2.主人公死亡
いきなり死ぬんかい!
私!
「ラーシュ、大丈夫なの?」
「ううーん」
弟のラーシュは体が弱い、それで時々体調を悪くするけど、
今回のは普通の病気じゃなさそうだ
「ラーシュ、かなり悪いみたい、ねえ、お爺ちゃん、大丈夫なのかな?」
私は心配でお爺ちゃんに聞いた
「おそらくマラリアだ」
「マラリア?
それってかなり重い病気じゃないの?」
「ああ、以前、わしもかかった事があるんじゃが、
このままじゃ、命が危ない
じゃが、北の森の薬草があれば簡単に治る筈じゃ」
「北の森か......」
私は気が重くなった、薬草があれば治せる。でも、私一人で行ける場所じゃ無い
北の森までには強い魔物と何度も遭遇する可能性が高い
「冒険者ギルドで、仲間を集めろ、この金を使うのじゃ」
お爺ちゃんは部屋の自分のたんすから皮袋出して来た
皮袋の中には銀貨が10枚入っていた。1000ディナールになるか
私達にとっては大金だ
「お爺ちゃん!」
「ああ、こんな時の為に冒険者時代に貯めたお金を残しておいたんじゃ」
「ありがとう。お爺ちゃん!」
私は冒険者の装備を整えると
「ラーシェ、お姉ちゃんが必ず治してあげるからね」
そう言って、ラーシュの頬にキスした
「ありがとう......お姉ちゃん」
ラーシェが、か細い声で答えた
「必ず薬草取って来るんだからね!」
「ああ、お前ならできる筈じゃ」
こうして私はいつもの冒険者ギルドへ向かった。今日は依頼者として
☆☆☆
「おはようございまーす」
私は冒険者ギルドに入ると、元気に冒険者のみんなに声をかけた
「おー、アリスちゃんか今日も可愛いな!」
「そんなお世辞言っても何にも出ないんだからね!」
いつもの会話、いつものみんなの優しい言葉
でも、今日は何かが違っていた。みんなちょっとピリピリしてる
「アリス、今日も元気そうだな。その内、剣の修行してやるぞ」
「はい、先輩、ありがとうございます
私、強くなって、先輩の事やっつけちゃうんだからね」
「はは、心強いが手加減してくれよ」
アーネ先輩、Aクラス冒険者、強くてかっこいい、私の初恋の人
この村で一番強い冒険者だ。私の憧れ、冒険者として、男性として
「でも、今日は時間無いかも、実は北の森に行きたくて」
「北の森だって?
今日はまずいな」
「どうしてですか?
普段、皆さんもっと遠くまで行ってるのに?」
「アリスさん、実は今日は全員に待機命令が出てるんです」
受付嬢のベアトリスさんが近くまで来て、教えてくれた
「待機命令?」
私はベアトリスさんに聞いた
「ええ、実は昨日二つのパーティが全滅して、生き残りのメンバーから
複数の獣人達と遭遇したという情報が入ったのです
獣人はこの辺では滅多に現れない強力な亜人です
それで、今日の討伐依頼は全部自粛して、冒険者の皆さんには待機命令が出たのです」
「そ、そんな、私、どうしても北の森に行かなくちゃいけないんです
ラーシュが、弟のラーシュが病気なんです。北の森の薬草が必要なんです」
「困りましたね。待機命令を破ったら、罰金10000ディナールなんです」
受付嬢のベアトリスさんが困った顔をしていた
「アリス、もう少し待てないのか?」
「ラーシェは体が弱くて、早くしないと心配で......」
「......」
ギルド中が静まった。みんな私の事を心配してくれているのだろう
だけど、それは、私が北の森に行く事がかなり難しい事を意味していた
その時
『カツン、カツン、カツン、カツン』
靴音が響いた。革靴の音だ。ずいぶんと響く
ギルドの扉の方から見知らぬ黒ずくめの男が歩いてきた
そして、
『男ならやらなければならない時があるだろう?』
男は言った
「しかし、今は外出禁止なんだ。俺達のパーティも自粛している」
アーネ先輩が黒ずくめの男に喰ってかかった
「私が行ってやろう」
「本当ですか?」
私は思わぬ助け人に目を輝かした
黒ずくめの男は黒い大剣を持ち、いかにも歴戦の戦士という風だった
おそらく、かなり強い、Fランク冒険者の私でもわかった
男の装備は低クラスの冒険者の物では無い事は一目同然だった
だが、男は私に思わぬ事を聞いてきた
「お前、処女か?」
「なっ!」
「あなた、なんて事を!」
受付嬢のベアトリスさんが黒ずくめの男に詰め寄った
「ここは冒険者ギルドですよ!
