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9 エルニアン王国のパーティー

 その日、アランソン伯爵家では封筒を持ったデボラが大はしゃぎしていた。ついさっき、王室の封蝋が施された美しい招待状が届いたのである。


「王宮パーティーの招待状が来たわ! 国王陛下の長寿をお祝いするパーティーですって。初めて王宮に行けるわね!」

「ははっ、マジか! 俺は三男だから王宮のパーティーになんて出たことないぜ。親父だってたまに呼ばれるくらいでほとんど行ったことはないはずだ。兄弟の中で俺が一番乗りだぜ、ざまあみろ」


 ドナルドは上等なワインを開け、グラスに注いだ。


「ああ、若く美しいうちに伯爵位を継げて良かったわ。着飾る甲斐もあるってものよ」

「こんなに早く伯爵になれたのは俺の計画のおかげだろ? 伯爵の夫として、大事にしてくれよ?」

「わかってるわよ、ドナルド。愛してるわ」


 二人はキスをして、祝杯を上げた。


「新しいドレスを作らなきゃ。イヤリングも、ネックレスも手袋も!」

「俺の燕尾服も新調してくれよ。女伯爵様の夫に相応しく飾りのいっぱいついたやつをな。せっかくだからモーガンで作ってくれよ」


 するとデボラは急に険しい顔になりドナルドを睨みつけた。


「何言ってるのよ。モーガンなんて王室御用達のテーラーよ。値段の桁が違うのよ。あんな所で作れる訳ないじゃない! 私だって、ドレスは上流貴族が通うリンメルで作りたいのを我慢してるのに!」


 キーキー怒り始めたデボラを、ドナルドは平謝りで宥めた。


(まったく、癇癪持ちの女は困るぜ。金ヅルの伯爵様だから我慢してやってるんだ。だがもう少しの我慢だ。帳簿をちょいと誤魔化して俺の自由な金が増えたら、すぐに素直で可愛い平民の愛人を囲ってやる)


 ドナルドはその日を妄想しながらデボラの怒りが収まるまでひたすら謝り続けていた。





 そして、いよいよパーティー当日。そこそこの店でそれなりに仕立てた服で、デボラとドナルドは意気揚々と出掛けた。


 初めて訪れる王宮の豪華さに二人は圧倒され気後れしてしまった。あちらこちらでマナー違反をやらかしながらもなんとか見よう見まねで上手くやっているつもりであった。


「凄いぜ、食べ物の豪華さは。さすが王宮だな。肉も柔らかいし見た事ないものがたくさんあったぜ」


 皿いっぱいに食べ物を盛って戻って来たドナルドは口の中にも詰め込み過ぎてリスのように頬が膨らんでいる。


「ちょっと。食べながら喋るのは流石にマナー違反よ」


 そう注意するデボラの方はウエイターが持っていたシャンパンを何杯も受け取り飲み干していた。


「王宮のシャンパンは美味しいわ。ワインも楽しみね」


 その時、ラッパが高らかに鳴り、王族の入場となった。


 談笑していた貴族達は皆壁に沿って整列し中央を開ける。王族がそこを通って入って来るのだ。デボラとドナルドも他の貴族に倣って壁際に下がった。

 優雅な音楽の流れる中、エルニアン国王夫妻、そして王太子夫妻。その後に成年王族や他国の王族が続々と入場した。


 王族のドレスに興味津々のデボラは、じっくりと全員の身につけている物を眺めていた。


(やっぱり、生地やデザインが一味違うわね。よく覚えておいて、似たようなものを次のドレスで作りましょう)


「続きましてガードナー王国よりお祝いに駆けつけて下さった王太子アーネスト殿下、及び婚約者メアリ・ペンブルック様のご入場です」


 ひときわ若く美しい王太子と婚約者の女性が入って来た。観衆も思わずほうっと声を上げるほど絵になる二人だった。


 女性の着ているクリーム色のドレスは華奢な身体のラインを出しつつ腰から下はふんだんにフリルとレースを使い後ろに向かってボリュームを出していた。胸元を彩る宝石は大きなエメラルドをたくさんのダイヤモンドで飾りつけた贅沢なものであった。


(あのネックレス素敵だわ。あんな大きな宝石を使ってるなんて羨ましい。ドレスも豪華だし、さすが大国ガードナーの王族ね)


 ドレスと宝石に目が釘付けになっていたデボラは、ドナルドに何度も肘でつつかれたことに苛立ちパッと振り向いた。


「何よ?! うるさいわね」


 せっかく楽しんでいるのに、と睨み付けたドナルドの顔は死人のように蒼白だ。


「ガードナーの王子が連れてる女を見ろよ……あれ、ベアトリスだ」

「何ですって?」


 ドレスばかり見ていたから気が付かなかった。婚約者の顔を見ると確かにベアトリスだった。ストロベリーブロンドに緑の瞳。あの時、崖から突き落としたはずの妹。


「ひっ」


 声を出したデボラはその場から二、三歩後ずさり、周りにいた貴族達は不思議そうに彼女を見た。


「どういうことなの。なんであの子がここにいるの」

「知るかよ。まさか助かっていたのか?」

「でも、違う名前だったわよね。他人の空似よ。きっとそうだわ」


 二人は怯えながらもあれは他人だと思うことにした。そう思い込まないとやってられない。


 パーティーは粛々と進行していき、乾杯や祝賀の挨拶など行われ、やがてダンスの時間となった。


 アーネスト王太子と婚約者が踊ると皆がその優雅さ、美しさに感嘆していたが、一部の貴族達は二人を見てヒソヒソ話を始めていた。


「あの婚約者の女性は、少し前に死んだはずのアランソン伯爵家の令嬢に似ている」


 その噂はさざ波のように広がっていった。





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