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イルグラード(VR)  作者: だる8
第一章 物語の始まり
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第3話 キャラメイク

 意識を失った……と思ったが、どうやら意識はある。

 『意識を失った』と認知できている時点でそれがオレの意識だ。でもまるで現実感がない。これがゲーム世界に入り込んだ感覚だということだろうか。


『ねぇ、ぼぅっとしてないでこっちにおいでよ』


 どこからか声が聞こえてくる。

 声の主を捜そうと思った瞬間、オレの目の前で世界が開けた。


 一面、薄い水色の光で輝く世界。その中央に一人の女性?が浮かんで(・・・・)いる。


『ん……下から覗き込んでもプログラムされてないから何も見えないよ?そんなことより、ゲーム始めたいんでしょ?』

「べ、べつに覗こうとしたわけじゃ」


 オレは慌てて言い訳する。すると目の前に浮かんでいた女性はすうっとオレの近くまで音もなく(・・・・)やってきた。


「そ、そうだ。ここはゲームの中で間違いないんだろ?BGMとかないの?」

『ん……ここにはないかな。会話が聞こえないと困るからね。それよりゲーム始めるんでしょ?ここはキャラメイクするとこだよ。君の容姿や名前、性別、職業、種族などを決めるんだ』

「そもそも、お前は誰だ」


 とりあえず、初見の相手が何者かを知りたい。

 ゲームのキャラなんだろうけど、とにかくオレにゲームを始めさせたくて仕方ないといった様子だけが伝わってくる。


『ん……うーん。出来ればゲームの進行に従って欲しいんだけど』


 女性は不満そうだ。いや、『不満』と言っていいのかも分からない。ゲームとしてプログラムされた進行に従おうとしているが、オレが先に違うことを聞いてくるから困惑しているといったところだろうか。しかし四角四面に進行に従うという様子でもなく、こうして悩んでいるところを見るとまるで人間のような思考回路を持っているように見える。


(AI……みたいなもんが、組み込まれているということ?)


 可能性はあるだろうと思う。

 先進技術をつぎ込んでゲームを展開しようとするくらいだ。AI人格の一つや二つ組み込まれていない方がおかしいかもしれない。


「わかった。じゃあキャラメイクを先にしてやる。どうしたらいいんだ?」


 オレの言葉を聞いて、目の前の女性キャラの表情がパッと明るくなる。かなり人間に近づけているのだろう。しばらく生身の女性とコミュニケーションを取っていなかったせいか、たったそれだけの表情と仕草でこっちがドキドキする。


『ん。じゃあね。まずは……『貴方の名前を告げよ』』


 女性は急に声色を変えて話し掛けてきた。これはプログラムされた行動に違いない。

 もし最初からこの声でゲームが始まっていたら、素直に進行に従っていたかもしれないと考える。きっと余計な人間くささが進行を妨げてしまったに違いない。これはクローズドβテストなのだから、もし後でプレイ感想を求められるようなことがあれば、このことは確実に伝えようと脳内にメモする。


 そして次にオレはアバターについて考える。


(名前……か)


 そう言えば想像ばかり膨らんで、結局どんなキャラでプレイするかなど全く考えていなかった。急に名前を決めろと言われてすぐにいい名前など浮かばない。

 仕方なくいつもゲームで使っているアバター名をそのまま使うことにした。


「名前は……」


 女性キャラに向かってオレが(こえ)で答えようとすると、突然目の前に入力フォームが現れる。

 [かな][カナ][英数]などのボタンもある。確かに口で答えても文字種類の判別はしづらい。なお残念ながら漢字名にすることは出来なさそうだ。ただ、オレのキャラ名を入力するには何の不都合もない。


 オレは目の前の入力フォームを使って『ファクト』と入れる。実に中二病っぽい安易な名前だが、オレはこの名前が気に入っている。


『次にお前の姿を決めよ』


 女性キャラがそう告げると、オレの前にはいくつかの種族と性別の選択肢が現れる。同時に使い方の分からないスライドスイッチが浮かんでいる。マイクなどの音量を変化させるときに使うようなあの上下に動かすスイッチだ。他にも身長、体格などもいじれるようだ。隣には鏡に映したような自分の姿が浮かんでいる。


 種族の選択肢には人間のほか、エルフ、ドワーフなどファンタジーではおなじみの種族。そして数種の獣人も選べるようだ。鬼人なんてものもある。

 オレはそのボタンをパシパシ叩くように選んでみる。浮かんでいる自分の姿が、もとの自分の姿と選んだ種族が混じる形でキャラが描画されている。オレは絶望的な事実に気づいてしまった。


(折角別人になれるというのに、イケメン設定が難しいじゃないかっ!)


