イケもふ♪ガーディアンズ!
2022-04-26
安価・お題で短編小説を書こう!8
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1585490648/
>>98
使用お題→『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』
【イケもふ♪ガーディアンズ!】
目の前が真っ白になって、意識が遠退く。
気が付くと、見たことのない場所で、見覚えのない人たちに囲まれている。
その中で、私の正面に立つ少女。彼女の表情には、不安と困惑、心細さが見て取れる。
「あ……あなたが、私の、守護聖獣?」
聞き覚えのある台詞。この一言で、私は状況を理解する。理解してしまう。
「ハイ、ソウデス。ハジメマシテ、ワガアルジ」
自分の意志とは無関係に、くちばしから言葉が流れ出る。……くちばし?
「ワタシハアマビエトモウスモノナリ。ジャシンノフッカツガチカイ。ワタシヲツレテタビニデルノデス」
ちょっと待ってこれおかしいでしょ。とりあえず自分のあれを確認したい。
そう思って念じると、頭の中に表示される例のやつ。
アマビエ Lv.MAX
HP: ∞/∞ MP: ---/---
<守護聖獣> <妖怪> <光り物> <水生動物> <事情通>
…………あっ駄目なやつだこれ。
*
「えーっと。それで……アマビエ、さん?」
私たちは彼女の部屋に移動した。
二人きりになった途端、ヒロイン然とした彼女の雰囲気——はかなくて、頼りなくて、守ってあげたくなるような——そのすべてが霧散した。
「ハ……ハイ、ワガアルジ」
光の粒を振りまくブロンドが、彼女の肩の向こうで揺れる。
ゲームの中では清楚な、だけどリアルではちょっぴりセクシーな、純白の衣装。透き通るような肌を引き立てる。
形のいい胸の前で手を合わせ、私の顔をのぞき込む。
にへらっ……と。
彼女の大きな瞳が。
彼女の小さな唇が。
「『事情通』かー。あなた、中身は転生者?」
どうやら、私のステータスは、彼女からも確認できるようだ。
「キオクガアイマイナノデスガ、ソウダトオモイマス」
このゲームのことは、はっきりと覚えている。だけど自分が誰だったのかは、よく思い出せない。
「そっかー。まあいいや」
内心を悟らせず、それでいて、こちらのことはすべてお見通し。
邪悪な笑みを浮かべたまま、彼女は続ける。
「じゃあ、まずは確認ね。ここは『イケもふ♪ガーディアンズ!』の世界で間違いないよね」
「ハイ、ワタシモソウオモイマス」
ここは乙女ゲーム『イケもふ♪ガーディアンズ!』の世界。
「私はプレイヤーキャラで主人公の『ルシア・サンフォード』。そっちから私のステータスって見える?」
言われて念じると、さっきと同じように、今度は彼女のステータスが表示された。
ルシア・サンフォード Lv.1
HP: 100/100 MP: 100/100
<主人公> <光の聖女> <初心者> <リセマラマスター> <いい加減にしろ>
「『ショシンシャ』ト、カカレテイマス。アナタハ、ショシンシャデハ、ナイノデスカ?」
「まさか、そんなわけないじゃん。ゲーム開始直後の初心者バフだよ」
そう言われると、そんなものがあった、ような……。
「そのすぐ後ろに『リセマラマスター』って書かれてるでしょ」
なんのマスターだよ。こんな称号、ゲームの中でも見たことがない。
「いやー、回し過ぎちゃってさー。運営の女神様から『いい加減にしろ』って怒られちゃったよー」
どういうこと?
ゲームの中では、ガチャを回して『守護聖獣』を仲間にするシステムだった。
この世界にもガチャがあるの?
