第55話 るージュ
「なるほどな。そんなことがあったか」
疾風のブーツで吹き飛んだオレは、ブーツを早々にアイテムボックスにしまって元の装備に戻した。猫には悪いが、今のところあの装備を使いこなすのは無理だ。
駆け抜ける時にエルナ達の場所は確認出来ていたので、オレは元の装備にドーピングだけを施した状態で彼女達と合流した。
そこでオレは彼女たちに起こったトラブルを聞いた。
少しずつ盗賊達の動きが活発化しているようだ。由々しき事態ではあるが、今のところ『遭遇してしまったらその時に考えよう』くらいしか取りうる策はない。同じプレイヤー同士なんだから『共闘出来たらいいのに』とも思うが、向こうさんが攻勢に出ている今は説得には応じないに違いない。
ちなみに合流したミゲルと会話したところ、アカシアの街に戻るのは単純にパーティを立て直すのが目的ではなく、街間を本格的に移動するにはもう少し自力をつけてからにしようと考えたからだそうだ。特に盗賊戦があったが故にその気持ちが強まったのだそうで。
ミゲルのいう自力とは単純なLVだけの話ではなく、プレイスキルを含めてとのことらしい。例えばエルナのLVが11であるのに対してミゲルは13。でも単純に盗賊戦という対人戦ではLVが高いはずの自分より、LVが低いはずのエルナの方が全体的に活躍出来ていたことなどが響いているらしい。
オレは、エルナがこっそり『ブーストLV2』を使っていたことはあとで彼女から聞いたが、それはそれとしてミゲル自身が自分の不足を感じてそう考えたのなら、オレには特に止める理由がない。
「オレ達はルーテリアの街に行ってみようと思う」
オレはオレで無意味な情報の出し惜しみはしない。
盗賊プレイヤーの活発化という重要情報をもらったのだから、ルーテリアの街の存在から蘇生アイテムの情報などを共有した。アカシアの街からだと《あやかしの森》を経由すれば、特にモルトによる必要もなく行ける街なので有用な情報であったはずだ。その街にしかないというアイテムがあるなら是非行ってみたいとミゲルも乗り気であったので、今後はむしろモルトより先にルーテリアに向かうのではないかと思われる。
オレとエルナはお互いの健闘をを祈ってミゲル達と分かれた。
「ねえ?仲間のガドルさんって猫で鍛冶さんなんだよね?」
「あぁ、そうだよ」
「私の装備も作ってくれそうかな?」
「そうだ。その話もしようと思ってたんだ。まあ細かい話は本人と会ってからにしようか」
切り替えの早いエルナの興味は既に猫にあるようだ。どんな顔合わせになるか非常に楽しみだ。
オレ達は『疾風のブーツ』は使わずにモルトへの道を急いだ。
……
「おぉ!ここがモルトの街」
街の前でエルナが発した最初の台詞がそれだった。
ちょうど街から出て行こうとしているプレイヤーと鉢合わせをしたので、何事かとジロジロ見られてしまったが今更である。それがエルナだ。
地平線の先に見えた城壁が少しずつ大きく見えてきて、街が近づいてくることが実感として感じられたのがエルナ的にかなりハマったようだ。
確かに『アカシアになくてモルトにあるモノ』という観点で一番大きな違いはこの城壁かも知れない。
とはいってもオレにしてみれば『城壁』だなんて言えるほどの立派な建造物ではないのだが、平原のど真ん中にあるため魔物の侵入を寄せ付けないために建造されたやや高めの石垣である。単純な大きさだけで言えば、モルト中央広場の『戦士ギルド』の方がよっぽど大きく立派で目を引く建造物だ。
……何度も言うが、モルトの『戦士ギルド』は、周りの景観にはまるで合っていない建物だ。
「よくきただ!モルトへようこそ!」
到着のおよその時期を連絡していたため、モルトの街に入るなり猫が出迎えをしてくれる。
「あー!猫さんだ!」
「……猫じゃなくて猫だす」
「初めまして!虎柄の猫さん。あなたがガドルさんね!ファクトさんから聞いてるよ」
うん。予想通りの展開だ。エルナはブレない。
どんなに猫が猫ではないと言い張ったところで『猫』を貫くのが彼女だ。実際『猫』なんだし……。
