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北風のやり方

「北風と太陽がひと勝負した」


「……なんの話だ?」


 天上には赤黒い空が寂しく広がっている。時折、かつて城だった瓦礫が転がり落ちる音がするのみだ。


「まぁ聞けよ。道行く旅人の外套をどちらが脱がすことができるかっていう勝負だ。北風は激しい風を起こしたが、旅人はよけい強く着込むばかり。太陽がやさしく暖めたら旅人は自ら服を脱ぎだした。なんでも力任せはダメっていう教訓だな」


 男は髪をかきあげ、眼前に横たわる巨躯に目を下した。

 悪鬼王ダセルギャバン。第六三〇五世界の覇者で、第一世界『地球』の征服を企み、ここ辺獄(リンボ)まで進軍してきた。軍勢は数千を超え、ひとりひとりが地球の軍隊相手に無双できる力を持つ。さらに本国には数億の兵士が存在し、地球の本部が出した脅威レベルは7。地球史上10度目の最高値だ。


 その脅威が、たった一人の男によって潰えようとしている。


「ふとこの話を思い出してな。俺も太陽に倣うことにした。このままお前らを葬り去っても、地球(うち)に対する抵抗はますます強くなるだろう。そこでだ。どうだ悪鬼王、まだ息のある部下が二百ちょいいるだろ。生かしてやるから、そいつらと一緒に帰ってくれないか」


「ほざいてろ。元の世界には我輩よりも強い妻と、将来有望な息子たちがいる。我輩の無念はきっと晴らす。誰が退くものか」


 胴体中央が大きくえぐり取られ、息も絶え絶えだが、異界の覇者は仇敵を睨みつけた。

 だが、話を持ち掛けた男は、なお飄々としてつづける。


「だよな。ここで太陽の出番だ。お前らが自然と帰りたくなる理由を用意した」


 そう言いながら腕をのばし、ゆっくりと手をひらいた。するとそこにあったのはリンゴほどの球体。


「たしかにお前よりも強かった。まだあるぞ」


 もう片方の手からも似たような球体がこぼれでる。明らかに手中に収まるサイズではないが、開かれた手のひらから、あふれ出るようにいくつもの球体が悪鬼王のえぐれた腹の中に転がり落ちた。

 ぶにぶにとしたそれは


「配偶者さんと子供さん方、それからお国のみなさん全員分の目玉(・・)だ。死人に必要なさそうだから持って帰ってきた」


 男が指を鳴らすと空から大量の目玉が地上に降り注がれる。目玉は落下の衝撃で弾け、ぐちゅぐちゅと音をたてる。

 男の顔は愉悦に歪み、先ほどまでの穏やかな態度から一転、悪魔のような笑い声をあげた。


「ギャーハハハハ! 恥ずかしがるなよ! 逃げ帰っても誰も責めはしねぇーンだからよ! ほら、のびてる部下にも伝えてやれ」


「おのれ、貴様ァアアアアアアアアア!!」


 悪鬼王は憤怒の力を全身にみなぎらせ、命を燃やして最後の攻撃を放とうとした。

 しかし次の瞬間


 ビシャッ


 その巨躯は三千に刻まれ肉片が吹き飛んだ。



「んー、やっぱり俺は北風向きだな」


 男が腕を一薙ぎすると、目玉の雨は血の雨へとかわった。

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