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イルグラード(VR)  作者: だる8
第三章 上位職を求めて
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第98話 道場

「たのもー!」


 まるで道場破りかと勘違いされかねない大きなかけ声と共に、ルーテリアの戦士ギルドの門を開けたエルナ。近くでたむろっていた冒険者(プレイヤー)たちが一斉にエルナの方を振り向いていた。


「あ……ここはまだ道場じゃなかったっけ」


 テヘッといった表情で頭をかくエルナにガクッとする冒険者(プレイヤー)の面々。

 とはいえ、『取り次ぎを頼む』という本来の『頼もう!!』の使い方からしたら、入り口で叫ぶことはあながち間違っているわけでもない。が、ここは江戸時代の武家屋敷でもなんでもなくイルグラードの戦士ギルド入り口であるため、違和感が半端ない。


 ここがアカシアの街であったなら『なんだエルナか』で日常に戻るのだが、いかんせんルーテリアはエルナにとってまだアウェイである。そのため他のプレイヤーからの『なんだこいつ』的な視線は残ったままであったが、エルナは気にすること無く受付カウンターまで歩みを進める。


『いらっしゃい。何をご案内致しましょうか?』


 カウンターのAIスタッフがエルナに向かってにっこりと笑いかける。

 さっきの『たのもー!』発言も聞いているので、AIスタッフ側もエルナが何かの案内を欲していることは察しているようだ。出来るAIスタッフである。


「あー、えっと道場を使いたいんだけど、どうしたらいいかな?」

『承知致しました。ではそちらの部屋の奥にある階段から下に降りて、正面のカウンターにいるスタッフにお声がけ下さいませ』

「ありがとう!」


 単刀直入にAIスタッフに尋ねたエルナに対して丁寧に応対するAIスタッフ。

 エルナは案内されたとおりに階段を下りていく。だがすぐに地下があるというわけでもなく、結構深くまで階段が続いている。


 二、三階は下ったかと思ったあたりでホテルのフロントのようなフロアにたどり着いた。


(う~ん。アカシアにこんな施設あったかなぁ?やっぱり覚えてないなぁ)


 エルナにこんな施設の記憶はないが、それもそのはずである。

 そもそもアカシアの戦士ギルドの道場はカウンターのすぐ裏手にあるため、ルーテリアギルドのような高級感は特にない。


『いらっしゃいませ。戦士ギルド道場のご利用でしょうか』

「あ……そですそです。どうしたらいいかな?」

『初心者講習と技能訓練とありますがどちらをご利用ですか?』


(特にセバスに聞いてないけど、初心者講習であるわけないよね?)


「えっと、多分技能訓練です」

『多分?』


 エルナの回答に今度はスタッフ側が不思議そうである。


「あ、えっと。私も初めて利用するのでよく分からないんだけど、うちの支援AIに『道場でプレイヤースキルを鍛えるといいよ』って案内されたから来たんだ。で、さすがにもう初心者講習ではないと思うから、消去法で技能訓練なのかな……って」

『そういうことでしたか』


 エルナの説明に納得した様子のAIスタッフ。

 と、その時ちょうど向かって左側の扉が開き、四~五名の冒険者(プレイヤー)が現れた。出で立ちから見るに始めたばかりの初心プレイヤーのようである。


「「「こんちは~!」」」


 彼らは明らかに上級者……に見えるエルナに挨拶をすると今エルナが下りてきた階段を上っていった。


「彼らが受けていたのが初心者講習ですね!」

『そうですね。ギルドに来て最初に職業説明がありまして、その際のプログラムの一つに初心者講習があります。お話を聞いてる限りですとエルナ様は受講済のはずですけど……』

