37.クレムリン宮殿
クレムリン宮殿最奥の王座の間に突撃した私達の前にそれはいた。魔王だ。
「よくここまで来た。我名はビスマルク! 魔族が魔族であるには、お前達のような引き立て役が必要だ。私が魔族として輝くために、お前達にはぜひよりみじめに苦しんで死んでもらおう」
「どうやら性格が悪い魔王の様だな……!」
「世界を否定するからお前達はどこまでも救いがないのだよ。自然を破壊すれば、生命は生まれない。無論、私のようにお前達を蹂躙するものがいれば、世界のバランスは取れるのだがな」
「貴方は一体何を言ってるの?」
「言葉を慎めよ人、いや、バンパイアよ。神のみが知る事をお前達ごときが知っていいものではない、なぜわからない? お前達がここで死ぬにしても、知っていい事ではない」
一体何を言ってるの? 私は怪訝に思った。何かある。人が世界を否定する。一体、何の事か? 倒して真相を聞く事ができるか?
すると、そんな私と魔王のやり取りを聞いていたアランさんが、
「人にだって、生きる権利はある、どの様に小さな力の我らだって……」
「おや、半人半魔のバンパイアとウェアウルフだけでなく、生粋の人ではないか? 惨めに殺されに来たか?」
「我ら人類1000年の努力、その力、全てお前を滅ぼす為に蓄えた力! 必ず一矢報いる!」
ダニエルさんは必死の覚悟で、魔王に対峙する。だが、おそらく彼は恐怖で足が竦んでいる筈だ。何故なら、私も恐怖で足が竦んでいる。
震える脚を言い聞かせる様に動かし、私はダニエルさんの前に出る。そして、アランさんを睨らみつける魔王を見上げ、睨んだ。
「無駄話もここまでよ。私達も暇じゃないんだからね、とっとと貴方を倒す!」
「何? 本気なのか? いいだろう絶望を見せてやろう」
魔王は「ふっ」嘲笑うと、私達に向かって手をかざす。さらに呪文を詠唱し始め、手のひらに魔力を集中しはじめた。よほど高位の魔法なのか詠唱時間は長い
渦巻く魔力が魔王に集中する。
炎、水、風、土------魔法の根元たる4属性。その全てが属性の魔力が魔王に・・・全ての属性を混ぜ合わせ、組み合わせることができれば、操れぬ自然法則は存在しない。
「苦しめ、人よ! レギンブレイブ!」
魔王の放った魔法は、暗黒の粒子の集合体だ。それが皆をたちまち取り囲む。近づいてくる粒子を、私は円城流刀剣術で払おうとした。
「円城流抜刀術二の太刀!」
だが私の技をすり抜け、粒子は私に降りかかった。それは私の頭部に染入り、皮膚と頭蓋骨を通り抜けて脳へと染み込んでいく。
「は……ぁ……!」
何か、違和感が自分の中に入り込んでくる気持ちの悪い感触。視界が途絶え、強烈な耳鳴り、平衡感覚の喪失――
「う、あ……うぇ……あ、ひぃあ……っ!」
さらに吐き気を伴う頭痛が襲うと、耐えきれず私は座り込む。力を振り絞り、周りを見渡すと皆同じだ。そして、頭を抱えて皆、うめき声をあげた。
「あー……ああぁぁっ、あー! あ! ああぁー! あぁぁぁあっ!」
「あっ、あぎゃあああぁぁっ! あがっ、がっ、がじゅっ、ひああぁぁああああ!」
所々から呻き声が聞こえる。皆、魔法に汚染された。魔王はほくそ笑み、私達に優越感を感じるがごとく、私達を嘲笑った。しかし、
「……あ!」
「脳をやられるのも、脳髄をやられるのも、いつもの事よ!」
私は叫んだ! そして、意識が戻る。そして、私の前に立つ魔王を睨みつける。私は魔王に強烈な殺意を向けた。周りを見ると、カタリナと聖騎士団以外、皆、意識を取り戻した!
魔王が再び、魔法の詠唱を始めた時――一斉に人の戦士達の攻撃が始まった。
「グガ!」
ダニエルさんの断裂!
「眷獣ケルベロス!」
マスターの眷獣の火の魔法が、魔王の真上から炎の塊が、魔王を押しつぶす。
『ゴオォォオオッ!』
「阿修羅斬!」
クリストフさんの奥義。爆裂の火の魔法に吹き飛ばされ、魔王は宙を舞う。
「私の魔法が効かないなど、ある筈がない!」
魔王は己の魔法から私達が回復した事に驚きを隠せない。
「私達、人もまた、進化しているのです」
ダニエルさんが魔王に吠える! そして、私も!
「生きてきた事を後悔させてあげる!! 円状流飛燕斬!」
魔力を極限まで高め、体と刀に満たし、振るう必殺の一撃!
