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イルグラード(VR)  作者: だる8
第二章 この世界を冒険する!
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第42話 素材集め~蜂蜜集め~そして

 『鳥の羽』の安定ゲットを一旦諦めたオレは、キラービーからの蜂蜜ゲットにシフトすることにした。

 女王蜂(クイーンビー)戦の時に入手した蜂蜜は全て『ブーストLV2』へ《調合》してしまって手持ちはないし、その『ブーストLV2』もワーウルフの群れとファイアバード戦とでだいぶ使ってしまった。無駄遣い……じゃなかったはずだが、使用したわりに結果が出ていないのは気持ち的に痛い。


 その点、(キラービー)での蜂蜜集めなら安心だ。

 戦いの実績はあるし、ドロップ率も申し分ない。《あやかしの森》もエルナを連れて歩き回ったお陰で、地図などなくても大体の位置が分かるほど地形が頭に入っている。

 いま出来る最も安心安全確実な稼ぎとも言える。


 早速アカシアの街をすぐ北にある森の入り口から入り、森の奥へと足を踏み入れる。


 ちなみに《あやかしの森》というとどうしても蜂系魔物が目に付くし、それが森の主要モンスターなのでそれでいいのだが、当然他にも魔物がいる。

 ゴブリンなどは典型的だが、それ以外にも森の入り口には角ウサギ(ホーンラビット)や、小邪妖(コボルト)なども出現するので、それらをターゲットに狩りをしているパーティに遭遇することもある。


 生産職は『生産をすることで効率よくLVを上げられる』ことを知ったため、オレ自身は結構ここまで早く上がる事が出来た……まぁ、実際にはレベルに合わない敵と運悪く対峙し、結果として倒さざるを得ない環境に遭遇したりしたことも、結果的にはLVの底上げを手伝ったという外的要因もあるわけだが。


 ただそれでも通常、戦闘職はパーティを組んで地道にLV上げをするのが普通だし、多数派でもあるわけで今でもLV5~6くらいの戦闘パーティに遭遇することはよくある。

 そんな彼らのターゲットとなる魔物を倒して邪魔してしまわないよう、オレはとにかく(キラービー)だけを狙って奥へ奥へと足を踏み入れる。


 森の奥で遭遇(エンカウント)するのは、ほぼ全てが(キラービー)である。

 しかも周囲の(キラービー)をリンクさせることが多いので、普通のプレイヤー視点で考えるなら《あやかしの森》の踏破(クリア)を狙うか、(キラービー)自体の討伐を狙っているのでなければ、奥へ足を踏み入れることはない。


 エルナとオレが踏破(クリア)をしてしまったので、しばらくダンジョンボスである女王蜂(クイーンビー)は出現しないようだが、(キラービー)の出現率は減っていないようだ。ちょっと戦ってみた結果、リンクして一緒に周囲の(キラービー)も襲いかかってくるので、集団と戦う覚悟で手を出すしかない。

 あれからLVが少し上がったオレではあるが、残念ながらまだまだ『ブーストLV2』なしで太刀打ちできる敵ではない。

 試しにドーピングなしで試してみたのだが、一瞬で袋だたきになりかけて危ないところだった。

 その時は慌ててドーピングして難を逃れたが、そもそも(キラービー)が強敵であるのは間違いない。未だにクリア出来たのが自分でも信じられなくなる程である。


 とはいえドーピングをしさえすれば、(キラービー)は全くオレの敵ではない。

 ドーピングをし続けることでアイテムは当然減っていってしまうのだが、(キラービー)の蜂蜜ドロップ率が良いので、差し引きプラスである。

 女王蜂(クイーンビー)と戦ったあの広場まで行って、エルナが当初戦っていた(キラービー)の群れとも戦ってみたが、時間はかかったものの問題なく討伐出来た。帰る頃には大量の蜂蜜はもちろんのこと、レアドロップのニードルボルトも2つゲットして、オレの懐はホクホクだった。


「……、……」

「…………だとよ。……」


 帰り道のことだ。《あやかしの森》のどこからか聞こえてきた話し声に反射的に草むらに身を隠すオレ。……いや、別に隠れなきゃいけないようなことは何もしていないのだが、これは単純にオレの勘だ。ただどっちにしても、オレが身を隠したところでプレイヤーには設定次第で名前表記が見えてしまうし、あまり意味はない。探索者や隠密?のような職業があれば隠すスキルがあっても良さそうだが、そんなものをオレは持ってないので、出来ないことを考えても仕方ないだろうとは思うのだが……。


 そっと声のした方をのぞき見ると、そこには二人のプレイヤーがいて何事かを話し込んでいる。


「それにしても……だ。……が……で、……なんてな」

「肝心な……役に……だ。おかげで……」


 少し近づいたせいか、それなりに声がハッキリ聞こえてくる。が、内容が理解出来るほどではない。

 たまたまだろうが、オレの隠れている茂みは彼らの背後側であるために、今のところ二人に気づかれる様子はない。とはいえ、振り向かれたらすぐにバレる程度のものだ。こちらからは二人の名前がしっかり見えるので、逆もまたしかりというわけだ。これ以上話の内容を聞きたいなら何か工夫が必要である。


(……ていうか、あいつら鬼人(グレン)の元仲間じゃないか?)