 恐らくキャラの個性を多種多様にするためのシステムなのだろうが、オレの残念な容姿では限界がある。使い方のわからなかったスライドスイッチは自分自身と種族の混ざる率を変化させるためのスイッチだった。

 イケメン……に設定出来ないのであれば、いっそ出来るだけ自分の姿が想像しにくい遠いキャラにしてしまう方がいいとオレは思った。


 まず選択する種族はドワーフだ。それだけで体格も顔もおよそずんぐりむっくりになる。自分成分を減らしていくことでどんどん身長は縮み、髭は伸び、肩幅が広がっていく。皮膚もドワーフらしく浅黒く変化していく。……実にいい感じだ。結局、ほんのちょっとだけオレの容姿成分を残してほぼ全てをドワーフにすると、身長を少しだけ高めにいじり、肩幅はデフォルトよりもさらにやや広めに設定する。あまりやりぎても所謂(いわゆる)ドワーフ感がなくなってしまう。それはそれで避けたい。


 気づけば、ガチムチのドワーフが出来上がっていた。キャラの容姿だけで威嚇できそうである。


(……思いのほかいい感じだ)


 随分悩んだ末の結果だったがそれなりに納得のいくキャラメイクが出来たと実感出来る。


『次はお前の職業を決めよ』


 女性キャラの声が厳格そうに響くと、今度は目の前に選択することが出来る職業の一覧が現れる。

 戦士、黒魔法使い、白魔法使いなどRPGではおなじみの職業のほか、鍛冶、商人などの商売系、そして探索者などといういかにもな職業も目に入る。そしてそれぞれの職業アイコンに触れると、簡単な説明文が現れるようだ。例えば……


 戦士……身体を張って戦う肉体派。様々な武器を使用することが出来る。


 などだ。説明が簡易的過ぎるために、職業によっては説明不足ではないかと思われるほどだ。恐らく配布された分厚いゲームマニュアルにはもっと詳細な説明書きが書いてあるのだろう。こんなことならしっかり読んでおけば良かったと後悔する。

 職業の方向性にバリエーションはあるものの、選択できる職業は八つだ。少ない気がするので恐らくゲーム内で上級職を選択するイベントなどもあるかもしれない。


 そう考えながら改めて職業のリストを見つめる。

 戦闘職と思われる職業が三つ。戦士、白魔法使い、黒魔法使い。RPG経験者なら名前だけで役割が分かるほど説明が要らない職業である。

 次に商売系職業として、鍛冶、調合士などの生産職と商人。

 最後にいかにも冒険家らしい探索者、そして盗賊だ。


 一つ一つの簡易説明を読みながら、どれを選ぶか考える。

 恐らく戦闘職はわかりやすいがために人気が殺到するであろうことが予測出来る。となるとなかなかオンリーワンなプレイが難しいかもしれない。そこでオレはまず戦闘職を候補から除外し、それ以外から選ぶことにする。

 ドワーフらしいと言えば鍛冶職だが、それはそれでベタ過ぎて面白くない。


 この時点で気になったのは『調合士』と『盗賊』

 『探索者』も悪くないが、これもいかにもな感じが戦闘職と同じ理由でオレは候補から外すことにした。


 改めて候補の二職について説明文を読み返してみる。


 調合士……素材を『調合』をすることでアイテムを生み出せる。アイテムの使用効果は他職より高い。

 盗賊………唯一プレイヤーキャラと戦闘する事が出来る。他プレイヤーからアイテムを盗める。


 鍛冶の説明と調合士の説明は似ていて、主に二者の違いは装備品を作るのかアイテムを作るのかの違いだ。また盗賊の扱いが、他のRPGで見られるトレジャーハンター的なものではなく、ガチであることが気になった。上手くすれば他プレイヤーの入手したレアアイテムを掠め取る事が出来るということだ。ただ、その一方でその他全ての職業から袋叩きに合う可能性もある。他職は盗賊と、盗賊はその他全てと戦うことが出来るからだ。


 盗賊……の扱いにかなり興味は湧いたものの、真に仲間と呼べるのは同じ盗賊を選んだプレイヤーのみという制限がオレの心を鈍らせた。


(うん。ここは無難にいこう。きっとアイテム合成は楽しそうだ)


 こうして少し悩んだ結果、オレは『調合士』を選択したのだった。


『ドワーフの調合士……ファクトよ。よくぞ訪れた。私は女神ヘレネ……イルグラードを統べる者。お前を住人として歓迎しよう。ゆくがいい!』


 目の前のこの女性キャラはどうやらゲーム世界の女神設定らしい。それにしては随分気さくな物腰だった。

 ちゃんとストーリーが始まる前だったため、油断していたのだろうか?芝居がかった台詞(セリフ)を話したり、そうしたやり取りが始まる前の無垢な雰囲気といい、AI人格が組み込まれているんだな……と、オレは勝手に想像する。


 現実の世界で人に近いAI人格頭脳を持ったロボットが台頭するには、まだまだ技術が追いついていないが、こうしたVRの世界では理想的な自立キャラとして動かせていることにオレは感動した。ヘレネの『ゆくがいい!』の言葉に特に反応することなくオレは小さな感動に打ち震えている。


『ん……いっといでってばぁ』


 感動したのもつかの間。プログラムされた行動をやり切って満足した女神ヘレネのゆるい言葉を最後に、オレの目の前は真っ白になった。

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