第82話 マンドラゴラ
アリスの笑顔に見送られたオレは早速素材集めに向かう。
今、オレが欲している素材は比較的希少度の高いもの……つまり、魔力粉を調合できるマンドラゴラや魔香草などだ。とはいっても入手済みのマンドラゴラはともかく、魔香草などはどこで採れるかも分からない。アリスの反応から、アップデートによる追加エリアで採れそうなことは予測がついたが、いずれにしても希少度の高い素材を得るにはダンジョンに入る必要がある。
アリスの情報によると、ルーテリアからすぐに向かうことの出来るダンジョンは主に二つある。
一つはお馴染みの《あやかしの森》だ。
モルト、アカシア、ルーテリアの全ての初期街から向かいやすい初級者向けのダンジョンである。とは言っても奥に行けば蜂が集団で徘徊しているし、最深部にはオレとエルナで討伐した女王蜂がボスとして控えている。優しいだけのダンジョンではない。
もう一つはルーテリアの街からやや北東に向かった先の山脈の麓にある《ノスド採石場》だ。
アリス情報によると《あやかしの森》と比べて数ランク強めの敵が徘徊するエリアらしい。『採石場』という響きから鉱石系素材の魅力的な匂いがプンプンするわけだが、敵が強くて死んでしまうのでは意味が無い。
まずはマンドラゴラを入手した《あやかしの森》だ。
オレの記憶が確かならば、手元にある八つのマンドラゴラは全て《あやかしの森》の奥で採取した素材である。……料○の鉄人かよ。
冗談はさておき《あやかしの森》についてだが、その広大なダンジョンは主要四エリアにて形成され、そのうち三エリアは各初期街方向に広がっている。
実際はそんな括りにはなってないだろうが、オレの脳内理解によると《あやかしの森》には《モルトエリア》《アカシアエリア》《ルーテリアエリア》が存在し、それ以外が全て《蜂エリア》である。そして《蜂エリア》の最深部が女王蜂がいるコロニーである。
《蜂エリア》以外の三つの地域エリアの中心には、オレが勝手に《中央広場》と呼んでいる広めの空間が存在する。ランスロット達と初めて会ったのがこの辺りだ。
《あやかしの森》のエリアを大きく分類するとこうなるわけだが、問題のマンドラゴラをどこで採取したのか?という話だ。
それはどこか?と問えば、間違いなく《蜂エリア》のどこかである。
《あやかしの森》を歩いているうちに少しずつ記憶が蘇ってきたのだが、マンドラゴラを採取したのはエルナと一緒に行動を開始してからの話だ。
あれは確か、女王蜂の討伐を終えてアカシアの街に向かおうとして《あやかしの森》を徘徊していたときのことだ。
「変な草があるっ!」
と、あさっての方向にエルナが走っていった先に生えていたのがマンドラゴラだ。よし。段々思い出してきたぞ。
……だが、残念なことまで思い出してしまった。
確かあの時は既に向かっている方向が分からなくなり、エルナの『こっちがアカシアっぽい』という勘に従って歩いていた時のことである。つまりマンドラゴラの採取場所にたどり着いたのは、全くの偶然ということだ。
結局、エルナの勘に従わないことでアカシアの街にたどり着いたのだから、ボスエリアからアカシアの街と真逆の方向へ向かった先……と考えればいいのだろうか?でも、そんな単純な話ではないかもしれない。
というのは、あの時何度も迷って意図しない場所からボスエリアに戻ってしまっていたからである。
たまたまボスエリアに戻ることなく、『いける!』と思った先がマンドラゴラだった……ような気がする。ま、『行けなかった』わけだが。
ともかく、目的地があるのは《蜂エリア》で間違いない。
オレはまずは女王蜂のいたボスエリアを目指すことにした。
オレがはっきりと道を覚えているのは、《モルトエリア》から《蜂エリア》に入ってボスエリアに向かうルートだ。
この道だけはしっかり観察して……というよりは最初の時に周囲を注意深く警戒しながら移動していたお陰で覚えてしまった道である。道中数匹の蜂と遭遇したが、いずれもクロスボウ先制射撃で無効化してからの短刀でトドメというオレ専用必勝パターンを使っている限り、もはや一対一で負ける相手ではない。
ちなみに複数匹がリンクしたらすかさずドーピングである。オレの認識よりも先に《虫の知らせ》が発動した場合もドーピングである。これさえ守っていれば《あやかしの森》の奥だろうと、もう死ぬことはないだろう。蜂から蜂蜜やたまに貫通弾矢をドロップするのも美味しい。
そんなことを続けながらボスエリアの付近まで危なげなく到達したオレだったが、ボスエリアであるコロニーを見てドキッとする。
初めて来たときにエルナにたかっていたような大量の蜂が、竜巻のように旋回しながら群れていたからだ。あの数の蜂が相手になったとすると、流石に安全とは言い切れない。
最初は大丈夫でも徐々にジリ貧状態となり、やがてドーピングが切れ、体力も少しずつ削られ、麻痺毒にやられたら恐らく終わりだ。
それに蜂が元の数に戻りつつあるということは女王蜂がそろそろ復活している可能性もある。今のオレはソロだ。女王蜂に勝てる要素は万に一つもないので、速やかにこの場を立ち去ることにした。
