第285話 炎神 v.s. 片手湾曲剣
《主サン。出番デスカ?》
魔槍『炎神』を握りしめたミゲルに声が聞こえてくる。そう、この声こそ魔槍『炎神』に宿ったAIの声だ。
AIを搭載するほど特別扱いの武器……ミゲルはこれこそがイルグラードにおける最高ランクの装備であると信じている。ウィルフォードの攻撃が鋼鉄の盾を抵抗もなく切り裂くほどの攻撃だったとしても、炎神だけは斬られることはない。そういった強烈な信頼感がこの武器にはある。
だが、それでもミゲルは聞かずにはいられなかった。もちろん……口には出さない。
『炎神。今戦ってる相手が何でも切り裂いてくるようなスキルで攻撃してくるんだけどよ?まさか炎神が斬られてしまうようなことはないよな?』
ウィルフォードの放つ斬撃。あれは普通の攻撃じゃない。
例えば|白虎印のミスリルシールドをもってしても、難なく切り裂かれてしまいそう……そんな恐れを抱かせるほどのインパクトがあった。
さすがに《皇宮の守護者》を発動した状態で突破されることはないだろうが、毎回スキルを発動して防御するわけにもいかない。なんとか使わずに武具の性能だけで耐えなくては勝ち目がないだろう。
もちろん最強クラスの武器であるという信頼感はそのままに、ミゲルとしては確認をしただけだ。
《主サン。私ハ不滅デス》
『オーケー!その回答だけで十分だ』
期待した回答を得られたミゲルは、自信満々でアイテムボックスから魔槍『炎神』を引き抜いた。新たな武器を構えたミゲルに対して、やや驚いた表情のウィルフォードだったが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。
「そいつが俺へのプレゼントかぁ?ミゲル。ありがたくてめぇをぶっ殺してそいつをもらってくことにしよう」
再びウィルフォードが襲いかかってくる。またあの通常より遅く感じるあの攻撃だ。ウィルフォードの普通の攻撃がもっと素早くキレがあるせいで、かえって必殺のスキルが丸わかりというちょっと残念な状況だ。
が、それでもいなすことが出来なければ結果は先ほどと同じになる。でなければなんとかして回避し続けるしかない。通常であれば……。
だが、ミゲルに逃げはない。
隣にはスフィアがいる。彼女にウィルフォードの攻撃をいなす手段はない。回避することはできるだろうが、今度はその背後にグレンパーティの面々がいる。その中でも白魔法使い……いや、聖魔師と知られたケーラはすでにウィルフォードの的だ。
そもそも……魔槍『炎神』を手にしたミゲルはすでにウィルフォードのスキル斬撃は怖くなかった。実際に試したわけではないが、魔槍『炎神』の言葉がすべてを語っている。問題ないと。
ミゲルは炎神に魔力を込める。すると穂先は炎に包まれた。そしてその状態で迫るウィルフォードの斬撃に向かって攻撃したのだった。
……
先ほど盾ごとミゲルの腕をぶった斬ったウィルフォード。
相手が次にどんな武器・防具を出してこようと、恐るるに足らず。と考えていた。そもそもこれまで斬殺してきた冒険者のすべてが、斬殺の刃の前に倒れてきた。
そして二回目に対峙した者が居たとしても、みな斬殺の刃を恐れて逃げ回り、隙を突いて攻撃してくる奴らばかりだったのだ。
ウィルフォードはそうした冒険者を見逃すことなく、斬り刻んできた。誰もが俺を恐れるように。二度と刃向かうことのないように……。そして目の前に立ちはだかったミゲル。かつて斬殺の刃に目覚める前に痛い目を見せられた因縁の相手だ。
もっともウィルフォード自身、直接ミゲルに土をつけられたわけではない。当時のパーティメンバー(エルナ(実際は同行していただけ)、スフィア、げいる)の連携によって屈したのだが、そのメンツを引き連れていたリーダーであるミゲルは、ウィルフォードにとって因縁の相手になっていた。
そんなミゲルに対して先制の斬殺の刃によるクリティカルヒットを出せたウィルフォードは既に勝利を確信していた。
だが、ここで想定外の事態が発生する。
身体欠損を回復させる究極の回復魔法……完全治療でミゲルのダメージを帳消しにしてしまう相手が居たのだ。
若頭から、そういった回復が出来る職業があるから注意しろと聞かされていた上級職『聖魔師』。いつ対峙しても気が抜けない……ウィルフォードはミゲルに対しての認識を冷静に改める。
もちろんミゲルだけの力ではない。
そして完全治療に関しても、消費魔力が大きいため連発は出来ないはずだ。完全治療が再詠唱される前に刻んでしまえばいい。
ウィルフォードは迷い無く次の攻撃も斬殺の刃を選択した。
ミゲルとて何度も何度も完全治療で回復してもらえるなどとは思っていないはずだ。であれば、少なくとも俺の斬殺の刃に対しての行動は回避であるはずだ。
……そこに俺の勝機がある。
ウィルフォードの放つ斬殺の刃は確かに通常攻撃より動作が遅く、モーションもわかりやすい。
どちらかと言えば初見殺しのスキルだ。油断してヘラヘラと受けようと構えた愚かな冒険者に致命傷となる一撃を与えることに意味がある。だが、初見殺しを回避できた相手にも、二撃目の効果は絶大だ。
回避しなくては危ない。
と、なまじ理解してしまっているため、恐れが先に立った獲物は凡庸な回避行動を取るのである。
回避によって体勢を崩した獲物の首を片手湾曲剣の一撃で刎ねる。これこそがウィルフォードの必勝パターンだった。
そうして積み上げた必勝の思考は斬殺の刃を放つウィルフォードの脳内で、ミゲルがどこへ回避するか?しか予測していなかった。そのため、どこへ回避するでもなく、ウィルフォードの繰り出した斬殺の刃に対して攻撃をしてくるなどと夢にも思わなかったのだ。
ミゲルの構えと行動に対して、ほんの一瞬混乱するウィルフォード。しかし自分が圧倒的に優位の状況。慌てて行動を変える必要は……ない。
下した判断は、仲間を守るための自爆突進攻撃を繰り出してきたミゲル。
「あ?自ら死にてぇのかよ?そんなら望み通りにぶった切ってやるわっ!」
ウィルフォードは自分の勝利を確信し、斬殺の刃を振り抜いたのだった。
……
ミゲルは自身の魔力を纏わせた魔槍『炎神』とともにウィルフォードのスキル斬撃に向かって突進する。そして両手でしっかりと掴んだ魔槍『炎神』を右下から左上に向かって斬りあげるように斬撃へと攻撃を繰り出した。
ギィン!
振り下ろされるウィルフォードの斬殺の刃とミゲルの魔力を纏った魔槍『炎神』。互いの攻撃が耳障りな金属音をたててぶつかった。驚愕の表情を見せるウィルフォード。一方、ミゲルはしてやったりといった笑みを浮かべる。
攻撃のぶつかり合い……という意味では互角だったが、精神の戦いはミゲルの圧勝だ。
「斬れないだとぉぁっ?!」
思わず叫ぶウィルフォード。そこに大きな隙が生まれた。
驚くウィルフォードとは対照的に、ミゲルは結果に動揺することなく即座に追撃行動に入っていた。




