第276話 フレアヴェール帰還
魔族領の北西に位置する《暗黒の洞窟》で『フェイクアミュレット』を『デモンズアミュレット』に進化させることに成功したオレ達は、森の街に寄ってメルグ達を送り届けた上で、賢者イムリとコレット姫の待つ地底都市『フレアヴェール』へと戻ることにした。隠しクエストの報酬ももらわないとという目的もあることだし。
結局《暗黒の洞窟》にやってきた『ブシュフォル』の衛士たちの中で、デモンズハートの儀式を行うことが出来たのはメルグを含めて3名のみだった。
ヒュージガーゴイルの部屋で合流したのはメルグだけだったのだが、そのメルグがデモンズハートの欠片を最下層から持ち出していて、ダンジョンを出たところで2名に渡したため、追加で2名儀式をクリア出来た形だ。
その2名というのは、オレに隠しクエストをくれた衛士さんと、闇の世界に入れなかった入り口のNPCである。
闇の世界に一歩も足を踏み入れてないNPCが儀式を行うのはなんか狡い気がするが、NPCのやることなので言っても仕方ない。というより、メルグとともに先行して闇に突入した他の面々はヒュージガーゴイルとの戦闘で命を落としたため、渡したくても渡せないという事情もある。つまりブシュフォルの街に帰還出来るNPCも、その3名だけという訳だ。
そういった結果だけ考えれば、メルグ達にとって今回のミッションは非常にハードルが高かったようだ。弟のアストルの件を考慮しなかったとしても、魔族達の『デモンズハートの儀式実施命令』は、ブシュフォルの衛士隊には荷が重く、避けたいミッションであったことは間違いない。
てか、明らかに無茶振りレベルだよな。
そんなことを帰宅の道中でNPC達と話したが、
『気にするな。オマエラがいなかったら、全滅だった。戻れる衛士がいたというだけで成功だろう』
と、メルグが言っていた。感謝してもらえてるのはありがたいが、生還率を考えるならちょっとつらい。やり方次第ではもっと助けられたのだろうか?いや、それ以上考えてもNPCの事だから仕方ないか。
ブシュフォルの街に戻ると、メルグは親父に報告するからと言ってすぐに離脱してしまった。もう少し何かあるかと思ったが仕方ない。
その代わりに、隠しクエスト?をくれたNPC……名前は『ウィル』君だそうだが、そのNPCとNPCの二人に連れられて、街の住宅エリアへと向かった先でもらったクエスト報酬というのが……ブシュフォル衛士隊の徽章だった。
「なにこれ?!もっとこうお金になるやつとか、レアアイテムとかそういうのじゃないのぉ?」
と、徽章を見たるー坊が、もらったその場でがっくりと肩を落としてしまうほど平凡に見えるアイテムである。オレがアイテム鑑定を掛けたところ『衛士隊副隊長徽章』と出たので、るー坊が言うほど悪いアイテムではないと思うのだが……。説明を読んだだけでは何のためのアイテムかはわからない。
―――――――――――――――――――――
名称 :衛士隊副隊長徽章
ランク:イベント
価格 :-
効能 :ブシュフォル衛士隊副隊長である証。
リーダーとして衛士隊を組織し、命令する事が出来る。
―――――――――――――――――――――
『これは私たち衛士隊のリーダーである証です!隊長はメルグ様ですが、我々はこの徽章を持つオマエラ様の命令があれば命をかけてお助けします!どうかお納めください』
と、ウィルによるとそういうことらしい。
……オマエラ様。ほらメルグが変な呼び方をするから衛士達に定着しちゃってるよ。って、そこはまあどうでもいいか。要するに窮地に仲間として助けてくれる……のかな?よくわからないが、今はそれ以上の意味はなさそうだ。
オレ達はウィルに礼を言って街を出たところで、転移用の指輪を使って地底都市『フレアヴェール』に戻った。
「てめぇ……ファクト。ミゲルもいんのかよ?それにるー坊までいやがる」
地底都市『フレアヴェール』の転移ゲートに到着したところで、オレは不意に声を掛けられた。この声はよく覚えている。振り返るまでもない。鬼人のグレンだ。
「げぇグレン。面倒くさいから会いたくないのに。こいつ」
「うっせぇ。今更てめぇに用はねえ」
心底いやそうな表情をしたるー坊を一蹴したグレンは、オレ……ではなくその後ろにいるミゲルを見ているようだ。
「グレン。あれは事故だ。結果的にこっちだけ助かってしまったのは申し訳なかったが」
「あぁ。んなこたあもうどうでもいい。完全に舎弟の失態だしな。だが、申し訳ねえと思うんだったら、少し攻略情報をよこせよ?」
「わかった。構わない……ファクトいいか?」
ミゲルがそう聞いてきた。
二人の間に何があったのか詳細はわからないが、きっと必要なことなんだろうと思ったオレは快くOKを出した。
「私はミゲルと一緒にグレンのところにいってますね。無関係でもないですし」
と、スフィアさん。ミゲルが一時離れるなら想定内の行動だ。二人との合流場所だけ決めておきたいな。
「そしたら、オラは一旦落ちるだよ。また来るだ」
「そうか?いつ戻るのか……はわからないんだよな?」
「仕事が終わり次第戻るだ」
うん。つまりわからないってことね。現実の数時間はイルグラードの何日にも相当する。戻ってきたら通信で連絡をくれるだろう。
オレは手を振りながら住宅エリア方面へと向かう猫の背中を見送った。
ミゲルとスフィアさんもグレンパーティ一行とともに酒場の方へ向かって歩いて行く。オレとエルナがこの場に取り残されたような状況だ。さてじゃあ二人でどうしようかな?とエルナの方へ視線を向けると、エルナは目を大きく見開いてこちらを見ていた。
「じゃあ?ミゲルが戻ってくるまで自由行動よねっ?!ファクト、デート行こデート!」
「デート?なんか買いたいものでもあるのか?」
なんか足りない装備やアイテムなんてあったかな?
エルナの装備品は基本的に猫制作の銘《白虎》入り装備だ。これ以上の品がNPCの普通の店に置いてあるとは思えない。またオレの装備に関しても陥落前の王都で想定以上の強さだった複合弩を買ったばかりだ。
あとは防具だが……最近少し心許ない感じではあるけど、基本的に前衛じゃないからな。買い換えが必須というわけではない。
「いいからいいから!みんなが戻ってくるまでやることないでしょ?」
「……まあな」
調合士。いや魔導技師としては、なきゃないで素材集めをすればいい。……のだけど、オレだってエルナと一緒に行動するのが嫌なわけじゃない。むしろ楽しい。どっち優先するかって言われたら当然エルナだ。エルナとの時間を優先するに決まってる。
「じゃ決まり!あっち行ってみよ。それからそれから……」
エルナにがしっと腕を掴まれたオレは、そのままギルド街の方へと引っ張られるように歩き出した。