「いやぁそれが!何をしたか全く覚えてなくって!あはは」


 エルナは再び頭をかく。


『覚えてらっしゃらなくても受け直す必要はありませんよ。多分、ご存知のことしか説明がないと思われますので……では、技能訓練の方の受付を致しますね』

「よろしくです!」

『はいっ!完了しました。それでは向かって右手の扉から中にお入り下さい』

「えっ!もう?」

『はい、問題ありません』


 何をどう受付したのかよく分からないまま、エルナは受付スタッフの案内に従って、向かって右手の扉を開けた。

 ちょっと通路を進むと、その先にはまさに『道場』と呼ぶに相応しい大きな空間が開けていた。


「わぁ!凄い。こんなところが……」


 目の前に開けた空間に驚いて立ち尽くすエルナ。

 武道館の館内……と言われても違和感のない規模である。


「こんなところで部活をしたいものね」

『いらっしゃい。君がエルナだね』

「うわぁ!……ビックリした。あ、そうです。私がエルナです」


 道場の景色に圧倒されていたエルナは、AIのスタッフが近寄ってくるのに全く気づいていなかった。剣道……とは違うようだが、剣道と柔道の中間に見える何だかわからない道着を身につけていた。

 ちなみにAIの体格はムキムキマッチョメンであり、道着が今にも張り裂けそうなほどパツパツである。

 サイズが全く合ってないわよ……とエルナは脳内でツッコミを入れる。


 そういえば、この道場内には冒険者(プレイヤー)の気配が全く無い。セバスが言っていたとおり、経験値やスキルの獲得が出来るわけではないので人気がないようだ。


『では!技能訓練の説明をしよう』


 道場のムキムキスタッフが利用方法についての説明を始めた。

 最初に前提の説明から入る。これはセバスから事前に聞いていたことで、要するにレベルアップに必要な経験値の獲得は出来ないということ、またここでの鍛錬で新たに習練スキルを獲得するようなことはないということである。代わりにデスペナルティも特に無いらしい。

 セバスの説明と違ったのは習得済みスキルが強化される可能性についての説明がなかったことくらいだ。実際には内緒の話なのか分からない。セバスからも『期待しない』ように言われているので、この点に関してはエルナも特に気にしないことにした。


 次に利用方法の説明だ。

 ここでの技能訓練は、要するに敵との実戦訓練らしい。特徴的なのは、敵の種類や強さを自在にカスタマイズできるということである。


 例えば敵設定で『レベル20の戦士型ゴブリン(ゴブリンソード)3体』と設定したならば、その強さと数の敵と対戦できるということだ。

 まだ雑魚モンスターや、対プレイヤー以外は実装はされていないようだが、いずれはダンジョンボスやエリアボスとの戦闘も再現できるようになるらしい。事前に戦闘訓練が出来るということはかなり魅力的なのでは?と思うが、実装されたとしてもボスクラスは討伐後でないと設定出来ないらしい。


 まあそれはそうかと納得出来る仕様である。


「大体分かったよ。けど、敵に何を設定したらいいのか分からないかなあ。今手持ちのスキルでの戦闘技術をとにかく鍛えたいんだけど……なにかオススメは?」

『そうだな……では、魔物ではなく武器を持った人型と対戦してみてはどうかな?』


 エルナの質問にムキムキスタッフが提案してきたのは人型の仮想敵である。まるでエルナの剣道歴を察したかのようなグッドチョイスだ。


「あ~!手合わせみたいな感じね!おっけーとりあえずソレでお願い!」


 魔物に何を設定していいか分からないのであれば、部活で手合わせや地稽古(乱取り)をしまくっているエルナにとって人の方が戦いやすいと感じる。お試しにはうってつけだ。


『敵の強さと持っている武器は何にする?』

「う~ん。とりあえずじゃあ、私と一緒でいいかな。武器は刀で、強さは……レベル12」

『よし。ではそれで設定しよう。そこのラインでしばし待つがいい』


 ムキムキスタッフの指示に従って、エルナは開始線……のようなところまで進んだ。


『よし、準備は整ったな?では始めるとしよう』


 ムキムキスタッフの声を聞いたエルナは、静かに腰の刀に手を掛けた。


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