エルナの『ファクトさんから聞いてる』発言を受けて、猫からジト目……と思われる視線が送られる。ジト目だろうとなんだろうと、猫そのものの猫の目は可愛い。
虎と猫の大きな違いは、顔の面積における目が占める面積の割合だと思う。目がもう少し小さめにキャラメイクされていたらあるいは……。まあ今更である。
猫が『オレの紹介』をどう捉えたかわからないが、そのうちエルナの性格もわかることだろう。
オレ達はモルトの街を通り真っ直ぐ『鍛冶ギルド』へと向かった。もちろん目的はエルナの装備リニューアルの為だ。
「ガドルさんは、装備品ならなんでも造れるの?」
「材料があってオラのLVが足りている装備なら造れるだ」
「じゃあ、材料集めとかした方がいい?」
「足りないモノがあれば……でも、何を造るか次第だど。ファクトさんの装備造るのには材料は持ち合わせで間に合っただ」
道中、エルナとガドルが装備品について会話しているのをオレは後ろから見ていた。
オレはオレなりにエルナに合いそうな装備を考えてみているが、エルナはどう考えているのだろうか?今、彼女が身につけている装備をベースに考えるなら軽鎧系だろうが……。
「エルナは……多分剣道やってるよな?それに近い装備の方がいいのか?」
「え!わかっちゃう?剣道やってるって。三段よ!三段」
振り向いたエルナがオレに向かって指三本立ててみせた。
正直オレは剣道のことはよく分からない。一緒に戦った時の立ち回りが綺麗でスムーズだったため、だからなんかやってるんだろうなと思っただけだ。彼女の言う三段がどれだけ凄いのかもよく分からない。
わかるのは、オレの装備の質問がスルーされたということくらいだ。ま、どうせ後で話題になるのだからどうでもいいか。
「ちゃんとは分からないが、立ち回りが綺麗だなってな」
「ほんとー?!やったぁ!」
「エルナさんは、そんなに強いだか……オラ一緒に戦って大丈夫だか?」
やや不安そうな猫。
オレも実際にちゃんとパーティ組んで戦ったことはないが、猫のVIT値ならちょっとした盾役は充分に果たせるだろうと思う。敢えて言えばより強力な盾を持たせたいところだ。このあとどうせ装備作るのだろうから言ってみるか。
「大丈夫!大丈夫!」
今度は猫に向かってサムズアップのエルナ。ま、オレも含めてこの三人なら上手くやってけることだろう。
そうこうしているウチにオレ達は『鍛冶ギルド』に到着した。
さっさと中へ入る猫に続いて、エルナとオレが中にはいる。
「あれ?見た顔ですね?どこででしたっけ?」
鍛冶ギルドの中には鍛冶職の作成した装備品を求めて数人のプレイヤーの姿がある。どうやら鍛冶職は少しずつ認知度が上がり、その装備品の良さに気づきだしているプレイヤーたちがいるようだ。
そうした『鍛冶ギルド』の装備展示を見ていたエルフのプレイヤーの一人が、オレの姿を見て声をかけてきた。
オレはオレで、顔を見たところでどこの誰だかなど覚えていない。ましてやエルフなんて美形であるゆえにみんな同じに見える。……ので、頭上の名前表示を確認すると、そこには『るージュ』とあった。
その名前には確かに見覚えがある。喧嘩っぱやい鬼人の元仲間だった『るー坊』さんだ。
「あぁ『るー坊』と呼ばれていたるージュさんか」
「思い出した!こないだの新規さんですね!……ってもう新規さんって雰囲気じゃないし、そうか。君がファクト君だったんですね。名前まで覚えてなくって」
ポンと手を叩くとオレ達の前にるージュがやってきた。
「鍛冶だったんですか?ちょっとお願いしたい武器があって……」
「鍛冶はオラだ」
オレに話し掛けているるージュに猫が割り込む。
「あ!ごめんなさい。えっとガドルさん?が、鍛冶なんですね。じゃあファクトさんは結局?」
「オレは鍛冶じゃなくて調合士だ。生産職って意味では同種だけどな」
「なるほど!じゃあ、知り合いの知り合いというよしみで、武器作りの仕事を一つお願いしたいんだけど~」
るージュはガドルの方を向くと、両手を合わせたおねだりポーズをしてみせた。




