第57話 リニューアルエルナ
「大丈夫だったの?」
るージュがギルドを飛び出していったのを見計らったかのように、エルナが戻ってきた。鍛冶ギルド内に陳列されている装備品を一通り眺めてきたのか、その表情には何か満足感が感じられる。隠れ武器マニアか?
「まぁ、あいつの持ってくる情報次第だろうな。すぐに手伝ってやれるかどうかもわからんし、オレ達はオレ達の出来ることをやろう」
オレの言葉を聞いて軽く頷いた猫が、エルナの一歩前に進み出る。
「ファクトさんにも相談しただが、オラにエルナさんの装備品を一通り用意させて欲しいだ。どんな装備がいいだか?」
「え!造ってくれるの!やったぁ!むしろこっちからお願いしたいと思ってたんだ!」
破顔するエルナ。とりあえず猫が一通り新調するところまでは合意できた。あとはどんな装備がいいか……だが。
「順番に整理しよう。まず武器だけど……今は、幅広のブロードソードを使ってるだろ?同じ感じがいいのか?それとも剣道やってるから日本刀系とかの方がいいのか?……あ、ガドルが造れるかどうかはオレはわからんけど」
「日本刀も造れるものがあるだよ。高難度の刀はまだだが」
猫が胸を張った。
「ん……私もまだ悩んでるんだよね。確かに剣道やってるけど、だから日本刀っぽいのじゃなきゃと思ってるわけでもないし……あ、でも今使ってる剣みたいに両刃である必要はないかも?片方全然使ってないし」
そう言ってエルナは腰に差したブロードソードを取り出した。
「そしたら、片手で扱う方がいいだか?それとも両手持ちがいいだか?」
いい質問だ。猫グッジョブ。
確かに剣道といえば両手持ちのイメージがある。竹刀を片手で扱うことが求められる二刀流の剣道もあるらしいけど、基本は両手持ちなのではないだろうか?
「そうね。今も両手で持つことが多いかな。でも振ってる最中で片手になってるときもあるよ?」
まぁその辺はゲームであるし、剣道の作法に従わなきゃいけない理由も特にないだろう。オレは猫に視線を送り、軽く頷く。
「わかっただ。とりあえず日本刀で一本用意するだよ。他のが使いたくなったらまた言って欲しいだ」
「おっけぃ!」
と、まあこんな感じでエルナの好みに合いそうな装備を選定していく。
およそオレの想像通りの軽装スタイルになった。が、誤算だったのは武器が日本刀系となったことを受けて、エルナから出来れば装備を和風にしたいという要望が出たことだ。猫によると、エルナが『今、身につけている装備性能を超える』ことを前提にすると、和風の雰囲気が出る装備がないようなのだ。
ただ、一点集中特化でステータスを上げることはなんとか出来そうとのこと。相談の結果、VITが今と比べて下がるがAGLとDEXを強化する方針で纏まった。
しかしこれを実現するためには猫による付与効果が必須ということで。
「が、がんばるだ……」
「ファイト!猫さん!」
「猫だ……す」
そんなやり取りをしながら、猫は鍛冶工房へと姿を消した。
「すごいいい人だね!猫さん」
「あいつは仲間意識が誰よりも強いからな。『パーティ仲間として一緒にプレイ出来る』ことが何より嬉しいはずだ。そのためにはこのくらいのことは当たり前と考えてそうだし……」
オレは「パーティを組んでもらえない」と訴えていた猫の言葉を思い出す。
「じゃあ私は私で期待に応えないとねっ!いい装備がもらえちゃいそうだし、いっそ姫武士でも目指しちゃおうかな?!」
「なんだ『姫武士』って。んな職業あるのか?」
「イメージよ!イメージ」
相変わらず、こういったところは勢い先行のエルナである。
勝手に言葉を創ってしまってるし、そもそも『姫』と『武士』が一単語になってたらおかしいだろう。女性の武士を現すならちゃんと『女武者』とかそれなりに単語があるだろうに。
「あまりプレイイメージとか考えて無かったけど、改めて考えたら格好いいかも?刀で敵を一刀両断する武士っぽい女子って凜としてて私っぽくない?」
「そ、そうか?……ま、まあいいんじゃないか」
「えへへ。じゃあ私はそれでいこう!」
思わず『調子に乗りすぎだろう?』というツッコミが、喉の手前まで出かかる。だがそれをオレは全力で飲み込んだ。
勢いでツッコんでもそれはそれで面白かったかもしれないが、折角機嫌がいいところに敢えて水を差す必要はないだろう。
ただ……なぁ。
自分で言うか?『凜としている』とか。
それ、憧れの人物とか称賛するときに他人に向かって使う言葉だろう、というのがオレの正直な感想だ。エルナの場合は単純に天然ゆえの発言のようだけどな。
まあ、リアル彼女はもともと剣道女子なわけで、どのくらいリアルで強いのかとか分からないが、もしかしたらリアルエルナに憧れている後輩女子さんとかいるのかもしれない。中身が天然女子だと知らなければ、彼女のことを『凜としていて格好いい』と評している人もいるかも知れないが……。
その辺も含めて、エルナは『方向音痴の天然お調子者女子』ということでオレの中で位置づけが確定する。
前から分かっていたことだけどな。
たまに、バツイチひきこもりのオレをドキドキさせるような発言をすることがあるが、中身が子供だと思い込めばなんてことはない。
そう、エルナは子供だ。子供子供子供……
「ねえ、どうしたの?」
エルナの声でハッとしたオレ。目の前にエルナの顔がある。
これだよ、これ。前にも似たようなことがあったが、このときのエルナの表情はヤバい。近いし!子供子供……いや無理!これは充分大人の女性の表情だよ!
