懐かしい再会
その日、私の目に白昼夢かと思うような光景が飛び込んできた。
「ジュジード伯父様!?」
「元気だったかい、ルーリス!」
そこにいたのはもう会えないと、そう思っていた世界で一番大好きだったなジュジード伯父様の姿だった。
大好きな、世界で一番大好きだったジュジード伯父様。
他の誰とも違い、決して「良い子にしていたか」「頑張っていたか」とは言わない。
ただ、「元気だったか」と、今も昔も私のことを案じてくれる。
そのことがとても嬉しくて、小さいころは伯父様の訪れだけが私の唯一の慰めだった。
「どうして伯父様がここに?」
「スティール殿下の計らいでね、商人として城に召喚されたんだ。その後、主要貴族の方へあいさつ回りを――――まあ、それは建前で。お前に会ってほしいと、そうこっそりお願いされたんだよ」
「まあ……殿下が」
思わぬ人物の名が挙がり驚きに目を瞠るも、多少考えればこのようなことができるのはただ一人だけだということに気がつけたのに。それが分からないほど頭が回らなくなっている事実に、少なからずショックを受けた。
「愛されているようで、安心したよ」そう微笑む伯父様の言葉に、頷くことしかできなかった。
伯父様は私がまだローゼンディアの伯爵家にいたころ、よく我が家に遊びにきてくれていた。セレスティアに付きっきりの両親や従僕・侍女とは違って私の傍にいてくれるだけでなく、優しく頭を撫でてくれたり、抱きしめてくれたり、話をきいてくれた。
どんなに些細なことでも笑顔で聞いて、褒めて、喜んでくれる伯父様の存在にどれほど救われていたか。
大好きで、大好きで、この時間があるからあの頃の私は頑張れていた。
それでもいつか、別れの時はやってくる。
「ごめんよ、ルーリス。そろそろ行かないと……」
そう言われることはわかっていたのに、こみ上げてくる想いを留めることができずに両の瞳から涙が溢れてしまう。泣いてしまえば伯父様を困らせてしまうとわかっていても、どうしても止まらなかった。
「ああ、泣かないで。私の愛するお姫さま。かならずまた、会いにくるよ。今度も語りきれないほどの土産話と、両の腕では持てないほどの土産を持ってくるから」
「だからどうか、笑顔で見送ってはくれないか? 私の中に笑顔のルーリスを残しておきたい」
そう。いつも、そうやって涙に濡れた頬を上げ笑顔で別れていた。
でも、今はもう、そんな子どもじゃない。
最初から笑みを浮かべ、この幸せなひと時を大切に過ごすことだけを思う。
「ここでの生活はどうだい?」
「皆様、とてもよくしてくださっています。おかげでこちらのお国についての知識や立ち居振る舞いも少しずつですが、習得できています」
和気藹々、とまではいかなくとも、楽しくも懐かしい気分になることができた。
まさか、もう一度会えると思っていなかった再会は胸を打つほど嬉しかった。
スティール王弟殿下には手紙を書こう。
感謝の気持ちを込めて。そして次にお会いした時に、直接お礼を伝えたい。
「行ってらっしゃい、ジュジード伯父様。お気をつけて」
「ありがとう。ルーリスも、次会うときまで元気でいるんだよ」
再会はあっという間に過ぎていき、馬車に乗り小さくなっていくその様子が見えなくなるまで見送り続けた。
ジュジート伯父様がいなくなった後の家は、とても暗くて淋しくて。いつもなら聞き流せる「家族」の話し声や笑い声が、痛いほど心に突き刺さる。
だからジュジード伯父様が帰った日は、食事も取らずに部屋にこもって過ごしていた。
いつからかはわからないが、幼い私にとって唯一頼れる人だった伯父様に私が初めての恋をするのにそう時間はかからなかった。
でも今はそんなことが許されない。
近々お会いするだろう、とは思っていたけれど。まさかその日のうちに殿下とお会いすることになるとは予想していなかった。
殿下に誘われるまま貴族の方々がよく使うというレストランへ赴き、2階の個室へと通された。
「その様子では、楽しめたようだな」
「はい、特別にこのような機会を取り計らって頂いてありがとうございます。もう、二度と伯父には会えないと、そう思っておりましたので。王弟殿下には感謝してもし足りぬ思いでいっぱいです」
「――ならばよかった」
そうしてしばらく沈黙が続いたあと、ふとスティール王弟殿下が主もよらないことを訊ねてきた。
「お前は、サティル公のことを慕っておるのか」
「私の惟一人の家族として、誰よりも慕っております」
そう。私にとっての家族といえるのは、ジュジード伯父様唯お一人。
あの家で私は、家族の一員になろうと必死だっただけで。家族であったことなど、ただの一度も思えた日はなかった。
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帰宅後一切の光が差し込まないように、カーテンも全部閉めてドアにも鍵をかけて布団にもぐりこむ。
眠る瞬間、私にはある夢だけは。これからみるかどうかがわかってしまう。
――ああ、眠ってしまう。
このままではきっと、あの人の夢を見てしまう。
優しい笑みを浮かべて、その澄んだ瞳に私だけを映して、そっと抱きしめてくれる。
そんな、幸せに満ちた夢。
そんな、幸せと冷酷さを突きつける夢。
ああ、私にあなたと同じ真っ白な羽がはえたらいいのに。
そうしたら想いのまま空高く舞い飛び、あなたの元へいくのに。




