墓標
2019-02-17
安価・お題で短編小説を書こう!5
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1541947897/
>>412
使用お題→『死別』『ラッキー』『雪だるま』『鍵』『肉』
【墓標】(1/2)
君は雪の中に立っている。ここはスノータウン、雪だるまたちが住む町だ。
白い道の両側に、雪と氷の建物が並んでいる。それらの中にも外にも、彼らはたたずんでいる。
「ようこそ、スノータウンへ!」
「こちらには観光で? それともお仕事で? スノータウン名物、スノーキャンディーをどうぞー」
「ようこそ、スノータウンへ!」
「雪のこけし、氷のお土産もあるよー」
「ようこそ、ス——」
商店が立ち並ぶ通りで、君はその内の一軒に入る。店先に並ぶのは、氷漬けの商品だ。
「いらっしゃい。お客さん、見ない顔だね」
氷のケースの向こうに、店主とおぼしき雪だるまが鎮座する。
君は尋ねる。ここは何を売る店か。
「さてね、ここは肉屋だよ。食べられる肉も、それ以外も。今日は何をお探しで?」
君は鍵を探している。ここは肉屋で、鍵屋ではない。鍵屋はどこだろう。
「こんな小さな町に、そんな店はないよ。誰も鍵なんて使わないからね」
それは困った。ともかく君はお礼を言って、店を後にする。
「またおいで。君はいい肉になるから」
君は鍵を探してこの町に来た。この町のどこかに、それはあるはずだ。
「肉屋の店主、奥さんと死に別れ」
「息子じゃなかったか?」
「母親って聞いたよ。まだ小さい時に、母親と死別したんだよ」
「墓を見れば分かる。形見の何かが置いてあるってさ」
「鍵だよ、鍵。でも墓にも鍵にも名前なんて書かれていない。誰が死んだか分からない」
まるでこちらに聞かせるような、雪だるまたちの世間話。
ラッキーなのか、アンラッキーなのか。偶然なのか、仕組まれているのか。
君は墓の場所を聞き、そこへと向かう。
【墓標】(2/2)
君は雪の中を進む。君の前には一条の足跡。君はそれを踏みしだく。
灰色の空に、黒い森。白い閑地に氷の墓標。そして一体の雪だるま。
「また会ったね。来ると思っていたよ」
肉屋の店主。その隣には、小さな氷塊。
「これは……誰だったかな、誰かの墓だよ。いつ死んだのかも忘れてしまった」
君は尋ねる。自分は鍵を探して、ここまで来た。形見の鍵を借りられないか。
「それは無理だ。鍵はないよ。ここには何もない」
鍵がない。それを聞いた君は、町へ戻ろうと。
「君はいい肉になる。君が鍵になるんだ」
振り返ると、そこには雪だるま。雪だるまは動かない。
君は歩き出す。今来た道を、町の方へと。
「僕らは君を待っていた。君は肉になり、誰かが生き返る」
道の向こうに、雪だるまが見える。そこに彼らがたたずんでいる。
「ようこそ、スノータウンへ!」
「こちらには観光で? それともお仕事で? それとも鍵」
君は振り返る。そこには雪だるま。前を見る。そこにも雪だるま。
君は雪の中に立っている。雪だるまに囲まれて。彼らはそこから動かない。
「肉! にく! ニクダ!」
「ようこそ、スノータウンへ!」
「肉ダ! 肉ヲクレ!」
「ようこそ、スノータウンへ!」
「イキカエル! イキカエルンダ!」
君の周りには無数の足跡。そして増え続ける雪だるま、彼らの声。
君は彼らを見る。君は鍵を探す。君は空を見上げる。
冬が終わる。
いわく付きの作品。
>>427氏とぶつかったと思われるのが、これである。
お題の消化は強引だし、言葉は浮ついているが、雪の世界の不条理さを感じて頂けただろうか。
次の投稿は24日深夜を予定している。