「あ、いや。ちょっと考え込んでた。これから行こうとしているルーテリアについてとか、上位職についてとか。そう言えばエルナは上位職について聞いたことはないか?」
「上位職?うーん。特に聞いたことないかも?興味も無かったから、聞いてても忘れてるかもしんない」
あははっと笑いでごまかそうとしているエルナ。助かった。本当にごまかして話題を逸らせることに成功したのはオレの方だ。
とりあえず、戦士の上位職については放置でいいだろう。戦士については多くのゲームに存在するので、上位職の種類やクエスト条件などは大体予想がつく。例えば、白魔との合同クエで『ナイト』とかありそうだし、黒魔との合同クエで『魔法戦士』とか普通にありそうである。イルグラードに限った話ではなくどこのゲームにもありそうな上位職だ。
「そうか。まあそのうち上位職のプレイヤーも出てくるだろうし、自然に情報は集まるだろうな。焦る必要はない」
「そうだね!」
「お待たせしただ!装備が出来ただよ!」
たわいのない雑談をしているうちに、猫の仕事が終わったようだ。
「本当!見せて見せてっ!」
エルナが工房から姿を現した猫のもとへすっ飛んでいく。
「ちょっと材料費が嵩んでしまっただ。出来れば少し補助を……」
「払う払う!もともとちゃんと買おうと思っていたし」
「そうだか?助かるだ……」
猫はそう言いながら、造ったばかりのエルナ用装備品を並べていく。
主武器である日本刀を筆頭に、和風の装備を次々と並べていった。
「すごい!これ全部私が使っていいの?!」
「もちろんだ。そのために造っただ。是非使って欲しいだよ」
「わあ!ありがとう!」
エルナは猫から受け取った和風の装備品を次々に身につけていく。武器は『打刀(無銘)』、装備はいわゆる稽古用の道着のようだ。
一式を身につけたエルナの姿は、本人の言葉じゃないが確かに『凜としている』ように見える。
「エルナさん。とても似合うだよ」
「えへへ、ありがとう!これ凄く気に入ったよ!」
エルナは装備品を一通り身につけると、クルリと一回転してみせる。
「そうだ。忘れるとこだった。半端にインゴットが余ったんで、副武器も造ってみただ。そしたら凄い効果がついて……」
そう言って猫が差し出したのは短めの日本刀……つまり『脇差』である。でも凄い効果って一体?
「どういうこと?凄い効果って」
エルナは猫から『脇差』を受け取る。
「習得は出来ないだが、装備して使うことの出来るユニークスキルがついただよ。とっても運がいいだ」
猫は自慢気に猫髭を撫でてみせた。
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名前:エルナ
性別:女
種族:人間
称号:クイーンビーバスター
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職業:戦士
LV:11
腕力:67 (45+20(STR+100%)+2)
活力:60 (42+18(VIT+100%))
敏捷:30 (13+10(AGL+50%)+7)
器用:28 (25+ 3(DEX+30%))
魔力: 6
運 :10
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武器:打刀(無銘)(STR+20/DEX+5) :STR値+2 New!
盾 :なし
サブ:脇差(STR+12/DEX+10) :使用時《無心》New!
頭 :鉢金(VIT+3) :AGL値+1 New!
手 :甲手(VIT+3/DEX+4) :AGL値+2 New!
胴 :稽古道着(VIT+10/AGL+5) :AGL値+2 New!
下肢:稽古袴(VIT+2/AGL+5) :AGL値+1 New!
足 :地下足袋(AGL+10) :AGL値+1 New!
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固有スキル
パワースラッシュ
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修練スキル
剣撃
旋風刃
魔物鑑定
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