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イルグラード(VR)  作者: だる8
第二章 この世界を冒険する!
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第43話 鬼人戦士ランスロット

ここで一旦場面転換します。

「てあっ!」


 身体は(いか)ついが、目鼻立ちの整った見目麗しい男の鬼人戦士の長槍が一閃。槍に貫かれた小邪妖(コボルト)の身体は霧散する。直後、その奥で杖を構えていた魔法使い系の小邪妖(コボルト)の眉間に矢が突き立った。

 鬼人戦士の後ろで弓を構えている女ドワーフの探索者が放った矢だ。


『ギャァ!』

「よっしゃ!命中!」


 得意げに女ドワーフの探索者がガッツボーズをする。が、射抜かれた小邪妖(コボルト)はまだ倒れたわけではない。手負いのまま小邪妖(コボルト)は憤怒の形相で女ドワーフへ突撃をしてくる……が、その突進が実ることはなかった。

 矢に射抜かれた小邪妖(コボルト)の頭部は、鬼人戦士の長槍による横薙ぎによって既に胴体から離れていたからだ。


「くっ!」


 ホッとする女ドワーフ。しかし、今度はうめき声と共に鬼人戦士が膝をつく。

 (コボルト)たちもやられっぱなしで黙っていはいない。鬼人戦士の左肩と膝には後方の小邪妖(コボルト)たちが放ったと思われる矢が突き刺さっていた。


「ヒールッ!」


 ひときわ甲高い声で回復魔法が放たれる。

 すると、鬼人戦士の身体が薄い光で包まれ、突き立った矢が崩れ落ちて傷は見る見るうちに修復していく。


「ナイス!ありがとう!ティアナ」

「えへへ」


 回復魔法を使ったのは小人族の女白魔法使いだった。

 身体のサイズが小さいため鬼人戦士の陰に隠れると全く見えないが、このパーティの回復の要である。


「いいね!いい感じ!連携も素晴らしい!あたしたち本気で固定パーティ組んでみない?!」

「まだ戦闘中だよ?弓が一発当たったからって油断してないで!ボクがフォローしなかったら大変だったんだから!」

「もう……ランスちゃんったら堅いんだから」

「ランスじゃない。ランスロットだ」


 鬼人戦士に(たしな)められながらも軽口をやめない女ドワーフ。全身からお調子者オーラ全開だ。


「ミアがいい加減すぎんだ。ほら、奥にまだ魔法使いが残ってる。ささっと牽制してくれ」

「むむっ!」

「ミアちゃん頑張って!」

「任せといて!!ティアナのために頑張るよっ!」


 ミアと呼ばれた女ドワーフは小人族ティアナの応援に奮い立ち、つがえた弓でさらに後ろの小邪妖(コボルト)たちに射かけた。ランスロットの苦言は完全に無視である。

 さっきのように眉間に突き立つようなことはなかったが、矢は確実に小邪妖(コボルト)をとらえ、ダメージを重ねていく。ランスロットはそれを見て結果オーライと思ったか、それ以上は特に何も言わずに残る敵を見据えた。


「はっ!!」


 ミアの弓攻撃で乱れた小邪妖(コボルト)達の陣形に飛び込んだランスロット。愛用の長槍で一匹、また一匹と仕留めていく。言い争いをしてはいてもなかなかどうして息の合った連携である。三名は見事小邪妖(コボルト)の殲滅に成功した。


「やったね!ランスちゃん」

「『ランスちゃん』じゃない。ランスロットと呼んでくれとあれほど……」

「まぁまぁ。敵も倒せたことですし、いいじゃない」

「だよね~?ランスロットとか長いもんね!」


 ランスロットじゃ長いから……という理由でミアに勝手に『ランスちゃん』と縮めて呼ばれているが、ランスロット本人は納得していなさそうだ。この点に関してはティアナもミアの味方になってしまうので、ランスロットは意気投合している二人を見てため息をついている。


 実はこの三人まだ始めたばかりのプレイヤーであり、LV上げのためにランスロットの声掛けでたまたま集まった野良パーティである。

 ファクトと比べるとまだプレイ時間も短くLVもまだまだ低い。戦士であるランスロットがつい先ほど5になったばかりであり、ミアとティアナの二人はまだ4だ。強めの敵と対峙するには心許ない強さである。


