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イルグラード(VR)  作者: だる8
第三章 上位職を求めて
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第97話 セバス

『お帰りなさいませ。エルナ様』

「セバスぅ!ただいまぁ!やっとログイン出来たよ!」


 ルーテリアの住宅エリアの一室。

 後輩の香織や同級生の美希達の協力を得て、寮を脱出した江里菜はイルグラードにログインした。現実時刻(リアル)8:23のことである。


「も~大変だったんだよ。みんなのお陰でやっと来られたんだ」

『それはそれは、大冒険でしたね』

「本当だよ!もうイチから全部セバスに話してしまいたいけど、今は時間がなくなっちゃうからまた今度ね!」

『楽しみにしております。エルナ様』


 深々とお辞儀をするエルナの支援AI。名前はセバス。

 その容姿は見るからにダンディで年配の執事である。ロマンスグレーの髪色が印象的だ。名前からして『ザ・執事!』といったネーミングだ。


 なお特段冒険者(プレイヤー)には知られていないが……とは言っても気づいている者はいるかもしれないが、支援AIの容姿や性格は冒険者(プレイヤー)の思考や希望、願望がある程度反映される設定となっている。


「セバス、ファクトさんはもうログインしてる?」

『えぇ。こちら(イルグラード)の時間で数日前にログインされているようですよ。しばらくガドル様も一緒に行動されていたようですが、現在ガドル様はログアウトされているようです』

「あぁ!やっぱりみんな早く来て鍛えてるし!やっぱそうだよね!むむ……寮長のせいで」


 エルナは軽く手を握りしめて悔しがっている。


「そうだ、セバス。約束の時間までこっちで何時間くらいある?」

『お時間ですか?そうですね、単純計算で15時間弱くらいありますので、準備など含めますと14時間程度は自由に行動出来ると考えて頂ければ宜しいかと思いますよ』

「14時間!短いなぁ……」


 セバスの回答を聞いたエルナがガックリとする。

 ちなみに、エルナは何気なく使っているが支援AIにはスケジュール管理機能の他に、現実時間との換算機能やプレイヤーの状態に応じたオススメ行動提案機能などが備わっている。

 固定支援AIデザインよりより利用して貰おうという制作側の厚意によるものなのだが、基本機能に毛が生えた程度しか使用出来ていないファクトや、異なる目的で使用しようとするるー坊のような冒険者(プレイヤー)もいるため、その試みが上手く嵌まっているとは言えないかも知れない。


 支援AIは主に上記の目的でデザインされた人格であるため、本来冒険者(プレイヤー)の言動や性格などを知れば知るほど、その提案内容が正確になっていく仕組みである。そのためその機能を使いこなすためには、沢山話し掛けて機能を利用していった方が良い。

 この辺はAIのAIらしい特性で非常に有用なのだが、プレイ開始時に特に説明などは入らない。キャラの人間らしさを大事にした結果なのだが、説明を入れるべきかどうかはスタッフ側で実は検討中である


 ちなみにるー坊など欲望に駆られて飛びかかってばかりなので、何がどこまで学習されているかは推して測るべし状態である。


「ねぇ、セバス。私はるーちゃんとの約束の時間までに、何とかして少しでも鍛えておきたいんだけど、14時間じゃあんまりいろいろ出来ないと思うんだよね。なんかいい案ないかな?」


 椅子に浅く腰掛け、両脚を前方に投げ出した状態で聞くエルナ。

 完全にセバスに頼り切った聞き方である。もっともその方が支援AIの使いこなしという意味では有用なのかもしれないが。


『ふむ。短時間で戦闘技能を上げる鍛錬法……ということであれば、良い手がございます』

「え!それほんと!それすっごく教えて欲しいんだけど!」


 エルナはセバスの提案に食いついた。

 凄い勢いで椅子から立ち上がったエルナはセバスの元に駆け寄ると、前後に激しく揺らすほどの勢いで支援AIセバスの肩を掴む。


『エルナ様。どうか落ち着いてください』

「あ!ごめん……なさい」

『いえいえ、大丈夫ですよ』


 静かにセバスに諭されたエルナは、しゅんとして元々座っていた椅子に戻って再び腰掛けた。


『では、ご説明致します。エルナ様も一度は耳にされているかもしれませんが……ギルドに併設されている道場を利用してみてはどうでしょうか?』

「ギルドの道場?」


 セバスは聞き覚えがあるのでは?と言っているが、エルナに心当たりはない。それを察したかのようにセバスは優しく微笑んだ。


『覚えてらっしゃらなくても仕方ないかもしれません。エルナ様の所属される戦士ギルドは、そもそも所属されている方が多いですからね。ギルドについての説明が簡易的になってしまっていたのでしょう。代わりに私から簡単にご説明さしあげます』

「うんうん!よろしくセバス!」


 エルナも笑顔で返す。


『道場とは、戦闘系ギルド……つまり戦士、黒魔法使い、白魔法使い、探索者ギルドにそれぞれ併設されている施設です。ギルドのチュートリアルの中にある戦闘訓練説明で使用していれば覚えていらっしゃるはずですが、まぁ特に特に覚えていらっしゃらなくても問題はありません』

「あぁ~そんなこともあったようななかったような?!」


 つまるところ完全にエルナは忘れていた。

 エルナがチュートリアルをした筈のアカシアの戦士ギルドでは、ちゃんと道場での模擬戦闘を行っているため、ただ単にエルナの記憶に残ってないだけである。


「で、そこで訓練するってこと?」

『簡単に申し上げますと、その通りでございます。ただし、予め了承頂きたいことがありまして』

「?」


 なんだろう?と軽く首をかしげるエルナ。


『こちらの施設はチュートリアルでも使用することからお分かりのとおり、プレイヤーの操作(スキル)を鍛える施設です。そのため原則としてレベルを上げるための経験値を得たり、新たに習練スキルを得る条件満たしたりすることはありません。稀に獲得済み(・・・・)の習練スキルが強化されることがあるらしいですが、期待されない方が良いと思います』

「ふ~ん?まぁ部活動みたいなもんかなぁ?」


 エルナは剣道部で行っている手合わせを想像していた。

 実際に部活で行っている稽古をイルグラード内でもできる……そんなもんだろうか?と。


『部活動……がどんなものかは存じません。が、イルグラードでの操作感を上昇させる訓練であるとお考えであれば、それが間違いないかと思われます。具体的な利用方法につきましては、道場で詳しい説明があるはずですので、そちらでお尋ね下さいませ』


 エルナはうーんと首をかしげたままだ。どんなものなのかスッと入ってこないのだろう。


「……よくわかんないけど、セバスはそれが『わたしのためになる』と思ってるんだよね?」

『左様でございます』

「だったら行ってみる!どうせそんなに時間があるわけじゃないし。ありがとう!」

『気をつけて行ってらっしゃいませ』


 お礼もそこそこに元気よく自室を飛び出していったエルナ。その背中を見送りつつ、セバスは丁寧に頭を下げた。


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