第83話 回復領域
改めて《マンドラゴラ群生地》を見渡す。
《あやかしの森》の他のエリアと比べるとやや明るい。所々が水辺になって照り返して柔らかな光が溢れているのも大きい。これは採集を始める前に感じた印象と全く同じだ。
「……こんなエリアをわざわざ作るとは?」
オレはエリアをゆっくり見渡した上で観察するように歩き始めた。もちろんマンドラゴラの採りこぼしがないかの確認を兼ねてだが、ダンジョンのボスが女王蜂と分かっていて、ダンジョン中の最重要エリアがコロニーである以上、それ以外にこうしたエリアが用意されていることが不思議である。
何かある……。
オレはそう考えて、目先の利益以外のものも何かないか見ておこうと思ったというわけだ。
まず、この場所の大きな特徴として、魔物が全くいないということだ。所謂安全地帯と言っても良い。
次の特徴としては、至る所に水辺……ぱっと見には大きめの水たまりと言って良いが、それが至る所にあるために足場らしい足場が少ないということだ。水たまりの場所は深いのか、踏み入ることが出来ないようになっている。
そして、明るさの割に木が多いというのも特徴だ。
光源がどこなのかよく分からない造りだが、これだけ自然世界にこだわった造形をしている世界において、違和感を感じるほど不自然な造形をしている……と言って良さそうだ。
「見るからに『何かありますよ』とプレイヤーに教えているようなエリアなんだよな……」
独り言を呟きながらオレはエリア内をゆっくり歩いて見て回る。
足元ばかりみていた先ほどは見える世界が全く違っている。当たり前っちゃあ当たり前だが。
エリアの奥の方で採りこぼしと思われる2つのマンドラゴラを回収したところで20株のマンドラゴラが集まったので、更に魔力粉を調合した。これで手元には全部で6個の魔力粉が集まった。ん?アロエ?アロエは無限に近いレベル(嘘)で鞄に収納されているので気にしなくていい。
そして、採りこぼしのマンドラゴラを採取した場所からもう一区画程度奥に進んだところで、オレは足を止めた……いや止まった。
行き止まりである。
でも、ただの行き止まりではない。明らかに更に先へと続く道が見える……わりに目に見えない壁があって進めない状態となっているのだった。
「そうか!ここが未実装エリアへの入り口の一つか!」
オレはルーテリアの展望台から見た《あやかしの森》を思い出した。
森はオレの認知して理解しているより遙かに大きく、あのアカシアの街に面した巨大湖の北側から回り込むようにその先へ広がっていたのである。
造形だけで先に進めないエリアの終端として『ルーテリアの山岳地帯』を見たばかりだったので、勝手に『巨大湖もエリアターミナル』であると思い込んでいたオレにとってその景色に毛ほどの違和感も抱かなかった。
だが、ここにもし追加エリアへの入り口があるとすると……巨大湖の向こう側も活動エリアであるということになる。
「結構広い世界だな……イルグラードは」
オレはワクワクが止まらない。
まだ南にあるという王都にすら行ってないが、多くの未知の世界が広がっていることに対しての期待値が鰻上りである。楽しみで仕方ない。
そしてこの場所が安全地帯となっている理由もなんとなく理解った。
恐らくこの先の魔物は、蜂を含めたここまでの《あやかしの森》と比べて、段違いに強いのだろう。先に行って力が足りなければ、一旦ここまで逃げてくることで立て直しが出来そう……ということだ。
また来ることになるだろう。
そんなことを考えつつ、今はルーテリアに戻ることにしたオレは進めない道に背中を向けた。
「あれ?」
帰る方向にある多くの立木の中で、強くはないが異質な光を放っている木が目に止まった。ここまで来る間に気づかなかったのは、オレが改めて『背後を確認』することなく、結果として木々の『裏側』を見ていなかったからだ。
近づいてみると、光は一本の太めな木のウロから発せられていた。
中は光で良く見えないが、危険なものであるようにも思えない。オレは光を発しているウロに手を突っ込んで、中にあった物を取り出した。すると光は消え失せ、オレの手には小さな宝箱が収まっていた。
「宝箱か!出現はランダムなのか??」
ランダムなのか固定出現なのか全く分からなかったが、オレはすぐに箱を開ける。すると中には見覚えのある1枚のプレートが入っていた。
「しゃあ!レシピ板だ!……ハズレを引きませんよーに!」
箱の中からレシピ板を取り出すと、オレは箱をその辺にポイと投げた。
すると不思議なことに空の宝箱は地面に落ちることなく、その場でフッと消え失せたのだった。どうやら役目を終えた宝箱は消えて無くなってしまうようだ。それはそれで便利でいい。
早速オレはステータスを開いてレシピ板を使用した。
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名称 :回復領域
材料 :ローヤルゼリー×1、魔力粉×5
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ん?これは……オレはまじまじとレシピを覗き込んだ。
クリエラに確認を取りたいところだが、これも魔導具なんじゃないだろうか?魔力粉レシピだし……って待てよ。
オレはアイテムボックスを確認した。
「調合できるのか……」
