36.ロシア
キエフでシモン・ナガンを倒した私達はロシアを目指した。まだ、初夏だ。冬の行軍はまず、絶望的だ。夏の間に魔王ビスマルクを倒し、帰還する必要がある。私達はともかく、アグネさん達、普通の人は寒さの為、何もしていなくても、生きている事が困難だ。
目指すはロシアの街、モスクワ! ヨーロッパの最北の地! そこには魔王ビスマルクがクレムリン宮殿に坐すと言われている。
モスクワまで、以外と順調に進んだ。魔族の襲来が何度かあったが、予想された魔物の大群はいなかった。それで、以外と順調に進軍出来た。しかし、それが罠だと、誰も気がつかなかった。
私達魔戦軍団と聖騎士団を筆頭にシュバリエ騎士団、王立魔法兵団がモスクワの地を眼前に展開する。まだ早朝。朝も早いが、私達は迅速に展開した。夜は魔物の時間。人が戦うには太陽が出ている時の方がいい。私達はモスクワに突入するつもりだ。
総指揮官アグネさんが指揮を執る。今はアグネさんは魔戦軍団長であると同時に司祭でもある。私とマスターの上司になる。従属の魔法は今はアグネさんとしている。
「AM6:00より、作戦開始とする。クリストフ、ヴラド、アリス、カタリナ! お前達はクレムリンをひたすら目指せ! 魔戦軍団、聖騎士団は護衛だ! そして、シュバリエ騎士団と魔法兵団はモスクワへ突入し、雑魚を蹴散らせ!」
アグネさんは魔法回線で、全軍へ指示を出した。各指揮官が魔法時計をセットする。私もセットした。アグネさんから血でもらった魔法だ。
「5、4、3、2、1突撃!」
アグネさんの指示の元、全軍突撃の命が下る。あちこちから人の蜂起する声が上がる。
「私達も行きますか?」
「ああ、大きな戦いになるだろう」
「私、ブッちめるんだからね!」
「お姉様頑張って!」
「いや、カタリナも頑張ってよ!」
「皆さん。死なないで下さいよ」
アグネさんが微笑んで私達に言った。
「やだな、アグネさん。私達不死身ですよ・・・アグネさん達の方こそ、その・・・」
「その通りだ。アグネ。お前達の方が死ぬなよ!」
「ブラド、心配してくれるのはありがたいのですが、私達人間は結構しぶとくてね。例え私が死んでも、直ぐ、代わりが現れるのですよ。でも、あなた達を失ったら、そう簡単には、代わりは現れない」
「アグネ、死は平等だ。死ぬな! 天寿を全うしろ!」
「珍しくヴラドさんが喋りますね。そうですね。頑張って生き残りましょう。私も死にたい訳では無いです。ただ・・・心構えですよ」
「ふっ」
「では、行ってらしゃい!」
「ああ、行ってくる!」
マスターが頷き、私とカタリナは、
「はい! 行って来ます!」
そしてクリストフさんも!
「参る!」
私達と魔戦軍団、聖騎士団は駆け出した。魔戦軍団や聖騎士団の人と足並みを揃える為、速度は通常の人の走る速度だ。そして、モスクワ死骸に突入! しかし、そこには!!
