第2章 魔術師たちの夜のために4
「魔力浸食、恵さんがトリガーになってしまったのか」
幽霊は言ってしまえば魔力の塊だ。魔力が臨界ぎりぎりのところに幽霊の魔力が取り込まれた。それにより魔力浸食が起きてしまったのだ。
「これは、急がないとですね」
正直魔力浸食に取り込まれた幽霊が助かるかはわからない。だが、確認もせずあきらめることもできない。
「道は塞がってないな。走るぞ!」
目だらけの通路を走り出す。壁の目は2人をぎょろりと見ているようだ。
しばらく進むと行き止まりにたどり着く。
幸也がウルを使い、自身の力を上げる。拳が壁にめり込み、べちゃりという嫌な音がする。そのままイスで氷塊を作り出し、壁をこじ開ける。
やはりというか、広い空間につながっていた。
「おやおや、私はだれも招待していないはずなんですが」
中にはローブを被った若い男がいた。
「公安警察魔術局だ」
「魔術局、ああ」
男は二人を一瞥すると、口角を上げた。
「なるほど、魔術師の方ですか。もしかして、私の手伝いをしてくれるんですか?」
「何を言っている。この魔力浸食を止めさせてもらう」
男はわかりやすく落胆したようなしぐさをする。
「それは残念だ。最近はおかしな幽霊のせいで魔力が集まらなくてどうしようかと思っていたんですが」
男が立ち上がる。2人は魔術を構える。
「その幽霊が取り込まれてようやく完成かと思ったら、どうやら失敗のようです」
「失敗?」
「お前は何をしようとしている」
男は不気味に笑う。
「見方でもない奴に言うわけないじゃないですか」
2人は警戒を解かずに男を凝視する。しかし、男は魔術を使うそぶりを見せない。
「でも、そうですね。このくらいは言ってもいいか」
男が大げさに腕を広げる。
「すべては、魔術師たちの夜のために!」
「魔術師たちの夜?」
玲香が繰り返すが男は答えない。
「まあ、ここは捨ててもいいか。このくらいの魔力があれば行けるだろう」
男がナイフを取り出す。足元に魔法陣が現れる。
「また会いましょう。公安警察魔術局の皆さん」
「待て!」
玲香がカードを投擲するのと同時に男がナイフを魔法陣に突き刺した。
激しい発光。玲香と幸也が目をつぶっているといつの間にか男はいなくなっていた。
「転移魔法、逃げられたか」
周りを見てみると先ほどより空間が小さくなっているように思う。空間拡張の魔術も解かれたようだ。
「あ、お二人とも」
声の方をみると恵が壁をすり抜けてこちらにやってきた。
「あ、よかった、無事だったんですね」
「はい、何とか完全に取り込まれずに済みました」
とはいえ、ずっとここにいるわけにもいかない。
二人は恵を伴い、職員の女性の元へ戻る。
ことのあらましを説明し、恵のことを話すと、恵を遊園地の魔術師として雇うと言ってくれた。
「お化け屋敷をもっと怖くして見せます」
「ほどほどにお願いしますね」
幸也達はまた来ると約束をして遊園地を後にした。
「魔術師たちの夜のために」
玲香は男の言った言葉がずっと引っかかっているようだった。




