第199話 西ルート
「たぁっ!」
エルナのかけ声とともに、放たれる斬撃で一体……また一体と武装したオークが倒れていく。その右では同じくオークが紅蓮の炎に包まれて倒れ、また反対側では頑強な盾に阻まれて進軍できないオークの群れが渋滞状態だ。
そうして足止めされたオーク達の眉間をクロスボウから放たれた速射用の弾矢が次々と貫いていく。
業を煮やしたオークの渋滞が意を決して突撃すると、こんどは盾を構えた二人の身体が白く輝く。白魔法による強化と回復だ。
オレ達は、次から次へとわいて出るオークの群れに囲まれていた。
モルトの街を基準に考えるのであれば、王都ベル=フレッタへ向かう道は大まかに3つ存在する。
湖岸沿いを南下する西ルート。遠回りではあるが平坦かつ深い森を抜ける東ルート。そして、アップダウンの激しい丘陵地帯を抜け森に至る、最短ではあるが厳しい道のりの中央突破ルートである。ちなみにこの中央突破ルートこそがランスロット達が抜けたルートだ。
なお、3つの中でもっとも迷わず分かりやすいのが湖岸沿いに南下する西ルートであり、多くの冒険者がこのルートを選択する。だが、西ルートには強力な|魔物の群れが配置されており、中途半端な冒険者では王都に至る前に全滅しかねない……そういったルートとなっていた。
湖岸沿いを南下すると最初に襲いかかってくるのは狼の群れ。
かつてファクトが鳥狩りをしていた時に遭遇したあの群れである。とは言ってもあの時のように銀狼が率いていることは少ない。そしてさらに南下すると数体の熊の魔物が襲いかかってくる。エルナが剣士になるべく迷っている時に倒したあの熊の魔物である。
熊の魔物の襲撃を越えると、今度はオークの群れによる襲撃が始まる。
オレ達はミゲルの薦めで西ルートを向かい……そして今、オレ達はこのオークの群れの真っ只中にいた。
オーク達の一体一体の力は熊の魔物より間違いなく弱い。しかし、各個体にちょっとしたAIが仕込まれているのか、数体で徒党を組んで軍隊のように襲ってくるのが非常に脅威である。
ならばとミゲルの発案でちょっとした隊列を組んだのが今のオレ達の陣形だ。別に難しいことはしていない。
前衛をミゲルを中心に右にエルナ、左に猫がそれぞれ刀と盾を構えて前衛戦線を作る。そしてエルナの圧倒的な火力を補足するのがげいるの攻撃魔法だ。そうすることでオークの群れがエルナ側にくるのを避けるため、群れは盾を構えたミゲルと猫側に集中……そうして渋滞を起こさせているのである。
渋滞を起こさせることで一度に攻めてくる数を減らすというのが、ミゲルの作戦だ。
これなら時間は掛かっても勝利ポイントを作ることで安定して継戦出来る。数で蹂躙されるのが一番痛手だ。……新手がこなければ。
「オークの数は減ってるか?こっからだと後ろの方がよく見えん」
オレは敵の進軍を器用におさえている猫とミゲルに声を掛ける。しかし二人はどちらも返事を返すのではなく必死に首を横に振って応えてくる。会話している余裕はなさそうだ。
「げいる。渋滞オークのど真ん中に高火力の範囲魔法を炸裂させられる?」
「……(頷く)」
オレは戦闘時間が長期化することを危惧している。
敵がオークだけならこの作戦で継戦出来るだろうが、新手がこないなど誰が保証できる?というお話だ。
幸い右翼のエルナサイドはもうオークが及び腰になっているし、しばらくエルナ一人で大丈夫そうである。となれば、渋滞して密集している群れのど真ん中にげいるの攻撃魔法をぶち込んだ方が効果があるだろう。
攻撃をすると意思表示をしたはずのげいるは両手杖を構えたまま微動だにしない。時間が稼げているなら確かにその選択肢が正しそうだ。つまりこれから放とうとしているのは、げいるの必殺の一撃。炎系の極大魔法……かつて死霊使いの集団を焼き尽くした地獄の炎である。
「……炎熱地獄」
げいるは、灼熱色に輝いた両手杖を勢いよく振り下ろした。狙いはオークの群れのその奥だ。
両手杖から放たれた白く輝く魔力の素が杖の差した方角へと勢いよく飛んでいく。そして……
オレ達の目の前にいたオークの群れが閃光とともに弾け……渋滞を起こしていたオークの群れのほとんどを焼失させていた。
「っく。やっぱりとんでもねぇな。げいるの魔法はよ!」
そう言ったミゲルは、いつの間にか取り出したバトルメイスを担いだまま大きく数を減らしたオークの群れの中に盾を構えて突撃していった。
ここから先はもはや殲滅戦である。
「わたしだって!」
いち早く飛び込んでいったミゲルにエルナも続く。もうオーク戦は終わるだろう。オレはその場に残った猫と視線を交わした。げいるは相変わらず無言のままなので何を考えているのか分からないが、回復に徹していたスフィアさんも笑顔を見せる。
オレも構えていたクロスボウを下ろした。
あとはエルナとミゲルに任せておけばいい。と、そんなことを考えた直後のことであった。
ピピピピッ!とあの電話の呼び出し音のようなけたたましいアラームが、オレの脳内で鳴り響いた。
前衛として活動していない最近ではあまり聞くことがなかったため、随分と久しぶりに聞いた気がする。そうか。オレが獲物か。
「どうしただ?」
急にキョロキョロと周囲の警戒を始めたオレを、猫が不思議そうな猫顔で見る。が、その視線が固まった。
「上だっ!」
猫は突き飛ばすようにオレを押しのけると、盾でその一撃を受け止める。その衝撃はガドルの持つ防御力を大きく凌駕していたようだ。その証拠に、ギィィィィン!という軋んだ金属音とともに猫の身体が後方に吹き飛んでいる。
オレは猫の防御力を突破して突き飛ばした空の敵を見た。
空を主戦場とし、多数の取り巻き鳥系魔物を従える雄大なる姿は、空の魔物における頂点の一角を担うに相応しい神々しさを畏怖が感じられる。
「アイツはっ!」
オレは下ろしたクロスボウを再び構え、咄嗟にウッド弾矢をロードした。が、こんな弾矢ではヤツの身体に突き立つとは思えない。
せめてこのくらいは……と、アイテムボックスから標準弾矢を取り出してクロスボウへとロードした。
エルナとミゲルを欠いたオレ達が空の王者を見て動けないでいると、隣にいたげいるが両手杖を構えてオレの前に進み出た。げいるの視線は誰を恐れるでもなく、しっかりと空の王者へと向けられていた。
「……グリフォン。か」
それは、げいるから久しぶりに聞いた発言だった。




