね」
「めっさジンジンする」
それを聞くと和田は笑っていた。
「ウィッグ選んでよ丸山〜」
「ゆうはどんなのが良いの?」
「黒のロングかな?」
「お前さ!初心者がロングとか無理に決まってるだろ!流石に舐めすぎ!!」
「何なら良いんだよ」
「無難に小悪魔ミディにしとけよ」
「小悪魔ミディ?」
「これだよこれ」
丸山は二つのウィッグを手に取り、こちらに見せてきた。
「ブラック&ゴールドかブラック&パープルしか無いみたいだね」
「丸山だったらどっち?」
「僕ならブラック&ゴールドかな?」
「ふーん、ならブラック&パープルにするわ」
「えっ?なんで?」
「お前の逆を行きたい派なんで」
「うわっ!めんどくさ!!」
「シンプルに自分の好みだよ!!」
「勝もこれで良いと思う?」
「ええんやない?」
「おっけ、これ買ってくるわ」
3人は1階のレジへと向かった。
「こちらのウィッグって文化祭か何かで使うんですかー?」
レジ打ちをしていた店員に話しかけられる。
「そうなんですよ。部活の方で使うことになりまして…自費なんでちょっと嫌なんですけどね!」
「この時期って珍しいですよね!」
「そーですね。この辺りの高校にしては遅いですね」
「1点で4280円になります」
「すいません小銭なくて…5000円で」
「はーい大丈夫ですよ。5000円のお預かりでお釣りが720円ですね。こちらレシートとお釣りになります」
「ありがとうございます」
「じゃあ、文化祭!!頑張ってくださいね!!」
「はい!」
僕は会計を終えて2人の元へと向かった。
「え〜何あの店員」
「どした?」
「めっちゃ話しかけられたんだけど」
「例えば?」
「文化祭ですかー?とか頑張ってー!とか」
「まぁこれで趣味とか答えてたら変態だもんな」
丸山がそう言ってきた。
「普通に心配だったんじゃない?」
和田がそう言ってフォロー(?)してきた。
「えっ何?不審者ってこと?」
僕が意味を履き違えてそう尋ねる。
「うん」
それに対し肯定する丸山。
「酷くね?」
「まーまー」
「しゃーない」
「これが男子高校生の運命か…」
少しカッコつけて僕はそう言った。
「まぁ帰るか」
「そうだな」
「スルーかいな!!」
丸山に言われて帰ることとなった。
「ってか、まだ痛いんですけど」
「どこが?」
「えっ?〇玉に決まってるだろ」
「言わんで良いわ!」
「いやー普通に金的してたわ。ごめん」
「まぁ良いけどさーこれでEDとかになってたら最悪やん?」
「えぇ…乙じゃん」
「オメェな!」
3人の中に笑いが生まれた。
「んじゃ!今日はありがとな」
僕は駅の改札で2人と別れた。
電車に乗って家まで帰る。
ブレザーを脱いでハンガーにかける。
ベルトを緩めてワイシャツのボタンを外す。
ズボン脱ぎ壁に引っ掛ける。
ワイシャツを脱いで畳み、他の洗い物と重ねる。
白シャツの上からダボっとしたパーカーを着て、もこもこのズボンを履く。
寝室へと向かった。
「はぁーっ!疲れたぁ!!ウィッグの調整とか明日で良いや…」
僕は布団に飛び込み、そのようなことを言った。
ーーーーーーーーーー
ほのかに潮の匂いがする体育館…バスケの試合が行われるようでかなりの人数が居た。
「今日の試合…頑張ろうね」
1人の女の子に声をかけられる。
「へ…?試合!?」
女の子に対して返答をする。
(あれ…?声高くない?自分の声じゃ無いみたい)
「どうしたの?ゆうちゃん」
「どうしたのって…試合だよ試合!なんの事だかさっぱり分からないし、大体どこと戦うのさ!」
「今日の相手は⬛︎⬛︎高校の男子バスケ部だよ」
(肝心の高校名が分からなかった…しかも男子!?男子って言ったよね?この子)
「おざーっす!」
「あっ!来たみたい」
(女子対男子とか…しかも何かと接触の多いバスケで!?馬鹿げてる…)
黒のユニフォームが女子、白のユニフォームが男子で試合が行われるらしい。
(なんで俺…スタメンなんだよ)
「さぁー!!みんな勝つぞ!」
「おお!!」
ピー!っという笛の音で試合が始まった。
試合は初っ端からハイペースで互いに点数を重ねていた。
女子の方は中へは入らずにスリーで得点を。
男子の方は中へ入りレイアップやフックシュートのような技で得点を取っていた。
「ゆう!」
僕の手にボールが収まる。
軽く爪先立ちをしてから深く沈み込む。
昔から人より手の小さかった僕は両手打ちじゃ無いと安定しなかった。
ジャンプすると同時にボールが放たれる。
放たれたボールは綺麗に弧を描いてゴールへと吸い込まれた。
「しゃあっ!!」
いつの間にかアツくなってる自分が居た。
先ほどのように深く考えることはやめた。
今はただ…この試合…このプレーに全てを注ぎたい。
自分の一挙一動が快楽に変わって分泌される。
この時間がもっと続けば良いのに…
ピィーーー
審判の笛が第2Qの終わりを告げた。
「おいおい見たかよ今の」
「ああ…」
「センターラインよりも遠くから入れるとか…何者だよあの女」
僕は相手チームが話しているところに割って入った。
「そっちこそ!ダブルクラッチとかフックシュートとかテクいことしやがって!!私に比べりゃ下手だけどな!」
「はぁ!?なんだ急に」
「いやさ、私のシュート見て戦意消失してもらっちゃ困るから…褒めてやろうかと」
「……あれで?」
「うん。そうだけど?」
「下手か!色々」
「褒めるって言うより挑発とかに近かったぞ!」
「まじか〜」
そんな会話を遠目に見るチームメンバー2人。
「あの子すごいわね。会って間もない人達あんなこと言いに行くだなんて」
「ま〜そこがあいつの良いとこじゃん?」
「そうなんだよ。そうなんだけどさ〜向こう男だよ?異性だよ?」
「桜の気にしすぎだって!もっと気楽に行こーぜ♪」
「紗夜…私あんたのそのマイペース思考きらい」
「…そりゃどーも」
僕はそんな会話をしている2人の方へと向かった。
「私の水…取ってもらえます?」
「はいよ」
そう言ってボトルの中の水を頭からかけられた。
「ひゃっ!ちべた!!!」
びしょ濡れになった私を見て紗夜と呼ばれていた人が腹を抱えて大笑いした。
「まーた。こいつはそうやって悪ノリする」
桜と呼ばれていた人が僕の頭にタオルを乗せてそう言った。
「だってさ〜無駄にアツくなってたんだもん。クールダウンだよクールダウン」
「だとしても限度があるでしょうが!!」
(なんかこの訳の分からない感じどこかで…1年前にも似たようなことがあったような?)
「あなたもボーッとしてないで、渡したタオルで頭を拭け!」
「はい…」
(あーあれだ!英語のテスト返ってきた時の夜に見た夢だ!!いやースッキリスッキリ)
その事を思い出した瞬間…地面が黒く歪み体が沈み落ちた。
「えっ…今度は何?」
目の前には僕に向かって土下座をする男の姿があった。