星の予言
2019-10-16
安価・お題で短編小説を書こう!5
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登場人物
チェレーナー・スィェーニーヤー、北(北極星)の王家の四番目の娘、星の巫女
カラナー・ダーナーニーヤー、古い一族(原住民の豪族)の黒(黒い髪)の娘、星の巫女の侍女
コルナーン=セアゴヌー・スィェーニーヤー、北の王家の星(星の王国)の守護者、第二王子
名前のみ
ヴィシェーラー、知恵の娘、最初の星の巫女
>>940
使用お題→『事案発生』『スター』『ゲイザー』
【星の予言】(1/2)
市街地の明かりを眼下に望む、ヴィシェーリーヤー離宮。その奥の高台にそびえる、星読みの塔。
王室や行政の意思決定すべてに関与する、国の最重要機関だ。
その重要性や建物自体の高さに比して敷地はさほど広くもないが、それは少数精鋭を旨とするためだ。
日々持ち込まれる幾多の案件を、星の巫女と、彼女を支える職員らが処理している。
優秀で清廉な彼らは多くの尊敬を集め、特に当代の星の巫女は、幼いながらも、仕事熱心であると評判だ。
しかしながら、勤勉さは時に不摂生にもつながる。
だから彼女に仕える者は、その健康に注意を————
*
ここは星読みの塔、最上階。
「いやじゃー! お風呂なんか入らないのじゃー!」
「わがまま言わないでください姫様。さあ行きますよ」
「いっ、いやじゃぁ……階段を下りるのが面倒なのじゃ……」
黒髪の侍女に引きずられる金髪の美少女。セアゴニア王国の第四王女にして星読みの巫女、チェレーナー・スィェーニーヤー・セアゴニアその人だ。
「あっ、そうじゃ! 予言じゃ。『事案発生』じゃ」
「じあんはっせい? なんですかそれ」
「わらわが危ない目に遭うのじゃ」
「そんなこと言って、昨日もおとといも入ってないじゃないですか。今日は絶対にお連れしますから」
「今回は本当なのじゃー! 危険なのじゃー!」
部屋には他の職員の姿も見えるが、王女の味方はいない。逆に早く連れていけ、という雰囲気だ。
「護衛も付きますから、行きますよ」
*
途中で侍女におんぶされたりしながら長い階段を下りる。
塔の外に出ると、夜の空気が少しだけ肌寒く感じられた。入浴施設は高台よりも下にあり、ここからまだ歩かねばならない。
「母上は息災かのぅ」
「……それはもちろん、お元気でいらっしゃいますよ」
「そうじゃろうとも。そうでなければ困る」
離宮の内部は庭園のように整備されているが、暗く人影のない小道は、なぜだか恐ろしく感じられるものだ。
「む。誰じゃ」
道の向こうから歩いてくる者があった。一人で、散歩でもしているような気楽さで、こちらに近付いてくる。護衛を連れた集団に臆する気配もなく、それが不自然な軽薄さを感じさせた。
互いに進んで、顔の見える距離になった。
「やあ、レーナ。それにラナも。こんばんは」
「兄上か。こんばんは」
「コルナーン殿下、ごきげんよう。こんな時間にお一人で、いかがなされたのですか」
コルナーン=セアゴヌー・スィェーニーヤー・セアゴニア。レーナの腹違いの兄で、第二王子だ。
「いやなに、丁度手が空いたものでね。書類を届けながら、かわいい妹と、その侍女の美しい顔でも拝んでいこうかと思ってね」
言動だけ見れば、少しばかりきざな男だ。だが、そんな態度が彼には似合うのだ。
「そうか。どうする? 書類ならば、今ここ……では駄目だな。一度戻るかの」
「いいよいいよ、あっちにも人がいるでしょ。その様子だと、これからお風呂かな」
「そうじゃ。ラナがどうしてもと言うから、一緒に入るのじゃ」
王子の涼しげな美貌が、才色兼備の侍女に向けられる。
「もう、姫様。一緒には入りませんよ。お世話をさせて頂くだけですよ」
「ま、妹を頼むよ。君には面倒をかけてばかりだけどね」
そう言って、益々侍女の顔を見詰める。
「近々お礼をさせてもらうよ。断らないでね。じゃあまた」
返事をする間もなく畳み掛けてから、王子はその場を離れていった。
【星の予言】(2/2)
入浴施設には王族専用の区画がある。
「ラナも一緒に入ってはどうかのぅ。いつも思うのじゃが、わらわ一人だけ裸なのはのぅ」
「そうおっしゃられましてもねー」
護衛は屋外を巡回している。広い浴室には、レーナと侍女の二人だけだ。
体を洗い、湯船で適当に温まってから、浴室の奥にある出入り口へと向かう。部屋の外には露天風呂がある。
目隠しの塀で囲われているので、周りの様子は見えない。だが、大事なのは地上を眺めることではない。
「……今夜もよく見える」
「ええ、そうでございますね」
観測の妨げとならぬよう、離宮は闇に沈んでいる。それはこの施設も例外ではない。
足元の安全のため、小さな明かりが並んでいる。二つの影がその中を進み、一つが湯煙に隠れる。
「これではよく見えんのぅ。それに、ちょっと熱いぞ」
「では温度を下げさせますね」
言ってその場を離れようとするが。
「……いや、よい。これも……星の揺らぎじゃろう」
*
巫女の仕事からしばし離れたレーナだったが、帰路にあっては再び夜空を見上げる。
「それにしても……『事案発生』とはなんであったのか……」
「えっ。あれって姫様の口から出任せじゃなかったんですか」
「無礼な。そんなわけなかろう」
塔へと続く坂道。背高のっぽの向こうに、幾千の星が瞬く。
「その予言は、今も?」
「いや。もう消えておる。……あれかの、兄上かのぅ。ナンパに気を付けろ、と」
「ええー……」
*
その兄上、コルナーン殿下だが。
「はっ、はっ、はぁーっ……くしょん!! ああー駄目だ失敗した」
予言の真相は、次のようなことであった。
塔に書類を提出した殿下は、大急ぎで引き返して、入浴施設までやってきた。
彼はレーナの侍女、ラナに気があって、あわよくば彼女の湯浴み姿をのぞき見ようと考えたのだ。
露天風呂の囲いには壊れている箇所がある。
彼は美貌の王子らしからぬ情熱と泥臭さでもって事前に自ら調査を行っていた。
今回その成果を遺憾なく発揮し、彼女らが外に出る前に、その身を潜めることに成功した。
そこまでは良かった。
だが、蓋を開けてみれば、本人が言った通り、ラナが入浴することはなく。
そもそも暗くて何も見えず。
仮に少し明るかったとしても、湯気で視界が遮られ。
「ああー、寒気がする。風邪引いた……」
何一つ収穫のないまま、彼は撤退を余儀なくされたのだった。
*
「ラナは、兄上のことは……どうかのぅ」
「どう、って……」
「ラナが、わらわの姉上になってくれたら、のぅ」
「……そうですねー、姫様が、いつもいい子にしてくださるのでしたら……姫様?」
長い階段を上る途中、レーナは侍女の背中で寝息を立てていた。
最上階まで、あと少し。
「おやすみなさい、姫様」
「星は導く、かの者に災いを!」
瞬間、星空が揺れる。星の巫女だけが使える予言の術。
「うわっ」
茂みの向こうで声が上がる。続いてガサガサっと。
「いってー!」
何者かが滑って転んだ。
「捕らえるのじゃ!」
————というのが当初の構想だった。うまく書けず、本文のような形になった。
これを書き上げる前に、外伝に当たる作品が完成し、そちらはスレ6に投稿した。