第2章 魔術師たちの夜のために9
歪みが戻ると、そこは廃ビルの一室のようだった。
「あぁあ、壊されちゃった」
茨に拘束されたまま、男が悪態をつく。
「あなたを監禁の現行犯で逮捕します」
火傷の痛みに耐えながら玲香が近づく。
「逮捕?僕を?」
男が腕の蛇を使い、茨を食い破る。
「まあ、とりあえず実験は成功したし、君たちの魔術も見れたし、良しとしようか」
男がどこから取り出したのか、ナイフを掲げる。
「あれは、あの時の!」
遊園地で転移の魔術を使ったやつと同じものだ。
「また会おうね、魔術局の皆さん」
ナイフを地面に突き刺し転移魔術を使用する。
「待て!」
二人の魔術が届く前に、男は姿を消してしまった。
「また、逃がした」
とはいえ落ち込んでいる暇はない。麻薬中毒の症状が出ている彼らを病院に搬送しなければならない。
玲香が応援を呼び、まともに動くことのできない人たちを運び出す。
「あの、私は」
詩織が自分はどうなるのかを聞いてきた。
「症状が出ていないとはいえ、無理やり摂取させられているので病院で検査しましょう」
応援に来た人のパトカーに乗ってもらい、病院に行ってもらう。玲香と幸也は楓恋とともに搬送された病院に行く。
「特に問題はなかったと」
病院での検査を終え、薬の反応が出なかった詩織を連れて警察署に移動した。
「はい、いろいろ検査をしましたが、すべて陰性だったそうです」
「薬を飲まされたのにか」
今回の事件で唯一無事であった詩織に話を聞くことになった。
「あの男は何か言っていましたか?」
「特には。ただ、あの薬を飲まなければ殺すと」
彼女から回収した薬は科捜研に回して調べてもらっている。
「あの人は薬を渡す時だけ現れて、そのあとまたどこかへ消えていきました」
「名前とかは」
「名乗っていませんでした」
玲香が考え込む。
「なぜ、君には薬の効果がでなかったのか」
「効果が出なかったからあの男は欲しがったのでは?」
「なぜ?」
「それはわかりませんけど」
幸也が首を振る。
とはいえ、彼女からこれ以上聞いたところで何も知らないだろう。
もし、何かあったら頼ってほしいとだけ言って彼女を送り出した。




