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楽園の姉妹

この前にプロローグを投稿しています。本編はこの回からですので、読まなくても支障はありません。


 一年を通して、美しい色彩溢れるローゼンディア国。

 その中でも『楽園』と謳われる土地がある。


 ローゼンディア国の中で南に位置しており、現当主フィガロ家が治める南方領土。一年を通して暖かな気候で過ごし易く、年中様々な花木が咲き乱れる華やかな土地である。楽園のような光景はいつ来ても観光客の期待を裏切ることはなく、その人気を示す観光客数は国一番である。

 春は薄紅色のシヴェルを中心に淡い花々が咲き満ち、夏は白いバローシの花と緑の蔦葉が幾何学模様を作る。秋になれば一気に色味が艶を帯び、紅黄樹の葉が色づき実りが増す。冬は一年を祝うかのように真紅の大花、リレスが咲きはじめ冬の終わりごろに散る純雪と相まって紅白の幻想を作りだす。

 春の訪れを受けリレスが白の下にその身を収め、純雪に覆われた大地にシヴェルが咲きはじめる。白から薄紅へと色を変える様は神秘的な美しさを秘めている。気候が温暖なため春先に雪が残っているのもほんの僅かな期間であり、南方領において自身の領の色である薄紅が最も美しく映える時分でもある。この短い奇跡を目的に大勢の人が調理へ訪れるのは、領主として、領民として何よりも誇らしいものだった。

 そんなフィガロ家現在当主の子どもは二人姉妹。姉であるルーリスと妹のセレスティア。姉のルーリスは黄色とも薄桃ともつかない髪色に、琥珀に近い黄色い瞳をしており決して不細工ではないものの特別際立ったものはない容姿をしている。それに対して妹のセレスティアは華やかな淡桃色の波打つ髪に、透明感のあるレモン色の瞳をしたとても愛らしい少女。彼女の愛らしい美貌は国中の貴族の噂となり、天使や妖精だと、どれも彼女の美貌を讃えるものばかり。

 天使でもあり妖精でもある彼女もその美を携えたまま成長し、貴族には必須の、社交界デビューを迎えるまでになっていた。

 二週間後の王都で開かれる盛大なパーティーは、そんな彼女(セレスティア)の社交界デビューの日。妹のセレスティアが王都でのデビューに向け最後の確認に勤しんでいる間、姉であるルーリスはのんびりと穏やかなティータイムを楽しんでいた。

 するとそこへ、まるで鈴を転がしたような透き通った声が遠くから届いた。


「お姉さま――!!」


 声とともに現れたのは、侍女を数人伴ったセレスティアだった。その身は花びらのように華やかに揺れ動くドレスに守られ、彼女自身が満開に咲き誇る花のような姿にルーリスは眩しそうに目を細める。穏やかな春の気候の中で咲くどの花々よりも、彼女が一番愛らしい。


「あら、セレスティア。どうしたの、もうドレスの試着は終わったのかしら?」

「はい! お父様とお母様に見ていただいて、とても素敵だと太鼓判を頂きましたわ!」


 弾む息のまま、嬉しそうに話す姿は小鳥のように愛らしい。

 今日は、当日着る予定のドレス類の最終確認をしているはず。それがいつものドレスに身を包み、ここにきているということはその確認も問題なく終わったのだろう。


「そう、それは良かったわね。ずっと待ち望んでいたデビューの日だもの、あなたが納得いくドレスやアクセサリーが見つかって安心したわ。当日はきっと誰よりも、あなたが一番輝く日よ」

「そんな……。お姉さまのデビューのときの美しさには到底適いませんわ」


 照れ笑いを浮かべ、恥ずかしそうに頬に手を添える姿は姉の欲目抜きにしても文句無く愛らしく、男性であれば放っておけないだろう。


「貴女にそう言ってもらえてとても嬉しいわ。でも、貴女のその愛らしさの前には私の姿は霞んでしまうほどよ。きっとデビューをした貴女のその愛らしさに会場中の人たちが魅了されて、あちこちからお声がかかるようになるわ」

「お姉さま……」


 ルーリスの言葉にセレスティアは感涙し、美しいブルーグレイの瞳をうるませる姿は思わず庇護欲を掻き立てられるほど幼く愛らしい。


「――わたくし、実はとても不安だったのです。どれほど素敵な格好をしていても、私なんかにお声がかかるのか……。でも、お姉さまにそう言っていただけて、とても勇気がでましたわ! 私、当日は精一杯楽しんできます!」

「ええ、楽しむことが一番貴女の魅力を引き出させるわ」


 ルーリスが優しく頭を撫でればセレスティアは気持ち良さそうに、嬉しそうにその目を閉じ、頬を緩ませる。


「私、小さな頃からお姉さまに頭を撫でてもらうのが一番嬉しいです」

「それは嬉しいけれど、でもそろそろ姉離れしなくてはだめよ?」


 子猫のようにすりよってくるセレスティアの頭を撫でながら、ルーリスは言い聞かせるように返す。

 だがセレスティアはそれに肯定せず、頭の位置はそのままに腕を伸ばして目の前の姉に抱きつく。

 

「まだダメです! お姉さまは私だけのお姉さまなんですから!!」

「あらあら……」


 困った子どもを見るように苦笑を浮かべつつも、その眼差しはどこまでも優しい。


「この甘えん坊さんはいったいいつまでお姉さまだけの可愛い子でいてくれるのかしら」


 セレスティアはここで初めて頭を上げ、にっこり愛らしい笑みを浮かべて大好きな姉を見つめて言う。


「もちろん、ずっと、ですよ!!」


 そう、二人で楽しく会話をしていると、遠くから「セレスティア様――!」と呼ぶ侍女の声が聞こえてきた。


「ほら、呼んでいるわよ。さ、明日の出発に間に合うように間違いのないよう準備をしないと」

「はい! ではお姉様、失礼します! また後でお話を聞いてくださいね」

「ええ、もちろん」


 そう言ってセレスティアを見送ったルーリスは彼女と侍女の姿が見えなくなったのを確認し、先ほどまで浮かべていた笑みを消して深いため息をついた。

 セレスティアは知らないが、ルーリスは二週間後に王都で開かれる社交界の場に行くことはない。つまり、彼女のデビューを目にすることはないのだ。きっと、そのことを会場について初めて知ることになるだろうセレスティアはひどく悲しむだろう。叶うならば舞い上がった気持ちのまま気づかずに終わってくれたらと、空を見上げながらルーリスは願った。


 可愛い、わたくしの妹。セレスティア。

 穢れも何も知らぬ、無垢なる妖精。

 彼女が唯一の私の良心。

 世界の宝物のあの子を……。




二年と三か月ぶりの作品投稿になります。リハビリを兼ねておりますので、話の流れとして変なところ。誤字脱字など気をつけてはいますがあるかもしれません。その際はご指摘くださると助かります。ただ、メンタルボロボロなのでできればお手柔らかにお願いします…………。

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