1つだけだが、ローヤルゼリーは持っている。女王蜂を倒した時のドロップアイテムだ。魔力粉はちょうど今作ったばかりのものが全部で6つある。
調合出来るのなら、オレは調合士なのだからアイテムの効能なんて作って鑑定すれば良いだけだ。
しかし……オレは迷った。
魔力粉は、魔力障壁を精製するために50個集めようと目標を立てたばかりだ。だが《マンドラゴラ群生地》を見つけたオレは秒で決めた。
実際問題、魔力障壁が今必要なのか?と言われるとよく分からない。便利で強力な魔導具だとは思う。思うが……ぶっちゃけ要らないような気もする。焦る必要はないということである。
それに、今まで出番は全く無かったが、どうしても魔力粉が足りなくなったら《分解》してやればいい。やっと出番の可能性が出てきたということだ。
迷いの無くなったオレは必要素材をアイテムボックスから取り出し、いつもの指パッチンで回復領域を《調合》した。
『調合士のレベルが上がりました』
お。さっき上がったばかりだというのに、さらに調合士のレベルが上がったようだ。
そして調合の結果、目の前にはちょうど片手で収まる位の透き通った球体が現れた。地図水晶みたいである。大きさが全然違うが。
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名称 :回復領域
ランク:A
価格 :-
効能 :仲間の体力/異常は回復し続ける魔方陣を作製する。
魔方陣は5分間有効。
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ランクAかよ……。
これまでの入手アイテムの中で最高ランクである。ブーストLV2でさえランクはBだ。レベルも上がるわけだ。ってつまりこのレシピ……
「大当たりってことだよな?いや、微妙か?」
魔力障壁に比べると遙かに調合しやすいことは間違いない。何より魔力粉の数が少ないのだから。でも、でもだ。ローヤルゼリーって頻繁に手に入るか?女王蜂以外から手に入らないのじゃないか?だとしたら……それほど当たりということでもないかもしれない。
まあ……オレらしいっちゃオレらしいか。そう納得することにした。
リアルラックは最底辺なのだ。イルグラードの運値と差し引きしてまあこんなもんだろうと思う。
ちなみに《分解》からの《調合》を何度か試してみたところ、アイテムはちゃんと元に戻ったので安心だ。
残念だったのはレベルは最初の1回しか上がらなかったので、《分解》からの《調合》についての経験値的なものは、最初の1回しか入らないようである。そりゃそうだろという幻聴が聞こえるが、何事も試してみないとな。
その後も少しマンドラゴラを捜したが、もう入手出来なかったのでオレは仕方なくルーテリアに戻ることにした。
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名前:ファクト
性別:男
種族:ドワーフ
称号:クイーンビーバスター
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職業:調合士
LV:13
腕力:30 (24+ 6(STR+50%))
活力:44 (29+15(VIT+70%)+1)
敏捷:42 (32+10(AGL+70%))
器用:47 (45+ 2(DEX+50%)+1)
魔力:16
運 :18
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武器:ハンティングダガー(STR+12) :即死効果50%
盾 :
サブ:クロスボウ(STR+10) :命中精度80%UP:調合士装備時
弾 :ウッドボルト(STR+5)
頭 :ハードレザーバンド(VIT+4) :VIT値+1
手 :ハードレザーリスト(DEX+4) :DEX値+1
胴 :ハードレザージャケット(VIT+12) :毒無効
下肢:ハードレザートラウザ(VIT+5/AGL+4) :クリティカル回避5%
足 :ハードレザーブーツ(AGL+10) :移動速度20%UP
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所持金:
3,540G
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固有スキル
調合
アイテム鑑定:調合士
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修練スキル
虫の知らせ
必中
短刀術
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レシピ
回復薬小
回復薬中
毒消し薬
麻痺治療薬
木片
魔力粉 ※2way
木の弾矢
標準弾矢
徹甲弾矢
回復領域 new!
魔力障壁
ブーストLV2
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受注クエスト
回復薬小の納品(束)350G/10個
毒消し薬の納品(束)250G/10個
麻痺治療薬の納品(束)300G/10個
回復薬中の納品(束)1,500G/10個
魔力粉の納品(束)6,500G/10個
新作武器の材料調達
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