そんな破廉恥な報酬は認められません !
アリスさんはまだ、15才なんですよ!
あなた、恥を知りなさい!」
私は意味がようやくわかった。依頼の報酬が私の身体だと言う事に
でも、ラーシュの命がかかってる。私、私、
「ベアトリスさん。でも、今日はみんな外出禁止なんでしょ?
私、10000ディナールも用意できない、1000ディナールがやっと、
私、私、どうすれば......」
「アリス、止めろ!
早まるな、俺が行ってやる!」
アーネ先輩が大声で言ってくれた
「先輩」
私は嬉しかった。先輩が私の為に、でも......
「先輩、でも私、10000ディナールも用意できない・・・・・・」
「安心しろ。俺は何とか蓄えがある」
私は涙が出てきた
「先輩、ありがとうございます。ありが、ふぇふぇ、ふぇーん」
『何が男ならやらねばならない時があるのだ、このロリコン野郎!
アリスは俺が守る!』
「いいだろう、お前が助けるなら俺の出る幕では無い」
男はそう言うと、何やら、受付嬢のベアトリスさんと話を始めた
ベアトリスさんの顔色は最初怖い顔だったが、直に事務的な顔へと変わって行った
「アーネ、北の森なら、お前一人で大丈夫だろうけど
10000ディナールはきついだろう、カンパだ」
「俺も」
「俺もだ!」
冒険者のみんながアーネ先輩と私にカンパしてくれた
「み、みんなありがとう」
こうして私とアーネ先輩は北の森に向かって、出発した
☆☆☆
「なんか、デートみたいですね」
「何言ってるんだ、アリス、この辺は少し強い魔物が出る、気を抜いちゃだめだ」
もー、アーネ先輩は真面目過ぎ、それに、私の気持ちに気づいてくれない
途中、ゴブリンやオークが出たが、アーネ先輩が簡単に倒した
そして、北の森の薬草の群生する場所に来れた
『あった、アネモネの薬草だ』
「ああ、間違い無い、良かったな」
「はい、これだけあれば、ラーシュの分だけじゃなくて、売れるかも」
「ちゃっかりしてるな」
アーネ先輩の笑顔が眩しい
そして、私達は帰途についた、そして、もう、あともうちょっとで街という処で、
突然、アーネ先輩が止まった
「アリス、剣を抜け」
「え?」
「強い魔物がいる」
アーネ先輩は真剣な顔だ
「俺の検知魔法に反応がある。かなり強い魔物だ
いいか、俺が隙を作る、隙ができたら、街に向かって走れ!」
「そんな、先輩は!?」
「俺は一人でなんとか切り抜けるさ!」
『ざざざざざざ』
周囲の木々から葉音が聞こえる
「「ぎゃゃゃゃーおぉぉ!」」
獣の雄叫びが聞こえ、そして二人の獣人が、突然姿を現した
「おい、せっかくの女なんだから、簡単に殺すなよ
たっぷり念入りに痛ぶるのが、常識だろう」
「そうだぜ。それに殺す前にする事があるだろう?
解るだろう?
「女は死んでからでもいいぜ?」
「違いない」
「「「へへへっー」」」
こいつららららららら、酷すぎるるるるるる
私に力があれば、こんな奴ららららららら!
自分に力が無いのが、こんなに悔しいものだと初めて知った
「貴様らああああああああ、絶対許さんんんんんんんんんん」
ガ、ギン
アーネ先輩が獣人と剣を交える
「今だ、行け!!」
「はい」
アーネ先輩が作ってくれた、一瞬の隙、私はそのタイミングで、
獣人のいない街の方に向かって走った
かなり走った。もう少し走ればメランセル村だ
しかし・・・・・・
ず、ささささささ
木々の葉がざわめく
「おや、女の子か?!」
そこには獣人がもう一人、私の前に現れた、隠れていたんだ、そして
たちまち私は獣人に捕まってしまった
信じられない。メランセル村のすぐ近くに、こんなに強い魔物がいるなんて!
それに、獣人は理性があり、時には人と共存できる存在の筈だ
地域によっては獣人と人間が共存して住んでいる街があると聞いた事もある
この獣人はさっきの獣人とは違う様だ。さっきの獣人は、理性なんて無い。鬼畜だった
この獣人は話せば、許してくれるかも。私は甘い期待をしてしまった
「私をどうする気なの?
先輩が見つけてくれたら、ブッチめてくれるんだからね
逃してくれた方がいいんだからね!」
「先輩?
ああ、他にも仲間がいるのか?
残念だな、この辺には仲間が100人はいる、生きて村へは帰れない」
「そ、そんな!」
「それと、お前をどうするかの質問に答えていなかったな」
「な、何をする気なの?
