9.冒険者シモン
冒険者達は私を可愛いがってくれた。だが、私が吸血鬼だと、彼らは知らない。彼らが私の正体を知ったら・・・・・・
「それにしても、アリスちゃんは教団の人だったのか?」
「はい、昨日なったばかりですけど」
「ふーん、まぁ、あんな大変な事になったし、助けたのは教団だから、
わからないでも、ないか......
ところで、あの黒ずくめの男とアリスちゃんは付き合ってるなんて事は無いよな?」
私は顔がかー、と熱くなった
「な、なんて事言うんですか?
私達、そんな関係じゃないです」
「じゃ、その胸は俺のものだな」
ごん
私はシモンさんを殴っておいた
「だから、これは私の胸です」
「待て!」
突然シモンさんが喋りが真面目に変わった
「探知魔法に感ありだ」
「敵ですか?」
「ああ、数は20はいる」
「それなら、勝機ありますね」
「ああ、俺達Sクラス冒険者団にとって、獣人20匹位なら余裕だ」
「馬車を止めます」
副団長のトーレさんが馬車隊を止める様だ
「頼む」
みんな迎撃戦だ。打ち合わせ通り、持ち場につけ」
「アリスちゃんは司教様の馬車へ移動してくれ」
「私も、戦います」
「駄目だ。アリスちゃんは教団の人間だ
なら、俺達の警護対象だ」
「わ、わかりました」
もちろん、嘘だ
村の人をたくさん殺した奴らの仲間に復讐出来る機会を黙って見ているつもりはない
一旦、大人しく司教様のところへ行って、どさくさに紛れて参戦しよう
「皆さん、ご武運を!」
「ああ、アリスちゃん、任せてくれ」
だが、私達は大きな間違いをした。敵は獣人だけ。そう思ってしまった
私は一旦司教様の馬車に向かったが、先ずは探知の魔法を使った
シモンさんの常時探知する上位魔法では無い
一瞬、魔力を探知するだけの魔法だ
アーネ先輩からもらった魔法だ
『大丈夫だ』
獣人の数はシモンさんの言う通り、およそ20体、そして伏兵はいない
それに、転移の魔法が使われた形跡が無い
獣人達はものすごいスピードで私達の馬車隊に接近してくる
転移の魔法があれば、いきなり目の前に現れての奇襲になる筈だ
よし、司教様の馬車は安全だと思った
司教様の馬車には2名の冒険者が守るだけだけど、彼らの出番は無いだろう
「御二方、司教様をお願いしますね」
「ちょっと、アリスちゃん、何を言ってんの?」
「私も獣人やっつけるんだからね」
私は走った。人の数十倍の速度で
シモンさんは指揮をとっていた
「トーレ、右翼の指揮は任せる
前衛、防御陣、後衛、支援魔法詠唱開始」
獣人達が相対する距離になり、お互い武器を構える
「驚いたぜ。女が混ざっているぜ
後が楽しみだぜ」
「お前ら殺すなよ。女は死に間際に犯すのが最高だからな
その楽しみをとっておけよ」
「なぶって殺すのもいいぜ」
「いや、死んだ後、犯すのが一番だぜ、死に顔見ながらするのは最高にたまらん」
「何をなんだ!
こいつら、鬼畜か!
ていうか、なんでアリスちゃんがここにいるんだ!?」
「シモンさん。私、行ってきま〜す」
「な!
アリスちゃんダメだ」
「私、我儘なんだからね」
トン
軽く地面を蹴る、シモンさんは驚いただろう
私は空高く飛んでいた。そして、獣人に接敵する
着々がてら、奥義を放つ
『雷神剣!』
マスターからもらったオリハルコンのショートソードで獣人達を薙ぎ払う
グシャグシャグシャ
私の剣の一閃で5体程の獣人が木っ端微塵になった
「うぎゃああああああ」
「ふぎゃああああああ」
「たり〜 〜〜 〜〜 〜〜 〜」
「かんがえるーのめんどーい」
私が込めた雷撃の魔法は他の獣人を感電させ、体を硬直させる
ずささささささ
ヒュン、ヒュン
私の剣が風を切り、一瞬で更に5体程の獣人を惨殺する
「とんでもないのが混じってるな!」
「誰?」
私は声の主を探した
一番最後尾にそいつはいた
『獣人じゃない!』
「アリスちゃん気をつけろ!