 モルトの街の戦士ギルド……そう、最初のるージュ……鬼人(グレン)の呼び方を踏襲するなら、るー坊の離脱騒動があったときに一度見ただけだが、その名前には見覚えがあった。

 黒魔法使いのアサルトに、白魔法使いのがーらんど。


 正直ちゃんと名前を覚えていたのは白魔法使いの『がーらんど』である。……某有名ゲームの重要人物の名前が平仮名登録されていたので印象に残っていたのだが、その名前とセットで目の前にいるアサルトという男がいたのは覚えている……というか思い出した。


 オレの中で今のところ警戒心MAXの二名がたまたま目の前で会話している。ただそれだけで、オレの心は「すぐに離脱すべき」と「会話の内容を聞いてみたい」の二つの選択肢で揺らいでしまう。


 ほんのちょっとだけ迷ったが、このまま二人の会話を盗聴を続ける方を選択した。といってもこのままではダメだ。

 オレは周囲を確認してちょうど良い木を見つけると、素早く木に登る。


 イルグラードが完璧でないVR世界であることにオレは感謝した。

 というのも、大きな音はしっかり周りに響くように聞こえるのだが、木に登るときに聞こえる程度の微細な音は、この世界でまだ再現されてないのだ。もちろん、枝を折ったり茂みをかき分けたりすれば、その音はバッチリ聞こえてしまうので注意は必要だが……。

 よって、細い枝を伝う事は出来ない。太い幹から伸びる強靱な枝を足場にするしかないが、一時的な目くらましと会話を盗み聞きするだけならこれで充分だ。


 オレは二人の会話に耳を澄ませた。


「全く……思うとおりに……。……成果が……。このままでは……」

「……で仕掛ける……。多くの……いれば、……いけるはずだ」

「だが……かったら、どう責任……」

「問題ない。今度こそ……上手く踊って……。でなければ、……の奴をけしかける」

「……大丈夫か?そもそも……からして、フィリップの……ためしがない」

「でもっ……」

「待て!静かに!!」


 急に警戒した二人の行動に、オレは心臓がキュッと締め付けられる。とにかく身体を硬直させ、指一本動かさないよう静止する努力をするしかない。この状況で見つかるのはかなりマズい。

 しばらくアサルトとがーらんどの二人は周囲をキョロキョロと伺っていたが、幸い上に視線を送ることはなかった。


「お前の声は……もう少し注意……」

「いま絶対に誰か……。もう少し捜索……のではないか?」

「そんな暇は……。いいな?首尾良く……」

「わかった。……を祈る」


 アサルトとがーらんどの二人はそれぞれ別の方角へ……方角が行き先を示しているのなら、アサルトはモルトの街の方へ。がーらんどはオレの知らないあさっての方角へとその姿を消した。

 それからしばらく時間が経つのを待って、オレは木から下りた。


(あいつら……高確率でクロか)


 話の全てが聞こえたわけではないが、明らかに人に聞かれたくない会話……密談をしに《あやかしの森》に入っていたとしか思えない。

 しかも(キラービ-)が出現する奥地である。オレのような特異なプレイヤーでもなければ、本来はダンジョンボスが倒されて旨味(うまみ)のないこの場所にやってくる動機もないのだ。

 オレの中でアサルトとがーらんどの二人が、オレ達と敵対する『盗賊』であることが確定した。同時に鬼人(グレン)のシロも濃厚だ。

 ただ、どうして白魔法使いだったり黒魔法使いだったりすることができるのだろうか?かつてオレを狙った盗賊のガキのように、姿を偽っている?それとも例えば『盗賊:白魔法使い』のように、盗賊の中に細かい職業分けがあったりするのだろうか?


 わからないことを考えたところで結論は出ないが、想定しうる事態は出来るだけ想定しておいた方がいい。何故なら連中は『仕掛ける』と言っていた。しかもフィリップという男を介して何事かを起こすらしい。


 具体的にどこでどんな行動を起こすのか?までは残念ながらわからない。が、これから起こりえることを警戒するには充分な情報である。

 この情報をすぐに伝えなくてはと思ったオレは、フレンド通信を使って(ガドル)にこの事実を連絡した。エルナは……インしてからでいいだろう。


 それでも不安材料は多い。

 第一に連中の強さが分からないということ。少なくとも最低限単独?で《あやかしの森》の深部を闊歩できるくらいには強いハズだ。

 第二に連中の規模が分からないということ。身近にいそうなプレイヤーの中にどれだけの盗賊プレイヤーが潜伏しているかが不明である。


 オレは一つため息をつくと、《あやかしの森》を後にしてアカシアの街へと戻ることにした。

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