「『召喚の泉』ってあるでしょ。さっき私たちがいた部屋」
ガチャを回す画面のことだ。この世界では、本物の泉になっていた。
「あの泉でさー、確定前のエフェクトが出るじゃん」
ゲームだった頃は、ガチャの結果が表示される前に、その中身を推測できるような演出があった。
でも、あれって、演出だけで、実際には確定済みだと思ってたけど。
「あのエフェクトが出た瞬間にね、キャンセルする裏技があるんだよね」
何それ。そんなの初耳だ。
「ゲームではすぐに修正されたんだけど、こっちの世界ではどうかなー、って思ったんだよね。試してみたらさ、大当たりじゃん! 何これリセットできるー! ってね」
狂気を感じさせる笑顔で、だけど上機嫌で、彼女は続ける。
「そしたらもう回すしかないよね。お祈り、リセット、お祈り、リセット、お祈り、リセット、お祈り、リセット————」
天を仰いで、陶然と。
「————お祈り、リセット、お祈り、リセット…………。七日間。あなたが出るまで、七日間だよ。粘って粘って……そしたらとうとう女神様がね、特別だよ、って」
それから彼女は、綺麗な顔で。
「だから、これからよろしくね。最強の守護聖獣、アマビエさん」
言って、次の瞬間には、すぐに表情を崩し。へらへらと笑う。
なんだこの女。
*
世界観ぶち壊しのネタ聖獣、アマビエ。
それが私。
「ワガアルジ、アレハナントカナラナイノデショウカ」
「ゾ〜ウさん、ゾ〜ウさん」
「んー? 別にいいじゃん。性能は本物だし」
「デスガ、ワガアルジ————」
私を引いた翌日、主人公様……ルシアは、召喚の泉での祈りを再開した。
祈りと言うか……全力のリセマラを。
何度目かのリセットの後、泉のエフェクトが変化して、ルシアが誰かと会話を始めた。
会話が終わって、ガチャ確定の演出が流れる。
『事情通』の私。
見覚えのある演出。
「俺がゾウさんだゾウ」
アマビエブームに乗っかって実装された私がネタ枠なのは、まあ、分かる。
イケメンを召喚するゲームなのに、アマビエ。
無料ガチャ専用の超低確率キャラ、アマビエ。
確かに強いけど理不尽なまでに高コスト、それがアマビエ。
そして。
「————セッカクノ『イケモフ』ナノニ、トキメキガ……ウルオイガ……」
色気ゼロの、アマビエ……じゃなくって。
「俺がガネーシャくんだゾウ」
私とはまた別のネタ枠。
ゾウのかぶり物……と言うか、ゾウの頭をした怪人。
ガネーシャくん。
「あのさー、アマビエさん?」
文句たらたらの私に、ルシアが鋭い視線を向ける。
ルシア……ゲームの中のルシアとは別人の、狂気の主人公様。
「分かってる? ゲームじゃなくて現実だよ? これは」
なぜか上から目線で詰問してきた。
そう言われても、だ。
「ゲンジツダカラコソデス、ワガアルジ。ゲンジツデ、アレハキツイナァ……」
私だって、何も「ゲームそのままの『イケメン動物園』がいい!」などとは言わない。
体の一部が動物だったり、動物に変身したりするイケメンたち。一緒に暮らしたり、お世話したりするのも大変だろう。
だけど……。
「ゾウさんだゾウ」
私は、アマビエだし。ゾウさんは、ただの不審者だし。『聖女様』は。
「あなたさー……現実、ナメてる?」
とか言って、にらんでくるし。
おおこわ。
「なーんてねっ! 怖かった? 私怖かった? 怖がらせちゃったー? ごめんねー?」
もうやだこの現実。
*
「ワタシハアマビエトモウスモノナリ。ジャシンノテサキドモ、カクゴ——アッ、イタイ、イタイ」
「よーし、そのまま、そのまま!」
「イタイ、イタイッテ!」
拠点の街から出て、モンスターたちと戦う。
と、言うか、HP無限の私が前に出て、延々と殴られる。
どんなに攻撃を受けても傷一つ付かないとは言え、殴られれば普通に痛い。
「ゾウさんだゾ〜ウ!」
「いいよ! 頑張って!」
そんな私の後ろから、ゆっくりとした動きで、敵を、文字通り、潰していくゾウさん。
「いいねー。ここら辺りはもういいかな。今日もすっごいレベル上がったよ!」
聖女様は何もしない。
回復もサポートもしない。
だけど経験値は入る。
レベルが上がって、次の街へと向かう。
「ワタシハアマビエト——イタイ、イタイナ!」
次のマップでも、私はモンスターたちから殴られる。
「ゾ〜ウ、さん!」
ゾウさんは、相変わらず、敵を一撃で潰していく。
「イタイ、イタイゾ! イタイ……」
「頑張れー。あとちょっとだぞ〜う」
聖女様は……何か食べてる……何か……ポテトチップス…………ポテチ食ってる! なんだこの女! どこで買ってきたんだよそれ!!
