第38話 湖岸をゆく
オレは今、アカシアの街を出てアロエなどの素材集めをしながら、鳥系の魔物のいる場所を目指して移動中だ。
ギルドから買ったレシピはどうだったか?だって?
……聞くな。とだけ言いたい。あってもなくてもいいようなレシピが3つ増えただけ。残念としか言いようがない。簡単に紹介すると下の3つになる。
毒消し薬 ……ランクE
麻痺治療薬……ランクE
木片 ……ランクE
薬2つはまあいい。
ランクこそしょぼいがそれなりに役に立つ基本アイテムだし、今後お世話になることもありそうだ……が、衝撃的なのは3つ目だ。木片ってなんだよ。木片って。何の役に立つのか全くもって不明だ。
暖炉で燃やして暖をとるか?
それとも魔物の肉でBBQでもしちゃうか?
もしくはスモークチップ的な使い方で、食材を燻しちゃうか?
……どれもVRゲームに要らんだろ。
材料も木の枝だけ。
そして調合したところで機能性アイテムではなく素材アイテム。つまり木片を使用するレシピがない限り完全なゴミレシピだ。販売額も当たり前のように大した価格ではないため、調合する価値が見いだせない。
ついにオレのリアルラックのなさが露呈した形になった。もともとわかっていたことではあったが、『ブーストLV2』があまりにも当たりだったためか、失望感が大きい。
……よって『聞くな』という回答になる。思い出したくもない。
まぁ、クエスト報酬などで得られるランダムレシピ板で『木片』なんて引き当てたら発狂モノだ。そう考えたら今レシピを出せていて良かったのだろうが……。
憂鬱……というほどでもないが問題は他にもあった。
オレが外出すると聞いた後輩調合士のフィーロがついてくると言い張って聞かないのだ。
正直付いてきて欲しくない。オレの『ブーストLV2』を見られたくないからだ。
これからターゲットにしようとしている鳥系の魔物の強さ次第ではあるが、身の危険を感じたら『ブーストLV2』の使用を惜しまないつもりだ。その時点で一人の方が見極めもしやすいし、逃げを打つにも一人の方が楽だ。
何より危険だった時に無事に逃げるための使用で、正直パーティメンバでもないオレ以外のプレイヤーに『ブーストLV2』を使いたくない。
ちなみに後輩……とは言ってもフィーロのLVは既に9となっており、見かけ上はオレよりよっぽど強くなっていたので「一人の方が動きやすい」という理由が説得材料として使えなかった。これは意外に誤算である。
結局、クリエタをダシに使わせてもらった。
簡単に言えば、フィーロがギルドへクエストの達成報告をしている間にササッと逃げ出してきたわけだ。
そんなこんなで出発が少し遅れてしまったが、とりあえず一人で出発することは出来た。後輩調合士のフィーロはある意味お仲間かもしれないが、今はまだオレのプレイにおける優位性をわざわざ公開してやるほどの義理はない。
話を元にもどそう。オレはアカシアの街を出て湖岸を南下中だ。もちろん目的はアリスから得た情報をもとにスタンダードボルトの素材である『鳥の羽』をゲットするためだ。
分かっているのは鳥系の魔物からドロップする素材だと言うこと。そして目的の鳥系の魔物がアカシアから湖岸沿いに南下したあたりで出現するということだけ。……冷静に考えればどんな魔物なのかも分かっていない……わりとふんわりした情報だ。
想定できるもっとも悪いシナリオは、対象の魔物が強いためにドーピングしたオレ状態で、戦うことも逃げることも出来ずに死亡退場してしまうことである。
そんなことになるつもりはさらさらないが、情報がない分怖い面もある。
ただし、良いこともあった。というのも、アカシアの街の湖岸沿いは素材の宝庫だったのだ。
ちょっと見渡せばアロエはすぐその辺に見つかるし、新しい薬……毒消し薬や麻痺治療薬レシピで使用するドクダミも大量に発見する事が出来る。ある程度纏まった数が集まる度に《調合》しながら進んでいるのだが、すぐに集まってしまうためなかなかオレの歩みも進まない。
アカシアを出た時点で2~3個しか持っていなかった『回復薬小』は既に200個以上《調合》済みだ。『毒消し薬』と『麻痺治療薬』についてもそれぞれ100前後は手元に存在している。回復薬小のストックもそれなりに増えたので『ブーストLV2』の製造も再開することにした。
アロエはその辺に大量にあるので、手元にある分だけ一気に作り上げると手元の『ブーストLV2』は52個出来上がったところで『蜂蜜』の在庫が尽きた。まぁこれだけあればとうぶん困ることはないはずだ。