蜂の脅威はそんなところだが、問題はここから目的のマンドラゴラエリアへたどり着けるか?である。
薄めの記憶を頼りに、あのときエルナと共に歩いた帰り道を出来るだけトレースしてみる。あの時、最初はエルナが先導して歩いていた。分かれ道に来ると彼女は決まって顎に手を添えた後で……
『アカシアはこっちだよっ!』
と、指を差すのだ。
オレの記憶の中の幻のエルナが目の前で道の一つを差して見せる。
そうだ。
確かエルナの案内でそっちへ間違いなく向かった。アカシアにはたどり着けなかったが……。
オレは記憶の中にいるエルナの幻の案内に合わせて歩いた。そして……突然、幻のエルナが今歩いている方向と全く異なる方向へ走り出した。そう、あの時のように。
『変な草があるっ!』
「ここだっ!」
オレはエルナの走り出した方に向かって全力で向かった。
「間違いない!」
そこは広場というには立木が多く生えた幻想的な景色広がるエリアだった。よく観察すると広場の至る所に水辺が存在していて、それが柔らかな光を優しく反射しているために、他のエリアとは少し異なった雰囲気を醸し出していた。
ここはオレのカテゴリ分けでは《蜂エリア》ではあるが、蜂の気配は一切感じられない。
うん。この場所を《蜂エリア》と呼ぶのはやめよう。全く雰囲気に合わない。
その異なった雰囲気の中、地面に生えた奇妙な草……マンドラゴラがそこにはあった。
オレは思わずガッツポーズをしてしまった。それほどまでにこの場所への到達は嬉しかった。一回だけたまたま到達した場所に、目的意識を持って到達出来た時の嬉しさ……と言えば通じるだろうか?通じなくてもいいや。オレ自身が噛みしめる事が出来ればそれでいい。
あの時はアカシアの街に向かうことばかり考えていたせいで、ここに着いたことをあまり意識していなかったのは非常にもったいなかった。
それでも8つのマンドラゴラを採取していたのはオレらしいとも言えるが。
ざっと見渡しただけでも結構なマンドラゴラが生えている。
流石に目標数である1,000個もあるようには思えないが、この場所を覚えておいて定期的に通えばいずれ集まるに違いない。
とりあえず12個採取したところで、早速『魔力粉』を調合してみる。
―――――――――――――――――――――
名称 :魔力粉
ランク:D
価格 :1,000G
効能 :様々な魔導具を精製出来る素材
―――――――――――――――――――――
やはりアイテムランクはD……
ただ、同じDでも回復薬中の価格は250Gであることを考えると、Dの上といったところか。
アイテムが採取できる限り、どんどん採取~調合をすることにする。
結局、最初の一つを含めて全部で魔力粉を5つ調合する事が出来た。100個近くマンドラゴラを採取出来たことになる。このエリアは《マンドラゴラ群生地》と呼ぶことにしよう。
そして、魔力粉の調合のお陰でオレのレベルはまた一つ上がり、12となった。
==========================
名前:ファクト
性別:男
種族:ドワーフ
称号:クイーンビーバスター
==========================
職業:調合士
LV:12
腕力:29 (23+ 6(STR+50%))
活力:43 (28+15(VIT+70%)+1)
敏捷:39 (29+10(AGL+70%))
器用:45 (43+ 2(DEX+50%)+1)
魔力:16
運 :16
―――――――――――――――――――――
武器:ハンティングダガー(STR+12) :即死効果50%
盾 :
サブ:クロスボウ(STR+10) :命中精度80%UP:調合士装備時
弾 :ウッドボルト(STR+5)
頭 :ハードレザーバンド(VIT+4) :VIT値+1
手 :ハードレザーリスト(DEX+4) :DEX値+1
胴 :ハードレザージャケット(VIT+12) :毒無効
下肢:ハードレザートラウザ(VIT+5/AGL+4) :クリティカル回避5%
足 :ハードレザーブーツ(AGL+10) :移動速度20%UP
―――――――――――――――――――――
所持金:
3,540G
―――――――――――――――――――――
固有スキル
調合
アイテム鑑定:調合士
―――――――――――――――――――――
修練スキル
虫の知らせ
必中
短刀術
―――――――――――――――――――――
レシピ
回復薬小
回復薬中
毒消し薬
麻痺治療薬
木片
魔力粉 ※2way
木の弾矢
標準弾矢
徹甲弾矢
魔力障壁
ブーストLV2
―――――――――――――――――――――
受注クエスト
回復薬小の納品(束)350G/10個
毒消し薬の納品(束)250G/10個
麻痺治療薬の納品(束)300G/10個
回復薬中の納品(束)1,500G/10個
魔力粉の納品(束)6,500G/10個
新作武器の材料調達
―――――――――――――――――――――




