第65話 復活
ルーテリアの街を出発し、真っ直ぐ《あやかしの森》に向かったランスロットパーティ一行は、そう時間かけることなく《あやかしの森》の入り口に到着した。
入り口とは言っても要するに森なので『ここが入り口です!』的な分かりやすい入り口ではないが、森を成す木々の間が広がっていて林道のようになって奥に続いている場所があるので、ルーテリアのプレイヤーはそこを『《あやかしの森》の入り口』と呼んでいた。
すぐに中には入らずに入り口の外から《あやかしの森》の奥を伺ったランスロット達であったが、流石に外からでは奥の様子は分からない。該当の魔物がいるのかどうかはもちろんのこと、プレイヤーらしき人影も一切見当たらない。
「……あまり人がいないな。限定討伐は人気ないのか?」
「というか6名パーティが多くなってきているから、いまさら3名のパーティとか限定出来ないんじゃない?分けて行ったところで討伐仲間3名に参加出来なかったメンバーから不満が出そうだしぃ」
人が少ないことに対して首をひねるランスロット。それに対して珍しく至極真っ当な返事をしているミア。
「それもあると思いますが、恐らく本気で討伐を狙っている皆さんはまだアタックかけてないのではないでしょうか?条件を見る限りかなり強そうな魔物だったので、対策を取り始めている時期ではないかと思いますよ」
ミアの回答にさらに意見を重ねてきたティアナ。
きっとその辺りなんだろうとランスロットも納得する。と同時に、危険な獲物がまだ自由に徘徊している可能性があるということにも気づいた。
「じゃあ、作戦通りけんが……様子を見てくるねっ!」
「あ、ちょっとま……」
ランスロットが注意喚起の声を掛けようとする間もなく、ミアはさっさと森の中に入って行ってしまった。
そんなやり取りを横からジッと見ているティアナ。
「……予想どおりですけどね」
「まぁ……な。何事もなけりゃいいが」
ミアに振り回されてため息をつくのはいつもランスロットの役回りだ。
「あとは無事に安全に見学出来ていたとして、夢中になって戻ってこないパターン?」
「それ、凄くアリそうだな。ボク達はいつまで待ちぼうけを食らうんだって……」
そこで言葉を止めて押し黙る二人。
ミアがすぐに戻ることを信じてこの場で待つか、それとも全く信用出来ないのでミアの様子を確認しに追うか。
だが、心配をよそにミアはすぐに戻ってきた。血相を変えて。
「凄いよ!凄いっ!一人で……一人で戦ってるよ!なんか武士っぽい人。それで獲物はもう首がなくて、でも動いてて何か振り回してて、勝てそうなのにやられちゃう?でもあたしじゃ相手にならなそうだし。とにかく凄いから戻ってきた!」
息せき切ったように、目の前で見てきたことの説明を次から次へと続けるミア。どうやら興奮しすぎているようだ。彼女の言葉から『凄い!』ことだけは伝わってくるのだが、具体的な凄さは何も伝わってこない。
「ミア。よくわからないけど、ボク達も一緒に行こう。それでいい?」
ランスロットの言葉にウンウンと激しく頷くミア。ランスロットがティアナに視線を送ると、ティアナも同意の意思を示してくる。
「じゃあ行こうか。ミア、案内をお願い」
「ガッテン!」
ミアはどんと自分の胸を叩くと先頭を切って走り出した。ランスロットとミアもそれに続く。
そしてちょっと奥に進んだところですぐにミアの足が止まった。
「あれ?おかしいな。さっきはここから戦闘が見えたんだけど?」
ミアは一本の大きめな木の幹の陰からその向こうを覗き込んでいる。が、戻ってくる前に見たような戦闘は現時点で行われていないようだ。となると、勝ったにせよ負けたにせよ既に戦闘が終わったのではないかとランスロットは考える。
勝っていたのなら、見ることが出来なかったのは残念だが、この場の安全は確保されたと言ってよさそうだ。
問題はミアの言っていた『武士っぽい』プレイヤーが負けていた場合である。このとき獲物は討伐されないまま再び復活するなどして徘徊することになる。となれば次に狙われるのは中途半端に踏み込んだ自分達で間違いない。
「ミアちゃん。ランスさん。多分アレじゃないかな?」
最初に声を上げたのはティアナだった。森の奥をティアナが指で指し示している。
その場所はミアが『このへん』と話していた場所よりやや右奥。そこには倒れたプレイヤーの側に座り込んでいる和風の装備を身に纏ったプレイヤーが座り込んでいた。
(勝ったのか?!)