「うぅ、うがぁぁぁあああああああああああああああ」
立て続けの攻撃に体を揺らす魔王。しかし、多少のダメージがあるが、肝心の魔王の本体は無傷のまま。やはり魔王を滅ぼするには何か更に何かが必要なのか?
「小賢しいぞ這いずる虫けらが。アイシクル・ランス」
接近する私達の周辺が、冷気を含んだ空気に包まれる。それは絶対零度の全ての分子の活動を停止させる魔法。範囲内に存在する全ての生物は、氷つき、全ての細胞の活動を停止させられる。それはバンパイアやウォーウルフであろうと例外ではない。しかし、私はそれを斬る。私は冷気の魔法に向い急進する。そして一気に接近すると、白く輝く冷気の魔法に向い――
「円城流刀剣術二の太刀!」
その魔法を斬る。パキンッ、と氷点下の魔法が姿を変え、一帯に魔力が散乱する。
「人魔ごときが私の魔法を退けるなど!」
「人は進化するのよ! この技、貴方達が滅した民族の作り出した技! 貴方達魔族に対抗する為の力! 人の力を見縊らないで!」
激しい閃光を放ちながら、ぶつかり合う魔王と私達の力。倒せ、倒せ、倒せ――私は強く願った。そして私達の攻撃はついに魔王の魔法を突破し、その左腕を斬り落とす。魔王の目は驚愕に見開かれ、その体からは黒い瘴気に包まれて行った。何だ? この黒い瘴気は?
「魔力が高まっている!」
マスターが怒鳴った。
「気をつけてください。魔王の魔力が膨れ上がっています!」
ダニエルさんが注意を促す。魔王の魔力は極限まで引き上げられているのか? 魔王は呪文を詠唱した。それは簡単な魔法の筈だった。人間が放った魔法で、なければ、私達は無視し得れただろう。しかし、魔王が放つと?
「アイシクル・ランス」
放たれる、絶対零度を纏う氷の槍。極限まで高まった魔王の魔力、私達では足元にも及ばない。だがその魔法の意味は単なる威力では計れないものであった。
「カタリナ!」
クリストフさんが叫ぶ! 魔王はまだ呆けているカタリナにアイシクル・ランスを放った!
「止めろ! クリストフ!」
「駄目です。クリストフさん!」
私も思わず怒鳴った。クリストフさんは私と違い、魔法を跳ね除ける技を持っていない。私なら、円城流二の太刀で、魔法事態を跳ね飛ばす。しかし、クリストフさんは・・・
「がっ……ああぁ……あがあぁぁぁああああッ!」
クリストフさんはカタリナを庇い、攻撃魔法アイシクル・ランスを受けた。
「クリストフ!」
「クリストフさん!」
「グッ! 気をつけろ! この魔法・・・ヤバイ・・・心臓が・・・止まった。氷り・・・ついた!」
クリストフさんが苦しそうに叫ぶ。
「ふっ、ふっ、ふっふ。その通り、私の絶対零度の魔法は一度氷りついたら、二度と溶けん。その男、ウォーウルフか、時期、動けなくなる。その男はもう死んでいる」
「そ、そんな!」
「お前を倒せば、いいだけだろう?」
「聡いな。その通りだ!だが、できるかな?」
「マスター! そんな、何でクリストリフ様が!」
呆けていたカタリナがようやく、意識を取り戻した様だ。私とマスター、魔戦軍ダニエルさん、そして意識を取り戻した聖騎士団の面々が魔王と再び対峙する。
『カタリナ視線』
「マスター、私一体何をしてたのかしら?」
「カタリナ、良く・・・聞け。私は・・・このままだと、永久に・・・動けない。死んだも・・・同然だ。魔王を・・・倒さなければ、再び・・・動く事はできない。しかし、私が戦えなけ・・・れば、勝機は・・・低い。だから、お前に私の力を移譲する!」
「そ、それをしたら、マスターはどうなるんですか?」
「消え去る・・・だけだ・・・」
「そ、そんな!」
「それしか・・・方法が無い。お前は・・・真祖のウォーウルフとして・・・覚醒するのだ」
「マスター・・・」
「これから移譲の・・・魔法を唱える。拒否は・・・許さん」
「はい。マスター」
マスターは消え入りそうな声で魔法詠唱を行った。
「私は1000年・・・生きた・・・もう時期、寿命・・・なんだ・・・気にするな・・・」
「気になりますよ。私を勝手に花嫁にして逝かないでください!」
「すまん・・・何もしてやれなか・・・った」
「そうですよ。ちゃんと旦那さんらしい事してくださいまし! 生きてくださいまし!」
「すまん・・・だが、もう・・・お別れの時の様だ・・・」
「マ! マスター!」
マスターは消えて行った。光り輝く砂となって......
私に力が宿るのが判った。マスターの力が私に宿ったんだろう。
「マスター、必ず仇はとります!」
私は魔王に振り向き、剣を取り、戦いを挑んだ。
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