第1章 公安警察魔術局7
「今のは、彼女の記憶?」
玲香と幸也は真っ白な空間にいた。そこにあるのは二人と、枝が複雑に絡み合って球状となった木のようなものだった。
「来ないで!私を殺してもまだ足りないの!」
女性の声。それは木の球から聞こえる。
「私たちは公安警察魔術局です。話を聞かせてください」
「警察?魔術局?」
二人は球に近づいていく。
「私たちはあなたを傷つけに来たわけではありません。むしろあなたを助けに来ました」
球から返答はない。ただ、枝の絡み方が少し弱くなったような気がする。
2カ月前、学生2人が何者かに殺される事件があった。その犯人は捕まっていないどころか容疑者一人として挙がっていなかったが、そうか、この子が。
「紫陽花の下に埋まっている貴女を掘りおこさせてください。きちんとあなたを埋葬するために」
「あの男は死にましたか?」
玲香の言葉には答えず、代わりに質問が飛んできた。
「横島一矢と青木真司の二名が死亡しています。あの男というのはそのどちらか、ですか?」
「一矢、そう」
絡まりがさらに緩む。
「魔術師は、悪なんでしょうか」
二人は顔を見合わせて黙ってしまう。
「なぜ、魔術師になったというだけで、こんな仕打ちを受けなければならないんでしょう。なぜ、殺されなければいけなかったのでしょう」
二人には答えられなかった。二人とも魔術師の家系の出だ。そんなことを考えたことはなかった。
「魔術は悪魔の力なんでしょうか。私が使っているのは、悪魔の力なんでしょうか」
「そんなことはありません」
幸也が答える。それには答えることができる。
「いま貴女と話をしているこの力はルーン文字のアンスールというものです。そして、それは北欧神話のオーディンを表す文字でもあります」
「オーディン、神様の?」
「ええ、だから、俺は魔術というのは神が与えた力だと考えています」
「私のこの魔術も?」
「ええ、きっと」
枝が緩む。中から女性が現れる。
「私のこの力はいけないものだと勝手に思い込んで、だけどそう思うほど力が暴走して」
助けを求めたいけど、何かを思うと魔力が暴走して、専門家の人々に悪影響を与えたようだ。
女性は二人を見つめて言う。
「どうか、私をお願いします」
二人の視界は再びホワイトアウトした。