そいつはワーウルフだ!」
ワーウルフ、吸血鬼の眷族。狼の姿をしているがバンパイアに近い
こいつも不死身だという事だ
「お前は俺が相手しよう。全く、話しが違う。司教の警護は冒険者だけと聞いてたからな」
「望む処よ
ブッチめるんだからね」
私は地を蹴ってワーウルフに急進する
ザザザザザザー
草原の草が私の動きに合わせて音を奏る
両手で剣を構えると
シュンシュンシュンシュシュシュ
剣戟を放つ、だが、
『全て避けられた!』
そして、ワーウルフの剣が私を捉えた
だが、避けない。敢えて受けた時、隙が出来る筈
ワーウルフの剣が私の脇腹を斬る
ブシャー
血飛沫が飛び散る
構わずワーウルフの左腕を斬り飛ばす
シュン
左手が飛んでいくが、
『!?』
ワーウルフは構わず、私に右手で剣戟を放った
速い、私より速い
シュンシュンシュンシュン
一瞬で私の両手は斬り飛ばされ、そして私は空に飛んだ
いや、また、首を撥ねられたのだ
ワーウルフの勝ち誇った声が聞こえる
「不死身の俺に油断したのが悪い!」
確かにその通りだ
とん
私の首が地面に落ちた音だ
「ア、アリス、アリスちゃーーーーーーーーん!」
シモンさんの絶唱が聞こえた
私の視界は真っ赤になった
ワーウルフは私を放置して前に進もうとしていた
『・・・・・・だから痛いじゃ無いの!・・・・・・』
「な!
なんだとー!」
後ろを振り向いたワーウルフは驚愕の顔をする。
未だ、胴と首は離れたままだ
だが、血が繋がり始め、前と同じ要領で両手と頭をくっつける
「本当に痛いんだからね
一言、言わせてもらうわ」
「な、な!」
『生まれて来た事を後悔させてあげるんだからね』
私は首が少々斜っているのも気にせず、剣を構えてワーウルフに斬りかかる
シュン
一瞬でワーウルフに私の右手を斬り飛ばされる
だが、
『バーストロンド』
私は炎の魔法を唱えた
「うぉおぉおぉおぉおぉー」
ワーウルフは灼熱の炎に焼かれる
私は構わず、自分の炎の魔法の中に入った
そして、左手でワーウルフの首をヘッドロックして
バキバキバキバキ
ワーウルフの首を力強くでもいだ
「あ、あぎゃゃゃゃゃゃー」
ワーウルフの断末魔の声が聞こえる
更に。回復した右手で、ワーウルフの左胸に手刀を入れる
あっさり、手刀はワーウルフに吸い込まれた
そして、手に感じた
『これは?』
・・・・・・右手に感じたのは鼓動、心臓の
私はかなり、凶悪な、顔になっていただろ
私は心臓を握り潰した
グチャグチャグチャ
そして、潰れた心臓をワーウルフから抉りだした
ボロボロの心臓を放り投げると
私はみんなの方を見た
既に残りの獣人は5体程だけだ。残りはシモンさん達が仕留めたみたいだ
ザンザン
私は後ろから、獣人を2人を瞬殺した
そして、残り3体はなす術もなく、シモンさん達に滅ぼされた
私はシモンさん達に近づいた
すると
ざっざざざざ
何人かの冒険者が後ずさった
「「ひ、ひぃ!?」」
何人かの冒険者が悲鳴をあげた
『もう、前の様に構ってくれないかもしれない』
そう、思った
しかし、
『アリスちゃん、ありがとう。助かったよ』
シモンさんは笑顔でそう言ってくれた
私の頬にすーと涙が伝わった
嬉し涙だ。悲しい涙はいっぱい流した
でも、嬉し涙なんて初めてだ
「駄目じゃないですか、団長、女の子泣かせて」
「いや、ツイな」
「シモンさん。ありがとう」
「惚れてもいいんだぜ」
「それは遠慮しておきます。貞操に危険を感じます」
「なんだよ。ここは惚れてくれれば、役得なのにな」
もう、シモンさんはいい加減で、すけべで・・・・・・
優しいんだから
私はもっと泣き出してしまった
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