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イルグラード(VR)  作者: だる8
第七章 変異
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第278話 大魔導フルカス

 グルグルと先ほど下ってきた螺旋状の街道を戻って上っていく。

 上り坂ではあるが、駆けていくわけでもなく周囲の街並みを眺めながらの二人歩きなのでこれはこれで乙なものだ。人の手で作られたデータの世界だと頭でわかってても、観光地と言っていいほどの景色がゆっくり流れていくのは癒やされる。


現実(ほんと)の世界にもこういうところあったらいいのに」


 たまたまなのだろうけど、まるでオレの思考と会話してるかのようにエルナが呟いた。内心びっくりしたが、冷静に考えてみればこれだけ景色の良い中を散策してるんだから、考えることなんてみんな同じかもな。


「実際にあるとしたらどこだろうな……確かにこういうところをちゃんと自分の足で歩いてみたいね」

「でしょお!」


 同意を得られたことに満面の笑みを浮かべたエルナはオレにキラキラした瞳を向けてくる。眩しいなあ。オレも負けじと笑ってみせるが、強面ドワだからかえって怖いかもしれん。まあ……仏頂面してるよりはいいか。一応オレの素直な感情ではある。


「もしそーゆーところ見つけたら、ファクト一緒に見に行かない?」

「ああ!いいよ……ん?リアル?」

「いいって言ったの聞いたからね~!絶対に探してくるから!」


 ちょっと待った。


 イルグラードはゲーム内だからいいが、外でオレみたいなおっさんに足を突っ込みかけてるバツイチが、女子高生と二人で歩いてたらどう考えてもマズいだろう?それに場所にもよる。あまり遠いところだったら泊まり掛けになるんだぞ?絶対にマズいに決まってる。って距離の問題じゃない。


「いやあのさ?」

「なに?もう聞いたもん。任せといて!絶好のスポット探してくるから!」


 ……有無を言わせない圧力だ。


 というか本当は言えるのだろうけど、言うことでその場の雰囲気を悪くしてしまいかねないという空気を作り上げる能力というか。オレだっていまエルナと一緒にフレアヴェール散策をしているこの時間は楽しいし、雰囲気を壊したいとは思えない。いや思わない。

 そういった気持ちをうまく混ぜ込んで意見を通してしまう技術というか。今のエルナにはそれが備わっているように感じる。


 そして似たような圧力を前にも感じたことが……あぁ、思い出した。これは元妻と付き合った当初に、元妻がオレに向けていたものと似ている。何というか結果としてオレに有無を言わせない感じはそっくりだ。

 性格は元妻とエルナじゃ全然違うように思うのだが、こういうところは似ている?のか?


 元来、人付き合いが苦手で対人関係経験の乏しいオレでは、それ以上のことはわからなかった。


 わからないならわからないなりに、別の視点から言い訳を考えてみる。

 フレアヴェールのように天然の洞穴というか、人を圧倒するような巨大な縦穴なんて、日本には存在しない……はずだ。あるとしたらどこかの鍾乳洞くらいか?もし、海外を薦めてきたら、その地が海外(・・)であることを理由に交わせばいい。


 問題は日本国内でエルナが(・・・・)そうした観光スポットを見つけてきてしまった場合だが、よくよく考えてみれば冒険者(プレイヤー)同士、お互いの素性なんてわからないはずだ。顔だって変えているし、日本のどこのポッドからログインしているかなんてわからないだろう。


 初期街でさえエルナとオレは異なっているんだから、現実世界(リアル)ではそもそも住んでいる場所が違うんじゃないだろうか。

 もちろん全く根拠はないが、この仮説が正しいならバッタリとすら会える可能性もない。……大丈夫だ!


