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イルグラード(VR)  作者: だる8
第一章 物語の始まり
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第9話 虫の知らせ

「そう言われてもな。秘匿スキルっていうネーミングが……意図的なものを感じるしな」

『じゃあ名前変えちゃう?例えばオマケスキルとかっ!』

「え?……ここで呼び方変えたからって、本質は何もかわらんだろ?」


 能天気なクリエラの提案をオレはバッサリ切り捨てる。スキルの呼び方の意図は確かに気になるが、この問題の本質はそういうスキルが存在しているということだ。正直、盗賊の秘匿スキルとか怖すぎるだろ。あからさまに敵対する気がないヤツだったら、通常職の仲間として溶け込むためのスキルとか持ってそうだ。……それが秘匿スキルかどうかはわからないが。


『えぇ~。でも、ファクトはこの呼び方嫌いでしょ?……わかったっ!もう決めたっ!ボクはオマケスキルと呼ぶっ!!』

「そ、そうか……まぁいいか」


 クリエラにとっては何やら一大決心だったようだ。

 だが、オレとしては意味が分かりさえすればそれでいい。

 好きとか嫌いとかではなく、調合士として調合士なりに上手く秘匿(オマケ)スキルを使えばいいはずだ。


『じゃあ、改めてオマケスキルについて説明するよっ!ファクトが持っているオマケスキルは《調合》の裏スキルになる《分解》だよっ!レシピを覚えている『調合アイテム』であれば、いつでもスキルで材料に変換できるんだっ!』


 凄いだろ!と言わんばかりのクリエラ。

 確かに使いこなせたなら、かなり重宝するスキルだろう。《調合》に足りない材料を、他のアイテムを《分解》することで調達できるということだ。ただ、これってレシピを沢山覚えている状態じゃないと、有用性を感じにくいスキルだよな……。


 ちょっとだけがっかりするオレ。

 もちろんお話が進めば便利な能力に違いない。だが、今この時点では……。


『ああっ!この《分解》の凄さを分かってないね!それだけかよ的な表情をしてるよっ!』


 あまり興味と驚きを見せていないオレの表情を見て、クリエラが反応する。

 いやいや、分かった上で今現在の優位性がないことにがっかりしているんだ……と、正しく伝えるのは実に面倒くさい。


『すっごく便利なんだよっ!《分解》を使うとねっ?足りない材料をほかのアイテムから調達できるんだっ!だから、ほら、旅先で急にアイテムが欲しくなった時、手元に材料がないときに役に立つし、あとは持ち切れなかった素材を一時的に調合して持っていくとかっ!ほかにも……』


 うん。分かってた。きっとそれが最大の利点だろうし。

 そして興奮して話しているクリエラの言動ロジックがおかしくなってきている。


『他にもねっ!《分解》を使うことで……あ、ダメだっ!』

「……言えよ」

『ダメ!言えないっ!』


 急に説明をやめたクリエラにガクッときたオレだが、この反応からは内容が想像できた。きっとオレが出来たらいいなと思っていたことに違いない。

 アイテムのレア度で制限くらいついてるかもしれないが、『上位職』の《分解》は、知らないアイテムであっても『レシピ化』出来たりするんじゃないだろうか。とはいえ、これ以上追及しても答えは出なさそうなのでやめておく。

 言葉にしなくても内容を類推出来る発言をしてしまっているクリエラは、愛すべきダメマスターである。大事にしなくては。


秘匿(オマケ)スキルについての説明は、こんなところか?」

『う、うんっ!職業固有スキルについては、大体説明終わったかなっ!最後に、修練スキルについて説明するよっ!スキルのカテゴリ的にはボクたちが担当じゃなくてもいいんだけどっ、他にいいタイミングがないからここで説明をするように女神(ヘレネ)から言われてるんだっ!』


 修練スキルか……なんとなく想像はつくが、まずはクリエラの説明を聞くことにする。


『修練スキルはねっ!プレイ中の特定行動について、一定の基準を超えることで条件をクリアした際に習得できるスキルだよっ!どんなものがあるかは、実はボクも知らないので詳細は全く知らないんだけどねっ!とりあえず女神(ヘレネ)から言われているのは、プレイヤーに存在をここで伝えてくれってことだけさっ』