「これは!」
「やられた!」
マスターとクリストフさんが呟く。モスクワ街中に群れるアンデッドの群れだ。それも、グールやゾンビだけでは無い。リッチなどが当たり前の様にばっこしている。
「これでは何時、クレムリンに着けるかな?」
「それに魔法兵団もたまらないだろう」
「マスター! 今はクレムリンを目指すべきです」
「アリス?」
「アリスさん。貴方らしく無い。どうしたんですか?」
「お姉様、どうして、何時もなら、魔法兵団の方達を安全にしてからって言う筈じゃ?」
「おそらく、この一戦、重要な戦いになります。魔王を倒せば、堕天使ルシファーが顕現する。そして、アグネさんは死を覚悟していた。アグネさん達は魔王討伐の為の捨て石になる気です。私達はアグネさんの言う通り、クレムリンをひたすら目指すべきです。例え、魔法兵団が全滅しても・・・」
「アリス・・・」
「アリスさんの言う通りだ」
クリストフさんは私に同意した。
「アリス、お前は本物の吸血鬼になったか・・・」
「なりました。人間の女の子だったアリスはとっくにいなくなりました。私は約束したんです。大事な友達と・・・この世界を救うと・・・例え、どんなに犠牲を出しても、やり遂げます。例え、たくさんの人が死んでも。その約束を叶える。私は鬼になります」
「それでいいですよ。アリスさん」
魔戦軍団員のアランさんだ。
「そうです。魔王を討伐できるのなら、ここで死ぬのも本望!」
ダニエルさんだ。
「4人だけでは、クレムリンに着く頃に疲弊してしまう。ここは私達魔戦軍団と聖騎士団の力を信じて下さい。共にクレムリンまでの道を開きましょう!」
アランさんは死を覚悟していた。私達は彼らの屍の上に勝利をもぎ取るしか無いのかもしれない。そうでもしないと勝てないかもしれない・・・
戦いは始まった。魔戦軍団の主力アランさんとダニエルさん、中堅の魔戦軍カール、レオン、メルケル、そして、若手の魔戦軍団員。皆、死を決意した顔だ。もちろん、聖騎士団の面々も・・・
私達は後方から進んだ。みんなが魔物を次々と屠る。
「貴方達の命を私達に下さい。魔王を討伐する為に!」
「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」」」」
ダニエルさんが叫ぶ。ダニエル さん達魔戦軍団、聖騎士団も捨て石になるつもりだ。そして、魔戦軍団も聖騎士団の皆も・・・時の声は死を覚悟した戦士のものだ。
「もう少しでクレムリン宮殿だ!」
アランが叫ぶ。みんながなんとか、魔物を退けてくれた。おかげで私達は疲弊せず、ここまでこれた。しかし・・・
「ド、ドラゴンだ!」
「それも、あれはドラゴンゾンビ」
アランさんとダニエルさんが唸る。それもその筈だ。ドラゴンゾンビは通常のドラゴンより厄介だ。かなり強い。
「アランさん。こいつは私達が?」
「いや、お前達は先を急げ!」
「そんな、私達なら簡単に!」
「今は時間とお前らの体力が惜しい」
「そうだ。ここは任せろ」
「いや、ダニエル。お前と聖騎士団はブラド達と先へ進め!」
「アラン?」
「ダニエル。ここは俺と若い奴らに任せろ! それに、このドラゴンゾンビを倒した後は、クレムリン宮殿へ魔物が侵入し無い様、壁も必要だ」
「アラン、お前?」
「簡単には死なん。お前こそ死ぬなよ」
「ああ、わかった。俺と聖騎士団は先へ進む」
「カール、レオン、メルケル、そして皆んな! お前達の命預かった!」
「「「「はい」」」」
アランさん達がドラゴンゾンビと戦い始めて、ドラゴンの気を逸らすと、その隙に私達はクレムリン宮殿に突入した。しかし、私はふと後ろを見た時
「!」
それはメルケルがドラゴンゾンビに喰われる瞬間だった!
「ダニエルさん! メルケルさんが!」
「今は後ろを振り返るな!」
「そんな、このままじゃ仲間がたくさん死んでしまいますわ!」
「そうです。私達が戦えば、これ以上、誰も死なずに!」
「アリスさん、カタリナさん、貴方達は心を鬼にするのです。アリスさん。貴方は言ったでは無いですか? 魔王を倒す為なら心を鬼にすると!」
「そ、そんな・・・」
「わ、私、そんなのって・・・」
「アリス」
「カタリナ」
マスターとクリストフさんがそれぞれ花嫁の私達に話す。
「俺達だって、無事帰れる保証は無い。おそらく、魔王と戦えば、私達からも犠牲は出る」
「だって、私達は不死身!」
「魔王にそれが通じるかな? 果たして?」
「その通りだ。現に俺達は不死身のウォーウルフやバンパイアを滅ぼす事ができる」
マスターとクリストフさんは私とカタリナを説得した。でも、そんな・・・
「その通りです。ましてや私達普通の人間ではとても歯が立たない。アリスさん、カタリナさん、私達人間の為、ここは心を鬼にして下さい!」
「お姉様! 進みましょう!」
「カタリナ?」
「お姉様は人の頃の事を忘れてしまったんです。彼らの想いを考えて下さい。私達は託されたのです。ならば、彼らの為に行きましょう!」
「カタリナ・・・わかった。私は中途半端だった。人としても、バンパイヤとしても、戦士としても。私は彼らの死を無駄にしない。必ず魔王を討つ!」
「皆さんお願いします。私達の事は心配しないで、皆んな覚悟はできています」
こうして私達は心を鬼にしてクレムリンに突入した
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