第51話 盗賊戦~その3
ファクトからエルナにフレンド通信が入ったのは、ちょうどそのときであった。エルナの頭の中にファクトの声か聞こえてくる。
『エルナ?どこにいる。オレはモルトの街についたぞ』
ファクトさんからの通信だ……エルナはすぐに返答したい衝動に駆られる。が、残念ながら今は返事が出来ない。
手持ちの『ブーストLV2』は一つしかないし、もう使ってしまったし、何より目の前の盗賊の馬鹿を私がなんとかしなくちゃならない。
「……お前で果たして俺の相手ができるのか?エルナ」
自分に向かってくるエルナを余裕の態度で待つ盗賊の若頭。
先ほどのカットラスの男とやりあった剣での戦いを見ていたせいか、盗賊の若頭にはずいぶんと余裕があるように見える。それとも相当実力に自身があるのだろうか。
「お前のせいだ!」
エルナはドーピングで強化した身体能力を抑えることなく、全速力で若頭へと向かう。
ちなみにどうでもいいことかもしれないが、二人の会話は成り立っているようで全く成り立っていない。どこが成り立っていないのかは敢えて言うまでもない。エルナにあるのは、ただ早くファクトと連絡を取りたいという気持ちだけである。
「速い?!」
若頭はカットラスの男との剣戟からエルナの戦闘力を想定していたため、迫るエルナの速度が想定から大きく外れていたことに若干動揺する。そしてその一瞬の動揺がエルナにとっての大きなチャンスとなる。
突進の勢いそのままにエルナの剣が上段から振り下ろされ、若頭はそれを受けるべく小型のバックラーを斜めに構えた。が、そこでエルナの姿が視界から消える。
エルナの姿を見失った若頭。しまったと舌打ちをするも、この一瞬が危ないことを若頭も良く知っている。
ともかく迎撃しなくては……の一心で腰の長剣を抜くと、目の端に一瞬だけ捉えた動くものに向けてその長剣を振るった。もう技術云々ではない。身体の反射に任せた迎撃である。
結果、ギンッ!と鈍い金属音が鳴り響き、若頭の長剣が弾かれた。手応えありである。なんとかエルナの初撃をいなすことが出来たようだ。
「うそ!……今のタイミングで防がれるだなんて」
同じくエルナの繰り出した剣も本来の軌道から大きく逸れ、後方へ弾かれていた。相打ちである。
「はっ……ウィルとの時は、全く全力ではなかったというわけか」
「負けない!」
気を取り直したエルナは次々と剣を繰り出した。
リアルで剣道三段の腕前を持つエルナはドーピングによって底上げされた身体能力を駆使して、相手の虚を突く目的で思いつく限りの攻撃を連続で続ける。基本を修めた上での基本に囚われない実戦的な変幻自在の剣筋と言っても良い。
だが、攻撃が掠めたり浅い攻撃となったりすることはあれど、一度も有効な攻撃を当てることが出来ない。
エルナは戦慄する。
ここまでの相手になると、エルナのスキル《パワースラッシュ》などが当たるとは思えない。多対一に絶大な効果を持つ《旋風刃》なども効果が薄そうである。限られた時間で、目の前の敵を倒しきるビジョンを見つけることが出来なかった。
気づけばあっという間に制限時間である一分が過ぎてしまった。
ドーピング効果が切れたことが分かったエルナは少し距離をとった。エルナの周りにミゲル、げいる、スフィアが集まってくる。
盗賊の若頭は強かった。
ドーピングしたエルナとほぼ互角ということは、それだけ基本ステータスに差があるということに他ならない。剣の素養もありそうだ。
「ふぅ……こちらはほぼ全滅か。思ったより骨のある連中だ。前言を撤回しよう。さて……お互いにここらが潮時だ。そうは思わないか?エルナ」
「何を馬鹿なことを。俺らの勝ちだ」
ミゲルが吼える。
「お前じゃない。俺はエルナに聞いてるんだ。どうだ?ここでの手打ちは互いに利がある。俺は今ここでこれ以上手の内を明かすつもりがない。そして、お前は既に満身創痍……ちがうか?」
エルナはハッとする。
少々誤解はありそうだが、エルナが……少なくともさっきのパフォーマンスがもう出せないことを敵は見抜いている。だがそれを理由に終わるのは悔しい。実質負けのようなものである。
黙り込んだまま睨みつけてくるエルナを見て、若頭はニヤリと笑みを浮かべる。
「どうするんだ?このまま戦いを続けたなら、おそらく勝つのは俺の方だぞ。俺なら一人でお前ら全員を片付けられるだろう。だがさっきも言ったとおりまだ手の内を知られるわけにはいかねえ。この世界はPKでぶっ殺しても情報は持ってかれてしまうからな。ということで……襲っておいてなんだが、ここらで手打ちにしねぇか?という意味だ」
ミゲル達を含め、全員の視線がエルナに集中した。
「わ……わかった。それでいい。でもっ!約束してほしい。もう私達に手を出さないと」
「あん?……そいつは約束できねえな。いつお前らが敵として現れるかわからねえのに、んなこと約束できるかよ。……それにだ」
