第275話 ランスロットパーティ
「ミアちゃん来てるよっ!」
「大丈夫♪こんなの食らわないって!」
その直後、軽口をたたきながら避けたミアがいた場所に、弾丸のように飛んできた何本もの矢が突き立った。
「ほらね?」
「だから次も来てるって!」
「はぁい!」
声だけ聞いていればのんきだが、現在進行形でミアは敵の集中砲火を浴びている。結構な速度で襲ってくる槍状の砲弾が断続的に飛んでくるが、ミアはそれを余裕をもって躱していた。
「ミア!油断しない。大丈夫だと思って囮をやってもらってるけど、万が一もあるからちゃんと集中して自衛してっ!」
いつものように明るい女性陣の声が響くランスロットパーティ。そんな二人を諫めるようにリーダー……つまりボクの声が二人の声を追いかける。
「ミアは成長したよ。暗殺者にクラスチェンジしてから間もないのに、さらに動きに磨きがかかってる。これならちょっと前の僕と同じくらい動けているさ」
「ほんとっ!師匠のおかげだよっ」
暗殺者ジョブの先輩であるリンクスに褒められ、ますます調子にのるミア。
最近、探索者から暗殺者にクラスチェンジ出来たミアは、最近リンクスのことを師匠と呼んでいる。ジョブの特性や戦い方、身のこなしなども師事しているようで「攻撃を食らわない盾役」としてメキメキ力をつけてきている。
一方で、一瞬の隙をついた必殺の一撃という暗殺者としての本分に関してはまだまだの様子。
それでもミアの強化はパーティにとって大きなメリットだ。ミアが盾役をこなせることで、ボクとリンクスの二人が攻撃に集中できるからだ。そうでなくても敵の攻撃の狙いが後衛から外せることが出来れば、雷撃の賢者の強力な魔法が火を吹く……いや雷が落ちる。
アルテミスの攻撃は電撃になるらしいのだけど、もう見たまんま天災級の雷って呼んでしまっていいと思う。そのくらい恐ろしい魔法だ。
ちなみにボクは以前に比べて随分と『風神』を使いこなせるようになった。
魔力値が上がって継戦能力があがったことも理由の一つだけど、何よりも『風神さん』と仲良くなったのが一番大きいと思う。『風神』さんと打ち解けることで、秘められた神器の力を知ることが出来たし、その有用な使い方も出来るようになったから。
でも……いまいるこのダンジョンでは残念ながらあまり役に立ててない。
といっても力不足なわけじゃなくて、ボクが動かなくてもみんながすぐに倒してしまうから。
ボクたちは今『女神の神殿』という巨大な塔の中にいる。
ストーリー賢者のイムリさんによると、王都『ベル=フレッタ』を解放するために必要な聖具なるアイテムがここの最上階に安置されているらしい。それをボクたちはいま取りに来ている。
この『女神の神殿』に入るためのアイテムを取りに行くのも大変だったはずんだけど、それはリンクスとミアのダブル暗殺者の大活躍があって割とすんなりクリア出来てしまった。本当はもっと苦労した方がいいのかな?主にミアのために。いや、クリアはクリアだ。仲間がいることで超えられた壁ならそれが一番の結果でいいはず。
「ランス~出番だよ?」
「お?」
ちょっと物思いに浸りすぎてしまったみたいだ。
この階のトラップ……というかボス部屋の戦闘みたいなものなのだろうけど、設置されている槍弾の砲台は一定数連続で撃ち尽くすと数秒間のリロード時間が発生するようだ。そこを狙って破壊する。という作戦をボク達は選択している。
と、言うのは簡単だけど、実行するのは簡単じゃない。
この槍砲台、連続で打ち続ける状態に持って行かなければリロード時間など発生せずに、延々と槍を放ってくる。
なお、そもそもの作戦の発案はリンクスだった。
彼は、
『ちょっと待ってて』
と言うが早いか一人でトラップ部屋の中に入り、砲弾の槍弾幕の前に躍り出た。そして戻ってきたところでそう言ったのだった。
つまり自分一人で部屋に入り、槍弾を躱し続けて法則を見つけてきたということらしい。冗談じゃないがボクにはとても出来そうにない芸当だ。
スピードはいわゆる弾丸より少し遅いようだけど、あんな貫通力のある槍が飛んで来てしまっては、ボクが盾で方向を散らしたら後衛に被害を出してしまうだけだ。かといってまともに盾で受けてたらどこかでやられてしまう。
……で、そうそうボクの出番だった。
ボクは槍の弾幕が止まっている部屋の中を一直線に走り、『風神』で砲台を勢いよく斬りつけた。そして休むことなく二回三回と『風神』を振り、砲台を台だけにしてみせる。
以前は『風神』の剣身を延長させることで遠隔斬撃を多用していたボクだけど、最近はあまりそういう使い方をしていない。
そもそもパーティメンバーが増えたり狭いダンジョン内での戦いが増えたりして、仮想的でも長い武器の取り回しがしづらくなったという意味もある。けど、一番の理由は『風神さん』に『剣身を伸ばさずにそのまま魔力を貯めて斬る』ことを勧められたからだ。
結果としてリーチは減ってしまったけれど、この戦い方で振るった時のボクの攻撃は、雷撃の賢者の渾身の一撃とあまり変わらない威力を持っているらしい。というか状況によっては超えてる時もありそうだ。
「ランス。いまの最高の攻撃だったよ。しびれるわね」
いつの間にかボクのそばまでやってきていたアルテミスさんが、残骸と化した槍砲台をちいさく蹴飛ばしている。同行した当初は明らかに率いてやるからついておいでといった様子だったが、ここのところそういった様子を見せることはない。ボクたちの力を認めてもらえたのだと思うとちょっと嬉しい。
「後ろでアルテミスさんが控えてくれているから、安心して飛び込めるんですよ」
「言うわね。その賞賛は素直に受け取っておくわ」
にっこりとちょっと怖い笑顔を浮かべたアルテミスさんは、ボクの背中を二度ポンポンと叩いて部屋の奥へ歩いていってしまった。ボク達も後を追うことにしよう。と思ったらすでにリンクスさんは目の前を通り過ぎて歩いて行くところだった。
「ミア、ティアナ。ボク達も行くよ」
「ランス!聞いてよ。ミアちゃん余裕な振りしてたけど、少し攻撃を掠めてたんだよ?絶対油断しているからだよ」
「大丈夫だって。そのためにティアナがいるんでしょ」
「そうだけど!そうじゃないでしょ!」
ちょっとした言い争いが喧嘩になりそうだ。ボクは思わずハァとため息をついた。
「いいから。二人とも遅れちゃってるからすぐに行くよ。あとミアもミアだ。『ティアナがいるからダメージをもらってもいい』という考え方はやめよう。もしもらったダメージが一撃で戦闘不能になるような効果がついてたらどうするの?攻撃を躱せる能力がミアの強みになったなら、そもそも食らっちゃ駄目なんだ。それとも師匠さんはそれでいいって言ってる?」
「……師匠はそもそも当たらない」
「でしょ?だったらミアもそれを目指そうよ。わかった?」
「わかった」
納得した様子の表情でミアが小さくうなずく。
なんとかわかってもらえて良かった。ティアナはそんなミアを呆れた様子で見ているが、悪気はなさそうだから許してやって欲しい。
そして……ボクはティアナ自身のことを考える。
彼女もそろそろステップアップを考える時期に来ている。何かしらクラスチェンジをした方が良さそうだ。……アルテミスさんと相談かな。
そんなことを考えながら、ボク達5人は次の階層へと足を踏み入れた。




