第200話 空襲
鷲獅子……か。鷲獅子だと?
そんなはずはない。
鷲獅子は原則として××に出現させる魔物の筈だ。
何故ここにいる?まさか……はぐれた?
いや、この道の上空に現れるということは、明確に湖岸ルートで王都に向かうパーティを襲うコースをトレースする飛行パターン……はぐれが通過するのであれば、もっとルートから外れたコースにでる。
では何故ここに?
仮に再配置して王都に向かうパーティの選別に使ったとして……いやそれはない。どう考えても強すぎる。鷲獅子のような魔物が徘徊していたのでは、王都に向かうほとんどのパーティにとって……いやまて。
こういうことか?
既に始まっているイベントのフラグ操作にバグがある。
そのためにストーリーを進めていないパーティにまで誤って進行後の魔物が干渉してしまうという……可能性はありそうだ。すぐに栗枝からバグ連絡として上申させよう。意図的なものだとしたら……エグすぎる。修正をいれなくては。
ちゃんと仕事してんのか?……湯島。
それにしても、仮にバグだったとしてまだイルグラード3日目だぞ。先行ユーザーはもうそんなところまで進めているというのか?難易度設定が悪いのか、ユーザーがガチすぎるのか。
楽しんでもらえてること自体はありがたいが。
……
「来るだっ!」
盾を構えた猫が声を上げる。
《虫の知らせ》が鳴りっぱなしで五月蠅い。奴がターゲットしているのは間違いなくオレだ。上空より一直線に向かってくる鷲獅子に、オレは装填済みのクロスボウを向ける。……が、まだ遠い。出来るだけ引きつけてから狙い撃ちだ。
王都への道には障害となる試練が設定されているとは聞いていたが、こいつがこの道のボスなのだろうか?
そういえばげいるが珍しく声を上げてたが、げいるがそういった反応をするのって……確かかなり強い敵だったような気がする。例えばデュラハンナイトの時など。
となると……マズい。
いまここにいる前衛は猫のみ。まともに対峙するには戦力不足だ。
『エルナ!すぐ戻ってくれ。新手だ』
オレはクロスボウを構えながらフレンド通信でエルナにオーク殲滅から戻るよう伝える。返事は……あるかどうかを確認する余裕もなく、グリフォンの鉤爪が頭を掠める。疾い!頭を引っ込めるのがやっとで、クロスボウを撃つ余裕もなかった。
すぐにオレは『ブーストLV2』を飲んで身体能力を強化する。掠めた鉤爪の速度から、底上げしたとしてもオレの素早さ(AGL)でかわし切るのは難しそうだが、ないよりマシだ。
「続いて来てます!鷲の魔物が五体ほどっ!」
鷲獅子の攻撃と入れ替わるように配下の魔物と思われる鳥系魔物の鷲の魔物が波状攻撃を仕掛けてきた。そいつらの一体に狙いを絞り、オレはクロスボウを撃った。だが……
「マジか。視て躱しやがった」
オレの射撃精度はクロスボウの特殊効果のお陰で80%は確約済み。とは言っても放たれた弾矢に追尾性能があるわけではない。そのため弾矢の速度以上で弾道から逸れることが出来るのであれば、躱す事は出来てしまう。
オレは戦慄した。
雑魚として引き連れている鷲の魔物でさえ認識されると弾矢が躱されるとなると、ボスの鷲獅子が躱せないわけはない。どうしても当てたいのであれば、認識外から狙撃するしかない。ターゲットされていては勝ち目がない。しかも上空から攻撃されるとなると戦いの手段も限られてしまう。
どうする?どうやって倒す?
前衛のエルナたちが揃ったとして、どう戦えばいい?
「んだっ!」
いろいろ察したように猫がオレの……いや、オレ達の前に盾を構えて先頭に立った。
そう猫には申し訳ないが、いまオレ達の壁になることが出来るのは猫しか居ない。各個狙われるよりは出来るだけ集まって敵の攻撃軌道を狭める。そして視認されて躱される前提であっても、ガドルの盾の方角以外からの攻撃に対してはオレがクロスボウで牽制する。
鷲獅子はともかく、鷲の魔物なら当たりさえすれば何とかなるかも知れない。
この陣形で一番大変なのは猫だ。
とにかく鷲獅子の攻撃を真正面から受け続けて耐えなくてはならない。
鷲獅子が右から来れば右を向き、左から来れば左を向く。背後に回り込まれたなら陣形全体で回れ右する。そうして常に鷲獅子からの攻撃を陣形の前面に受け続けるのである。
最初の一撃こそ鷲獅子に吹き飛ばされた猫ではあったが、攻撃の威力を知った今はなんとか攻撃をしのぐことが出来ている。恐らくまともに力と対峙しているわけではなく、一瞬の盾捌きで上手く力を外へ逃がしているのだろう。
ただしノーダメージで出来ているわけではなさそうで、常にスフィアの回復魔法の光が猫の身体を包み込んでいる。
それにしても、よくそんなことが出来るな……と本当に感心する。
猫の本職が気になるところだ。鍛冶よりミゲルのような戦士だった方が、能力が活かせたのではないか?などと考えても仕方ない。猫は猫でオレと同じく自分のやりたいことをやってるのだ。
「……火矢」
『ガァァァァ!』
そんな折、狙い澄ましたげいるの攻撃魔法が鷲の魔物の一体に炸裂した。空中で鷲の魔物が燃え上がると、濁ったカラスのような鳴き声とともに炎に包まれた鷲の魔物はそのまま墜落した。
一撃である。
鷲の魔物の耐久値が予想より低めなのか、げいるの魔法の威力が凄いのか……いずれにしても戦線に光明が見えた瞬間だった。
「ナイスだ!……げいる」
「……お前のお陰だ」
おぉ!しゃべった。
げいると違ってクロスボウを撃ちまくっているオレの攻撃は、ここまで全て鷲の魔物に躱されている。
恐らくそうした鷲の魔物の動きを見ながら隙を見て魔法を打ち込んだ……だから当たった。と彼は言いたいのだろう。それが功を奏するのなら、オレは鷲の魔物に向かって撃ちまくればいい。
オレが倒せるならそれでよし。
倒せなくても余裕の無くなった鷲の魔物に、げいるが魔法を打ち込んで仕留めてくれるのならそれでいい。
エルナとミゲルが戻ってくるまでの辛抱だ。
猫が持ちこたえていられる間に、なんとか鷲の魔物だけでも減らす事が出来たら……不安と焦りを強引に握りつぶし、オレ達は一丸となって戦線維持に努めた。