若頭は腰に手を当てて、上から目線の素振りを見せる。
「この取引は俺にも当然利があるからの提案だが、お前らの利の方が大きいはずだ。条件つけられる立場か?あん?」
若頭の視線を真正面から受け止めるエルナ。
「私は……まだ戦える。アンタは全力で手の内を出し切って私達を殺せばいい。私はアンタの手を全部相棒に伝える。次から勝ち続けるのは……私よ」
「……」
にらみ返すエルナの視線を若頭も受け止める。
そして……
「相棒ってのは誰だ?そこにいるミゲルってヤツじゃないのか?」
「ミゲルは、大切な友人の一人だけど元パーティ仲間。今はたまたま行動を共にしているだけ。私のパーティ仲間はファクトたちよ」
「ファクト……」
エルナの言葉を聞いて若頭が考え込む。
「そいつは……調合士のファクトか?」
「そうよ!」
今度はエルナが自慢気にふんぞり返る。彼女が自慢気であることに根拠はない。
だが、ミゲル達は違った。目の前の盗賊がファクトの事を知っていることにやや驚き気味である。
「わぁった。今後一切手を出さねえって約束はできねえ。だが、しばらくは無視しておいてやる。しかし、こんなとこで繋がるとはな。おい、エルナ。教えておいてやる。あいつにゃ俺の舎弟が世話になってな。だからいずれ痛い目を見せなきゃならんのよ。だが……まだ時期が早い。再戦を楽しみにしてるぞ?」
「む!ファクトが何したってのさ!」
「仲間なんだろ?直接聞きな……あとミゲルだったか?お前たちにもしばらくは手を出さないことにしといてやる。エルナに見限られた哀れなパーティだと覚えたからな」
「んだと!コラ!」
「ダメ!ミゲル。わかりやすい挑発にのらないで!」
飛び出しそうになるミゲルをスフィアが必死で止める。
「あっははは。じゃあな!」
若頭は、死んで動かなくなっている大剣の大男とカットラスの男をひょいと抱え、何事か呟いた途端その姿は忽然と消え失せた。
「……《転移》か」
低く聞き覚えの薄い声がボソりと聞こえる。
「「「げ、げ、げいるがしゃべったっ!!」」」
若頭がその場から消えていなくなったことよりも、げいるがしゃべったことにエルナ、ミゲル、スフィアの三名は驚いてしまっている。
そんな三名の様子を見て、げいるは心外そうに憮然としていた。
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名前:ミゲル
性別:男
種族:犬の獣人
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職業:戦士
LV:13
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固有スキル
インパクト
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修練スキル
《シールドバッシュ》
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名前:スフィア
性別:女
種族:エルフ
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職業:白魔法使い
LV:12
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白魔法
ヒール
ハイヒール
プロテクション
マジックウォール
ストレングス
ディスペル(LV4)
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修練スキル
《バフ魔法全体化》
《聖拳撃》
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名前:げいる
性別:男
種族:狼の獣人
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職業:黒魔法使い
LV:15
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黒魔法
ファイアボール
ファイアアロー
ファイアウォール
フレイム(LV4)
エアシュート
ウィンドカッター
エアストーム
ストーン
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名前:リンクス
性別:男
種族:人間
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職業:探索者
LV:12
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ミゲルパーティは主要な内容だけ紹介しました。
ストーリー的にもっと主要になってきたら情報をのせるかもです。