「あ、これー? さっき屋台で買ってきたの。食べるー?」
こいつ……。
敵はガシガシ殴ってくる。痛い。
ゾウさんは強いけど動きが遅い。これは、攻撃力最強で動きが速いとゲーム的に不都合だから、こういう設定になっている。
もっと人手があれば……だけど、ゾウさんも私も高コストキャラなので、これ以上人数は増やせない。
仕方ないけど、待たされるこっちは、ずっと痛い。
痛い。痛い……。痛い————
「イタイッツッテンダロザコドモ! ブチコロスゾゴルァァアアア!!」
<スキル『アマビエフラッシュ』を習得しました>
「オマエラカクゴシロ……! ヒッサツ、アマビエフラーッシュ!!」
<スキル効果:範囲内の敵味方全員が意識を失う。攻撃を受けると目を覚ます>
「ああっ、とー。危ない危ない。ガネーシャくーん、起きとくれー」
範囲外に退避していた聖女様が、石を拾ってゾウさんに投げ付けた。
「ゾ……ゾ〜ウ、さん!」
アマビエには攻撃手段が一切ないので、聖女様まで眠らせてしまっていたら、詰んでいた。
危ないところではあったけど、これで私は痛くないし、この女にも仕事をさせることができた————
*
攻略はとんとん拍子に進んだ。
今、私たちがいるのは、邪神の本拠地の神殿。
「来た来た、やっと来た。イケメン邪神キター!」
わざとらしく騒いでみせる聖女様。イケメンになんて興味がないくせに、それでも、相手がラスボスだからか、いつもよりテンションが高い。
あと邪神は本当に顔が良かった。
『「邪神」だと? 懐かしい響きだ……。我が仇敵の、愚かなる眷属どもが——』
「アマビエフラーッシュ!!」
「ゾウさんだゾウ!」
「ラスボスも楽勝だねっ!」
イケメンは一瞬で潰された。
*
こうして私たちは、ストーリー上で戦うとされていた敵をすべて倒した。
「コレカラドウスルノデスカ、ワガアルジ」
今、私たちは、ルシアの部屋で休んでいる。
邪神を倒したからと言って、私たちの現実が終わることはなかった。
「んーっとねー。そろそろ——」
「ゾウさんだゾウ」
聖女様のぶりっ子顔うぜぇ。あとゾウさんは邪魔だ。
「マズハゾウサンヲシマツ——」
その時、誰かが部屋の戸をノックした。
「——あっ、来た来た。どうぞー」
モブ顔の神官が入ってきた。
応対する聖女様。
私は……この光景……見たことがある……————
「ふむふむ。分かりましたよー。このルシア様にー、任せるのだぞ〜う! みんな、聞いてたかなー?」
私は思い出していた。ストーリーの第二部を。邪神を倒した後のことを。
「ワタシハアマビエトモウスモノナリ」
「俺がゾウさんだゾウ」
「アマビエさんも、ガネーシャくんも、またよろしくね? 頼りにしてますぞー」
ゲームとは全然違う主人公様と、ネタキャラの私とゾウさん。
どうしようもない現実。
だけど、これからも、私はこの現実を生きていくのだ。
「今までは素手だったけど、今度からガネーシャくんにはハンマーでも持たせてみよっか? ねえ、どう思う、アマビエさん?」
「ソウデスネ、ソレモイイトオモイマス」
「ゾウ! さ〜ん!」
私たちの戦いはこれからだ!
2年前のお題。当時は書き上げられず、1年後に再挑戦するも断念し、今回が三度目の正直である。
聖女のキャラは、2年前に思い付いた時から、こんな感じ。
今回、某連載の某キャラに寄せようとしたのだが、単なるウザキャラにしかならなかった。
仕方ない。