 一瞬のうちにここまで考えたオレは、問題ないと判断して気にしないことにする。

 いまこのとき。イルグラードで楽しめているこの時間こそ大切にしよう。そう思うことしたのだ。それならば。


「雄大な自然を感じられるところが一番感動出来る。イルグラード(ここ)は、人の手によって造られた幻想の世界ではあるけど、地球はもっと偉大な筈だ。きっとどこかにあるさ」

「うん!めっちゃ楽しみ!絶対に探してくるから!」


 明るく弾ける笑顔をさらに輝かせるエルナには申し訳ないが、オレは現実世界(リアル)で会うつもりはない。仮に……会うことがあったとしたら、間違いなくがっかりさせてしまうだけだろうし。イルグラードでいる瞬間を楽しみたいということでいいじゃないか。


 と、そんな会話をしていたら、いつの間にか中層の中央広場まで戻ってきていた。

 ここからは今日まだ歩いていない道だ。


 大門から見て中央広場の左手から伸びる中上層への道を、オレ達は上っていく。


「すみません、お二人さん。よそ見して歩かないでもらえますか?危ないので」


 不意に前方から声がかかった。

 声の指摘は全く間違っていない。オレ達の視線は完全に中央城の方に向いていたので、前方からの歩行者に全く注意がいっていなかったのは事実だからだ。


 さて。恐らく悪いのはオレ達だ。

 どう謝ろうかと考えた一瞬のうちに、エルナがオレ達の間に入り込んだ。


「確かに私たちは前を向いて歩けていませんでした。その点については謝罪します。でも、道はこれだけ広いのですから、ぶつかるなんてことにはならないと思うのですが、いかがでしょうか?」


 そう言ってエルナが真っ向から非難する。

 いや別にそこまで頑張ってくれなくてもいいんだよ?と、エルナに言ってあげたい。一言謝って済むのであれば、土下座(それ)で終わらせてしまいたいと考えてしまうのはオレ

だけなんだろうか?


 ……おっさんだからとか言う意見は聞こえない方向で。ガチでそう言われたらさすがに凹みそうだ。


「んだぁ?言いたいことはそれだけ?小娘!あんたらが避けようともせずにアタシらの方へ向かって歩いてきた事実は変わらないんだよ」


 よく見れば声の主は二人組だ。

 もう一人の女性冒険者(プレイヤー)の方から、乱暴な発言が飛び出してきた。最初に落ち着いた調子で声を掛けてきた方が男性キャラで、格好から想像するに魔法使いのようだ。そしてもう一人の乱暴な物言いの女性キャラの方は……重戦士だな。まるでミゲルがそこに立っているかのように、重装備で身を固めている。


 男女ペア同士の(いさか)いで、喧嘩腰なのはどちらも戦士系で女性キャラとか。いやぁ女性ってのは強いなあ。

 なんて感想を抱いている場合じゃない。悪いのは恐らくオレ達だ。


「いやいや、申し訳ない。恐らくオレ達が悪いんだろう?迷惑を掛けて悪かった。あまりにも良い眺めなもんで、そっちに気を取られてしまったよ」


 はっはっはと軽く笑いながら、オレの前に出たエルナのさらに前に(・・)割り込んでオレは謝罪をした。

 エルナは一人前の大人で女性(高校生ではあるが)だと思ってはいるが、まだ若い。ここは歳を食ったおっさ……お兄さんのオレがちゃんと出るべきだろう。


「ファクト!……でも」

「いいから。オレに任せておけ」


 オレは静かにエルナに声をかけて下がらせる。


「ファクトだって?てことはこの小娘がエルナかい?」


 するとオレの謝罪ではなく、エルナの言葉に女重戦士が反応する。出来ればオレの言葉に反応して欲しいのだけど。


「アイラ。また名前表示切ってるの?……って、ああごめんなさいファクトさん。一言わかってもらえたらそれだけで良かったんだけど、お互いにパートナーの方が張り切ってしまったようですね。ボクはフルカス。最近『大魔導』になったばかりの()黒魔法使いさ。で、こっちがアイラ。見ての通り前衛を担当してもらってて『闘士』だよ」


 自らを『大魔導』と名乗ったフルカスというエルフの優男は、丁寧にそう自己紹介をしてきた。

 その様子から、オレ達のことはどうも知ってるようだが……。オレは二人を知らんぞ?

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