5.イスカリオテ教団第13機関
私はギルドの惨状に驚いた
私はマスターに従って村の冒険者ギルドに向かった
理由はわからないが、漆黒の戦士を私はマスターと自然に呼んだ
ついさっきまでの自分が信じられなかった。獣人は人間によく似た生物だ
体は人間そっくり、頭部だけが獣の生き物だ
人間そっくりの生き物を私は惨殺した。以前の私にあんな事ができたのだろうか?
人間そっくりの上、話す事ができる生き物。そして、命乞いする彼らを私は惨殺した
私は既に人間ではないんだろう。私は変わってしまった。そう思いたい
「マスター、ギルドはどうなったんですか?」
「ギルドは壊滅した。生き残ったのはギルドマスターだけだった
私がギルドに着いた時にはほとんどの冒険者が息絶えていた」
「どうしてマスターはこの村を助けてくれなかったんですか?」
「転移の魔法を使うとは思わなかった
奴らのアジトは叩き潰したんだが、半分以上の戦力が既にこの村へ転移されていた」
「そ、そんな」
「すまない。私の手際が悪かった」
「......そんなマスターのせいでは無いですよ......」
私は言えなかった。本音はマスターを責めたかった。親しい人が死んでしまったから、
でも、マスターが悪い訳でもない事位はわかった
アイツらが悪い。この村を襲った獣人とそれを指揮した奴
私には吸血鬼の力が宿った。この力でアイツらに復讐してやる
「冒険者、お前には我が主に会ってもらう
吸血鬼が人間の世界で生きるには人間の助けがいる」
「わかりました。マスター、でも、私にはアリスと言う名前があるんですよ」
「わかった。アリス、これからアリスと呼ばせてもらう」
いきなり、男性から呼び捨てにされるのに戸惑った
以前は先輩と家族だけだった
でも、マスターには抗えない事はわかった
多分、私を吸血鬼にしたのがマスターだからだろう
「私はヴラドだ。呼び方は任せる」
「ハイ、わかりました。マスター」
しばらくすると、ギルドに着いた。いつものギルドではなかった
活気は無く、建物はボロボロだ
「入るぞ、ショックを受けると思うが......」
「はい」
ギルドに入って
?!
私の目に入ったのは惨状だった。みんな知っている人ばかりだった
そして
「ベアトリスさん!?
ベアトリスさん。そんな、なんでベアトリスさんが!」
信じられなかった。受付嬢のベアトリスさんまでもが、剣を携え息絶えていた
生き残ったのはギルドマスターだけの様だ
ギルドは冒険者だけでは無く職員迄みんな死んだ
「アリス、生きてたのか?
良かった」
ギルドの奥から声をかけてくれたのは満身創痍のギルドマスターのエグベルトさんだった
「エグベルトさん」
「ああ、みんな死んでしまった。それなのに、俺だけ生き残っちまった
受付嬢のベアトリスに迄、剣を持って戦う様指示した のに
死んでしまうとわかっていて
そのくせ、自分だけ生き残っちまった
クソ!」
「ギルドマスター、自分を責めるな
指揮官は部下が死ぬとわかっていても命じなければならない時がある
あなたは一人でも、誰かが生き残る為、そう判断した
生き残ったのが、たまたまあなたであったとしても正しかったのだ」
マスターがエグベルトさんを慰めてくれる。事実だと思う
冒険者達のおかげで、村の人の半数が助かった
冒険者ギルドは有事の際には市民を守るのが務めなのだ
そのため、多くの補助金や優遇処置が取られる。私達冒険者には税金は課せられない
冒険者は半分兵士なのだ
冒険者が時間を稼いだから、マスターがこの村の獣人を滅す事ができたらしい
「そんな事言ったって、こんなのやりきれないぜ
なんで俺なんかが生き残っちまったんだ」
「エグベルトさん。お願いです。自分を責めないで
私は一人でも生きていてもらえて、嬉しいんです
これから、この村の復興の為に頑張ってください
お願いします」
「ア、アリス、ありがとう。ありがとう」
エグベルトさんはすすり泣いた
地獄の中に救いを見出してくれていれば......
マスターはギルドの応接室に向かった。そこにいるのだろう
マスターの主が
「ヤン、戻ったぞ」
「ヴラドか入れ
それと、お前の新しい花嫁もな」
「ああ、わかった」
マスターは主に対して横柄だった。人間とバンパイアの関係はどういったものだろう?
「これがお前の新しい花嫁か
似ているなアリシアに」
私が誰かに似ている?
それに花嫁?
「お前、名前は?」
「アリスと言います」
「私はイスカリオテ教団第13機関の長、ヤン・ベルグシュタット司祭だ
新たな化け物を仲間に加えられて、嬉しい」
「ば、化け物!?」
「事実だろう?
もう、人間では無い事位の自覚はあるのだろう?
人間ではありえない事が出来るのだろう?」
「わ、私は」
「ヤン、アリスはバンパイアブライドになったばかりだ。気を使え」
「ヴラド、お前から人に気を使えと言われるのは心外だぞ
お前が人に気を使う事などあるのか?」
「アリスの為には気を使う」
「ふっ、なるほどな。わかった
アリス、まぁ、単刀直入に言おう
お前には我がイスカリオテ教団に入信してもらう
そして、私と主従魔法契約をしてもらう
そうで無いととても化け物と一緒に行動等出来んからな
スマン、化け物では無かったな
バンパイアと人間が共存するには、安心の証左がいるのだ」
「安心と安全は違う問題だがな」
「違い無い
だが、この主従契約を根拠に我ら教団はバンパイアであるお前達を養護しておる
国王陛下にも、理解頂いている。契約がなければ、魔物のバンパイアとして、
人間からひたすら追われる身になる」
「ああ、判っている。不自由なものだ」
「永遠に生きられて、それ程の力を持って、不自由は無いだろう?」
「そんなものでも無い、かなり不自由だ、私達は」
「まあ、とにかく、アリスとの魔法契約を優先しよう」
ヤン司祭は私に従属魔法『アキューズド』を使った
私は主従契約を受け入れた。私はマスターの意思に抗えない事がわかった
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