 この場所は《あやかしの森》の入り口からやや奥に入り込んだあたり。ここで三人は小邪妖(コボルト)とゴブリンをターゲットに戦闘を繰り返している。(キラービー)に出くわしさえしなければ、安定して戦闘が続けられる美味しい狩場スポットであることを、先輩プレイヤーから情報を得て、やってきたのだった。


「お!ゴブちゃんはっけーん!」


 能天気な声でミアが森の奥へと走っていく。


「おい、気をつけて!あまり奥に行くと……」


 ランスロットの注意など全く聞いていないミアは、さっさと弓の射程まで近づくと、茂みの陰からゴブリンの群れの親玉に対して矢を放った。


『ギャギャギャギィーア!』


 矢は狙った親玉からやや外れ、群れで行動していた一匹のゴブリンの足に命中する。撃たれたゴブリンがその場に倒れ、ゴブリンの集団は騒然した。

 さらに弓を引いて射かけるミア。放たれたどの矢もゴブリンを倒し切れているわけではないが、次々とゴブリンたちに命中し、混乱させることでその行動力を無力化していく。


『ギャガ!』


 とそのとき、ミアが最初に狙った親玉の個体……他のゴブリンと比較してひとまわり大きいリーダー格のゴブリンが、なんとミアの放った矢を素手で掴んだ!その気力と底力に一瞬怯むミア。

 そして群れ目掛けて飛んでくる矢に苛立っていたか、矢の飛んできた方角……つまりミアが身を隠した茂みの方を睨みつけると、一直線に突進してきたのである。


(あ……ヤバ。これマズいかも)


 ミアは慌てて茂みから離れる。

 しかし、その姿は既にゴブリンリーダーに見られていた。


『グアッ!』


 ゴブリンリーダーの号令で一斉にミアに向けて襲いかかるゴブリンの群れ。


「ごっめーん!ゴブリンがトレインしちゃった」

「馬鹿ミア!気をつけてって言ったのに!」


 急いでパーティの元に戻ってきたミアにランスロットが文句を言う。が、もう起こってしまったことだ。群れであってもゴブリンならなんとかなるかも知れない。

 ランスロットは長槍を構えてパーティの戦闘に立った。

 もうゴブリントレインはすぐそこまで来ている。


「あ……ぁぁぁぁ!」


 ふと、白魔法使いのティアナが場違いな声を上げる。これから戦いを始めようとする時の声じゃない。その声には怖れと震えが混ざっている。


「ティアナちゃんどした?……あ!」


 ティアナに声を掛けながら、迫り来るゴブリンの群れに先制攻撃を仕掛けようと弓をつがえたミアにもそれは見えた。

 ゴブリンの群れに便乗するかのように、大型の蜂が数匹恐ろしい羽音を立てて向かってきていたのだ。


「ヤッバぁ~蜂がリンクしたっ!」

「うそぉ!この数のゴブリンを相手にするだけでもギリギリなのにっ!」


 ランスロットの視界にも(それ)は飛び込んで来た。戦いを続けるのか逃げるのか……一瞬の判断を迫られたランスロットは、その身体を硬直させてしまう。


「ランスッ!右来てるよっ!」

「!……ハァッ!」


 ティアナの声で我に返ったランスロットが愛用の長槍で一閃する。間一髪迫ってきていたゴブリンを打ち払うと、目の前の大柄なゴブリンと目があった。

 この相手を前に逃げはない……。ランスロットは愛用の長槍を力強く握りしめる。


「ランスちゃん!危ないっ!!」


 ミアの声がランスロットに届く。

 目の前のゴブリンリーダーの持つ斧が大きく振りかぶられる。

 そしてランスの左前には(キラービー)の毒針が目の前まで迫っていた。……もう蜂の迎撃は間に合わない。


 ランスロットは(キラービー)の迎撃を諦め、目の前のゴブリンリーダーに集中した。そして振り下ろされる斧に合わせ、獲物である長槍を振るった。


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