この時点で、オレのLVは一つあがり8になった。じつに順調である。
蜂蜜を使い切ってしまったので『ブーストLV2』の《調合》は一旦停止。あとは足元にあまりあるアロエとドクダミを使って回復アイテムの大量生産だ。
……ますます歩みは遅くなり、湖岸の沿いの道の途中で座り込んだまま《調合》をひたすら続けるオレの姿はかなり異様に見えるのか、道行くプレイヤー達に高い確率で二度見される。
うむ、変人でいいさ。オレは開き直って自分のスタイルを貫き通すことにした。
目的である鳥系の魔物に遭遇した時には既にあたりは暗くなり始めていた。イルグラード時間で丸一日分、道ばた《調合》をしていたことになる。
鳥系の魔物とのファーストコンタクトは、調合中のオレに向かって上空から放たれた魔物の蹴りだった。
死角からの突然の攻撃にオレは面食らったが、すぐに腰から抜いたハンティングダガーで応戦した。するとオレをあざ笑うかのように鳥系の魔物は上空へと逃げ延びる。
「やってくれる……」
オレはクロスボウを取り出し、ウッドボルトをセットすると攻撃してきた鳥系の魔物に向かって狙いをつけ……撃った。
果たして、オレの射た弾は正確に鳥系の魔物の頭部を貫いた。鳥系の魔物は地面に落ちる間もなく霧散する。
一撃必殺である。
そして、その結果に安堵しているオレがいた。
(よし、これならイケる)
クロスボウ+ウッドボルトの組み合わせで一撃で倒せる敵であるなら、なにも怖くはない。空を飛んでいようが身体は少々大きかろうが、蜂より弱いならタダの美味しい獲物である。ドーピングの必要も無さそうだ。
オレはここでやっと《調合》の手を止め、鳥系の魔物狩りにシフトした。……が、辺りが暗いせいか、全くといって敵が見当たらない。
かといって明るくなる朝まで待つのもしゃくであるし「明るくなってからまた来る!」と誓って戻ったところで、また道中で素材集めをしてしまう危険性がある。それはそれでいいのかもしれないが……。
結局、意地になったオレは周りの暗さを気にせず空を見上げ、敵を探し続けることにした。
だが……オレはもう少し周りを警戒すべきだったのかもしれない。
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名前:ファクト
性別:男
種族:ドワーフ
称号:クイーンビーバスター
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職業:調合士
LV: 8
腕力:19+ 6(STR+50%)
活力:20+13(VIT+70%)
敏捷:19+ 5(AGL70%)
器用:36+ 1(DEX+50%)
魔力: 9
運 :11
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武器:ハンティングダガー(STR+12):即死効果50%
盾 :
サブ:クロスボウ(STR+10):命中精度80%UP:調合士装備時
弾 :ウッドボルト(STR+5)
頭 :レザーヘッドギア(VIT+2)
手 :レザーグラブ(DEX+2)
胴 :ハードレザージャケット(VIT+12):毒無効
下肢:レザートラウザ(VIT+4)
足 :ハードレザーブーツ(AGL+10):移動速度20%UP
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所持金:
490G
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固有スキル
調合
アイテム鑑定:調合士
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修練スキル
虫の知らせ
必中 new!
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レシピ
回復薬小
毒消し薬 new!
麻痺治療薬 new!
木片 new!
ウッドボルト
スタンダードボルト
ブーストLV2
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受注クエスト
回復薬小の納品(束)
新作武器の材料調達
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