痛い事しないよね?」
「痛いのは嫌か、判った。あまり痛く無い様にしよう」
「本当ですか?」
私は少し期待してしまった。だけど、あまり痛く無い様に、どうする気なんだろう?
「俺はな、お前が気に入った。俺の好みだ。お前を愛した
だから、お前を殺す」
「なんで、今、私を愛しているって言ったじゃ無いの!」
「痛く無い様に殺すから、安心しろ。人の痛みに快感を得る癖は無い」
「だから、なんで、愛している人を殺すの?
あなた、今、私を愛しているって言ったじゃ無い!
意味わかんない様!」
「愛しているから、殺すんだよ。俺にとって、女を犯す事は殺人の寓意に過ぎないんだ」
私はこの獣人の言っている意味が解らなかった
「ますます、意味わかんない。どう言う意味よ!」
「俺にとって、女を犯す事は、女を殺す事と同義なんだ」
「私を殺して、犯すの?」
「そうだ、お前の瞳に何も映らなくなったとき、お前を愛撫し、俺の槍をお前の内臓にめり込ませる
俺は女を殺し、死んだ愛する女を陵辱する為に生きているんだ」
私は戦慄した。この獣人はさっきに獣人とは違う、理性がある
だが、その理性はネジは飛んで、狂っている。まともじゃ無い
「お前の光を失った瞳が何も無い空を見続ける中で、愛してやろう」
「い、嫌あぁぁぁぁぁーーーーーーーー」
私は恐怖した。いかれている、私は最悪の敵に遭遇した
「安心しろ、それ程、痛くしない。ゆっくり、確実に死んでいく様にする」
獣人は私を乱暴に掴むと、私の手首をとった
そして、ナイフを私の手首にあてた
「や、止めて、止めてぇぇぇ・・・・・・」
冷たいナイフの刃が私の手首に触れる
ひんやりとした金属の感触、これからその刃が私の手首を切り裂くかと思うと身震いした
「あっあ・・・・・・あぁ」
獣人はゆっくりナイフをひいた
ナイフはゆっくりと私の手首の皮膚を裂き、血管を裂き、筋肉を裂き、神経を裂いた
血が滴り落ちる。筋まで斬られただろう
確かにすぐには死なないだろう。大怪我じゃ無い、だが、痛みは十分痛い
「い、痛い・・・・・・」
私の瞳には涙でいっぱいになった
「大した怪我じゃ無い」
獣人は事もなげに言う
確かに、すぐに死ぬ様な怪我じゃ無い。治療すれば、死に到る事も無い
「お願い、許して?」
「ダメだ。お前は俺のものだ、諦めろ」
「どうして、どうして、こんな酷い事するの?」
獣人は笑みを浮かべた
「これが俺の愛の形だからだ」
私は絶望した。この獣人の愛は壊れている。理性を保っているが、根本が壊れている
そして、血は止まら無い。このままだと、私は出血死する
痛みは十分痛かった。じんじんと、どんどんと痛みは激しくなる
10分程経過した。私は自身の身体が冷たくなっていくのを感じた
私の近くには血溜まりができていた
「精気を失っていく女のなんと美しい事か!!!
お前はもう時期死ぬ
そして、俺に愛される」
私の意識はもう、白濁してきた。血を失い過ぎたんだ
私はこのまま死んで、この男に陵辱されるのだろう
私は死を覚悟した。でも、きっと、アーネ先輩は助かってる筈
私が死んでも、ラーシュの薬草はきっと、家族の元に渡る筈だ
意識を失いそうな時、音が聞こえた
ザザザザザザザー
素早い冒険者が林を走る音だ。誰かが、来た
僅かに残った私の視界に入ったのは
ザシュー
「はあ!! が!! おろら ごぼば!!」
吹き飛ぶ獣人の姿があった
一瞬だった。獣人の身体は一瞬で真っ二つになった
良かった。助かったんだ。少なくとも、陵辱からは・・・・・・
段々と視界がボケてきたが、
あの黒衣の男が目に入った
『助かりたいか?』
黒衣の男は私に聞いた
『助かりたい。死にたく無い』
私はそう思った。誰だってそう思う筈だ。もし、できるなら
私は、無意識に手を男に向かって伸ばそうとした
でも、手は少し上がったところで、上がりきれなかった
辛うじて、声は出た。自分のものとは思えない位か細かったが
『た、助け・・・・・・て』
辛うじて、でも、私の意識はそこで、ほばなくなった
そして、
ガブリ
私の首筋に何かが刺ささったのがわかった
それが私の人間としての最後の時の記憶だった
よろしければ評価・ブックマーク登録をお願いします