第2章 魔術師たちの夜のために1
「おはようございまーす!」
元気のいい青年の声が部署に響く。一番の若手、藤田良樹だ。
「ああ、おはよう」
「おはよう、良樹」
部署にはすでに玲香と幸也がいた。
「あれ?洋子さんと君彦さんは?」
「二人とも七海のところに行ってるよ」
「了解です」
良樹が部屋から出ていくのを玲香が声をかける。
「今日は2人についていくのか?」
「はい。まだまだ未熟者なので」
そういうと足早に部屋を後にした。良樹は今年は言ったばかりの新人で、魔術師として覚醒したのも去年とのことだ。警察としても魔術師としても未熟な彼はだれかと行動するではなく、いろいろな人についていくという形になっている。
「さて、私たちは待機なわけだが」
魔術局は基本的に2人で行動する。理由は様々あるが、魔術という一般の人々にとっては未知の力である。そのため何かあってもいいように2人以上で行動することが義務付けられている。
「何もないなら、それがいいじゃないですか」
幸也がコーヒーを入れて二人で飲む。ゆったりとした時間が流れる。
「あのー、魔術局の方はいらっしゃいますか?」
魔術局の部署に気弱そうな、若い女性が入ってくる。
「はい、俺たちがそうですが」
女性は安心したような顔をする。
「実は魔術局の方のお力をお借りしたくて」
「何かあったんですか?」
「実は」
話を聞くと、彼女は遊園地の職員らしい。どうやらアトラクションの一つであるお化け屋敷に本物の幽霊が取り付いてしまったのではないかとの話だった。
「本物の幽霊、ですか?」
「はい、お客様の中に本物の幽霊を見たという人が最近増加していまして」
幽霊自体は存在する。しかし、そういった存在は本来魔術師や魔術師の素養があるものしか見えない。そういった人が増えてはいるが、多くの人が見えるという状況はおかしい。
魔術師でない人でも見える状態だとするとそれは魔力浸食が起きている状況ということになる。
「もしかしたら、魔力浸食が起きている可能性がありますね。わかりました、見に行ってみましょう」
玲香と幸也はその遊園地に移動することにした。