ランスロットは身震いするのを感じた。
仲間が倒れているということは、恐らく最初はパーティで挑んだのだと思われる。だが、戦いの中で仲間は倒れてゆく。最初に様子を見に行ったミアの言葉が真実だとして、最後は座り込んでいる和風装備のプレイヤーが一人で対峙し、戦った結果勝ちきったのだろう。目の前の状態は高い確率でそうした状況を示している。
「近寄ってみるねっ!……大丈夫ですかぁ?!」
「あ、ちょっと待って……」
またもミアがランスロットの話を聞くことなく、座り込んでいるプレイヤー達の元に駆けていってしまった。再びティアナの視線がランスロットの方を向く。
再びため息をつくランスロット。
もう少しリーダーとして意識して貰わないといけないなぁと自己反省するも、そんなとこまでティアナにバレてそうである。
「ボク達も行こう」
ミアより少し遅れたが、ランスロットとティアナも和装のプレイヤーの元へ向かった。
近づくとより状況はハッキリした。
倒れているのは二人だ。そのうち一人は瀕死の重傷を負ったものの何とか無事のようだ。一方でもう一人は残念ながら死亡してしまっているようだ。すぐに蘇生させていないのは手段がないからなのか……?
ランスロットが近くに寄った時には既にミアがその場にいたプレイヤー達とコンタクトをとっていた。
「あ、来た来た。ランスちゃん。やっぱり倒しちゃったみたいよ……この武士っぽいのがエルナさん」
ミアの紹介でエルナと呼ばれた和装のプレイヤーが軽く会釈をした。
そうか。この人はエルナと言うのか……と、思ったランスロットだったが、よく考えたらプレイヤーの名前表示をオフにしていたことを思い出した。
ランスロットが名前表示をオフにしていた理由は単純明快。
折角没入型VRで遊んでいるのに、頭の上に名前がずっと表示されている状態では常にVR世界だと気づかされてしまう。それでは面白くないと思ったからである。
普段はそれで良いとして、こういう時くらいは表示があった方が便利に違いない。
ランスロットはプレイヤーの名前表示をオンにすると、目の前にいるプレイヤー達の名前が表示された。
エルナさんに、ガドルさん。そして、ファクトさん。……ファクトさん?!
「ファクトさんっ?!」
ランスロットは倒れて動かない……死亡中のファクトに駆け寄った。
うかつだった。名前表示をオフしていたことで恩人の危機に気づけなかったとは。続いてミアとティアナもファクトの側にやってきた。
「本当、あのファクトさんだ。ただの同名プレイヤーかと思ってました」
「うっそぉ。気づかなかったよ!」
二人の台詞から、名前表示のオン/オフ状態がよく分かった。
ティアナは常時オンなのだろう。ミアは……どうするかとかあまり考えてなさそうだな。
「みんな?ファクトと知り合いなの?」
エルナさんがビックリしたように目を丸くした。猫っぽいガドルさんももう身体を起こしている。
ランスロットは以前《あやかしの森》の乱戦で、ファクトに全滅の危機を回避してもらった経緯から助けられた恩があることを説明した。そして……
「エルナさん。ガドルさん。是非ボクにファクトさんを助けさせてください!」
ランスロットが深々と頭を下げた。一方で慌てたのはエルナとガドルだ。
「いやいや、頭を下げたいのはオラたちだよ。助けてもらえるなら是非こちらからお願いしたいだ」
「うん。私からもお願い。出来るならファクトを助けて欲しい」
今度はエルナとガドルが頭を下げる番だ。
「利害は一致しましたね。では……」
ランスロットは自身のアイテムボックスから蘇生液を取り出すと、倒れているファクトに使用した。
諸事情で更新が遅れました。すみません。