 なるほど。とオレは納得する。

 調合士ギルドマスターであるクリエラが詳細を知らないのも仕方ない。もともと担当ではないと言っていたし、職業に紐づくスキルでもないのだから、存在伝達以上の説明義務もないのだろう。食い下がったところで本当に知らないのだろう。


 どんなスキルがあるんだろうか?少しだけオレは考える。


 よく他のゲームで目にするものだと、剣を使い続けることで剣の技量がアップするスキルであったり、不死(アンデッド)モンスターなどの特定種を大量に倒すことで、特定種への優位性がつくスキルであったり……。用意されている修練スキルはきっとそういうものに違いない。


『あ、一つ言い忘れたっ!修練スキルの有り無しが、上位職への資格条件になることもあるよっ!』

「……それ、すごく大事な情報だろ」


 危ないところだ。

 またクリエラのうっかりスキルが発動した。いや、NPCなのだからそんなスキルついてないだろうが、そう思ってしまうほどの高確率だ。


「クリエラ。お前うっかりスキルを持ってるんじゃないのか?」

『えっ!よくわかったね!』


 おいおい。持ってるのかよ。


「……嘘だろ?NPCもスキル持ってるのか?」


 この事実には逆にビックリだ。

 『うっかり』なんてスキルが存在しているという事実もだが、NPCがスキルを持っているということにオレは驚いた。

 どういうことだ……?


 と、その時突然『ピコン!』と軽快な音とともに《ウィンドウ》を唱えてもいないのに、ステータスが目の前に表示された。


 《修練スキル……《虫の知らせ》を習得しました》


「うぉ!」

『ファクト!すごいじゃない!いきなり修練スキル手に入れるだなんてっ!ギルド説明をしている最中に修練スキルに目覚める人なんて初めてだよっ!……まあボクにとってはファクトが初めての説明相手だけどねっ!』


 クリエラが身も蓋もない発言をしているが、これは珍しいことなんだろう。

 《虫の知らせ》……か。オレは、ステータスに新しく表れた修練スキルの欄から《虫の知らせ》をクリックする。


『虫の知らせ:自分に害意を持っている者が近くにいる場合に意識内で警告音がなる。ただし害意のある者を特定できない。自分の意思で機能をオフにも出来る』

 -習得条件:NPCに対して疑いを持って接し、かつその疑いが的確であった事例が一定回数あること。


 オレと一緒にステータスをのぞき込んでいたクリエラがしょぼんとする。


『ぅ……ファクトは、ボクを全く信用してなかったんだね……』

「いやいや、クリエラはうっかりが多すぎただろ。明らかにこの修練スキルはそのせいだ」


 さっきまでの元気はどこへやら。クリエラが完全に意気消沈してしまっている。

 最初、笑顔が多すぎるという違和感もあったが、この反応はずいぶん人間臭い性格だ。もしかしたら登場するNPCのAI性格は、みんな開発スタッフの性格とかトレースしてるんじゃないだろうか。


「クリエラ、もっと前向きに考えよう。このスキルはこれからプレイしていくのにかなり有用な修練スキルだ。クリエラが調合士のギルドマスターじゃなかったら、オレはこのスキルを習得できていない。つまり、これはクリエラからの大事な贈り物だ。ちがうか?」

『そう……か。そうだよねっ!これはボクからの素敵な(・・・)贈り物さっ!』


 クリエラに笑顔が戻った。ちょろい……もとい、機嫌が直って良かった。

 ギルドマスターが、あんな沈んだ状態のままじゃ非常に困るわけで。


『じゃあ、もういいかなっ?ボクからのとってもいい提案があるんだっ!』


 すっかり立ち直ったクリエラが、ささっとカウンターの後ろにもどってガサゴソすると、数枚の板のようなものを持って戻ってきた。

 レシピ板……というわけでもなさそうだ。


『これが、ギルドクエストだよっ!』


 そう言って、クリエラはオレの前に板を並べた。


クリエラパートが長い気もしますが、前作では書いていなかったこうしたちょっとしたやり取りを描写していきたいと思ってます。お陰で進行が少し……大分遅いです(汗)

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