第284話 襲撃:カットラスの男
「ミゲルッ!」
「っち!こいつらマジか!」
ミゲルが酒場の入り口を警戒した直後のことだった。
スフィアの声で反射的に身をそらすミゲル。そして直前までミゲルの頭部があった場所で空を切る斬撃。とっくに襲撃者はこの一角まで侵入してきていたのだ。これでは《皇宮の守護者》を発動させる意味がない。
「おまえら気張れっ!前言撤回だ。自分の身は自分で守れっ!」
ミゲルは残されたグレンパーティへ声を掛けると返事も聞かずに飛びかかってきた襲撃者に向かって盾を突き出した。
ベキッとイヤな音を立てながらミゲルの左手に転がる襲撃者1。だが、それを確認する余裕などなく、真正面から飛びかかってきた次の襲撃者2に向かって愛用の戦闘用金棍棒を叩き込んだ。
襲撃者のレベルは……たいしたことはなさそうだとミゲルはあたりをつける。
ミゲルはここまでの戦いの中ですでに騎士のレベル7に到達し、総合レベルは27。まだ中堅レベルであると実感しているミゲルの一撃で動けなくなっているところを見ると、まだ20に到達したかも怪しい盗賊だろう。
もちろん統括している奴は違うだろうが……これだけの襲撃作戦であれば、確実に頭がいる。横を見れば、スフィアが素手で襲ってきた2人の盗賊をボコボコにしているところだった。
背後ではモスラを中心にザイードとケールが小さな陣形をつくるように固まって防衛戦を展開している。この程度の強さの相手であれば、彼らでも全く問題なさそうだ。あとはこのまま防衛戦を続けるのか、それとも打って出るかだが。
先んじて飛び出していったグレン、フルカス、アイラが戻ってくる様子はない。
恐らく彼らなら問題はないだろうが、だからといって馬鹿正直に延々と防衛戦を続けるのも愚策だろう。少なくとも酒場は出るべきだ。
「スフィア、行けるか?」
「もちろんです。酒場を出ますよね?」
「あぁそうだ」
状況を分かっている相手は話が早くていい。出来れば外にいるファクトやエルナと合流出来るのが一番だ。
これだけ騒ぎになっていれば、少なくともこちらを気にしている筈。
チラリと再び背後に視線を向けると、モスラ達も小さくうなずいた。
その間もどこからわいて出るのかと思うほど、盗賊達は延々と襲ってきている。あまり強くないのが幸いし、ちょっとした無双気分を味わえているミゲルだったが、全く油断はしていない。いつ強い相手が来るかと思うと、気を抜いている暇などなかった。
ふと……襲撃が止んだことに気づいた。
店の奥から移動を始めたミゲルが、ちょうど店内の中央あたりまでやってきた頃である。目の前にはどこかで見たことのあるような片手湾曲剣を腰に携えた男が、腕組みをしたまま仁王立ちしていた。
「奥の殲滅がままならねえと思ったら、てめえがいたのかよ、ミゲル」
「……そういうお前は、以前うちのスフィア……白魔法使いに殴られて昏倒した貧弱君じゃねえか。お前がこの襲撃の旗振りか?」
ミゲルの煽りに、ギラッと刺すように視線が鋭くなったが、すぐに冷静さを取り戻したように。元の表情に戻る。
「俺はあれから強くなった。どんな奇跡が起きようとも、そこの白魔法使い程度にのされることなどない。未熟だった俺を以前倒せたことを誇りに思うがいい」
カットラスの男は、腰に差した片手湾曲剣を抜いた。
ミゲルは視線でスフィアに下がるよう伝える。
「さあ?遊ぼうぜぇ?」
ウィルフォードが襲いかかってくる。
正直なところ、その動きをみたミゲルは遅いと思ってしまった。だから片手湾曲剣の動きに合わせて盾を構えたのだが、片手湾曲剣の斬撃はミゲルの構えたカイトシールドで止まることなく、軌道も変えずにミゲルの肩口に迫ってきた。
「んだとぉっ?!」
ギリギリで身体をひねることで、なんとか直撃を躱したミゲルだったが代償としてミゲルの左肩から先が床に落ちた。持っていた鋼鉄のカイトシールドは真っ二つに斬れている。なんとも恐ろしい切れ味だ。それが結果であることを信じにくいほどに。
一瞬遅れて激痛が襲いかかるも、即座にスフィアから回復魔法が飛んできて痛みは収まる。が、スフィアのそれは欠損した腕が戻る回復魔法ではない。手痛いダメージを受けてしまったと舌打ちをするミゲル。
その様子を見たウィルフォードがニヤリと笑みを浮かべる。
「勝負あったな。舐めてたな?この俺を」
「……ちゃんと奥の手はあるから心配いらねえよ。かかってこいや」
確かにミゲルに奥の手はある。もちろん魔槍『炎神』のことだ。
が、片腕を失ってしまった状態……万全を期することが出来ない状態で万が一にも負けることがあると、盗賊に魔槍『炎神』を奪われてしまうことになる。万全なら力不足と気持ちの整理もつくが、無駄に奪われることは避けたい。それが今のミゲルの偽らざる本心だった。
他にも気になっていることはある。
たまたま手にしていたのが《皇宮の守護者》発動のための鋼鉄のカイトシールド。それがウィルフォードの繰り出す斬撃に対応できないことは分かった。だが、ガドル作『白虎印のミスリルシールド』ではどうだったのだろうか?
もしそれでもダメななにか特殊な攻撃であったなら、この先も受けることなく回避に徹するしかない。もっとも試したい気持ちはあっても肝心の盾を構える左腕が……と、そこまでミゲルが考えた時であった。
白い光がミゲルを包み込み、つい先ほど無くなった筈のミゲルの左腕が完全に再生されたのだ。
「ぁ?ぇ?」
これには実際に回復を受けたミゲルが一番びっくりしている。
「完全治療だとぉ?聖魔師がいやがったのかぁ!」
ウィルフォードの言葉に『聖魔師って白魔法使いの上位だったっけな?』などと思いながらスフィアと視線を交わす。スフィアはわたしじゃないといった様子で首を小さく横に振って返してくる。
ウィルフォードの追撃を警戒しつつも、振り返ったミゲルの背後では白魔法使いだと思っていたケールの全身が輝きを放っていた。
間違いない。
ミゲルの左腕を復活させてくれたのは、ケールだ。
「ミゲルさん!スフィアさん!回復はわたしに任せてくださいっ!」
「「んでもってケールの守りは俺たちがきっちりやるぜぇ!」」
ケールの頼もしい申し出だけでなく、モスラとザイードも声を揃えて主張する。
「頼んだぜ?……じゃあ、お前は俺がキッチリとカタをつけてやる」
「ぬかせミゲルッ!お前に俺の斬撃を受けられるわけがねえっ!」
ミゲルは覚悟を決める。負けは神器のロスト……使うからには必勝だ!
手をアイテムボックスへと突っ込むと、魔槍『炎神』を強く強く……強く掴んだのだった。




