第196話 魔導技師
『お帰りなさいませ。ファクト様。心配しました。強制ログアウトさせられたとか』
オレは住宅エリアの自室にて目が覚めた。無事にイルグラードに戻ってこられたようだ。視界には脇らベッドを覗き込む支援AIの顔が見える。背景から察するに、恐らくここはモルトの街の住宅エリアだ。
強制ログアウトさせられたのが《ラミーラ坑道》の中だったって話だから、もしかしたらダンジョン内に戻されるかもしれないと思っていたが、今回のようなイレギュラー措置の場合、アバターの位置情報はホームに戻されるようである。
「あ、ああ。なんとかちゃんと戻ってこられたみたいだ」
慌ててイルグラードに戻ってきたが、支援AIの声を聞いて少し気が楽になる。
彼女の言葉には精神安定剤のような効果があるんだろうか?そう錯覚を起こしかけるほど、焦っていたオレの心が穏やかになり、冷静さも取り戻しつつある。ログアウト前後の正確な記憶が完全にすっ飛んでおり、イズダテから聞いた経緯だけで時間を埋めようとした結果、無意識に不安を感じていたのだろうと理解する。
オレは途切れた記憶の足しになるかと思い、自分のステータスを開いて確認する。
レベルは……21だ。
思ったより上がっている。20を越えたらサッサと『魔導技師』に昇格手続きを済ませるつもりだった筈だが、戻れないまま時間切れを迎えたようだ。
やるべきコトの一つとして調合士ギルドでの昇格がオレの脳内タスクの一つとして登録される。
他には、そうだ。みんなは今何をしているだろう?
オレはフレンドリストを表示させた。
もともと登録しているメンバーが少ないオレだが、その登録者のほとんどがオンラインになっていた。オンラインでないのは……るー坊だけか。
すぐにエルナに連絡を取ると、どうやらエルナ、猫、ミゲル、スフィアの四名で《ラミーラ坑道》へレベル上げに行っているらしい。オレがイルグラードにログインしたことが伝わったせいか、これからモルトに戻ってくるそうだ。それならモルトで待っていればそのうち合流出来るだろう。
ちなみに……ずっと気になっていたエルナの持っている呪いのアイテム《災厄の藁人形》について、話のついでに聞いてみたのだがいつの間にかアイテムから消えていたらしい。
となると、あの異形の魔物戦で最後の呪いが発動したと考えるのが妥当だ。あの戦いでエルナは一度死んで戦闘不能になっている。実はあの時、異形の魔物の攻撃によって死んでしまったのではなく、その前に《災厄の藁人形》が発動していたと考えるべきか。
ただ、最後に押し付けられた災厄が何であって、誰に向かったのかはよく分からない。……これ以上は考えても無駄か。今、手元にないのであればもう気にしなくて済むのだから、素直に喜ぶことにする。
さて。
オレは自室のベッドから降りて立ち上がった。側では支援AIが笑顔で控えている。
エルナたちが《ラミーラ坑道》から戻ってくるのを待っている時間でやるべきことを済ませてしまおう。やるべきコトとは、当然『魔導技師』への昇格のことだ。そしてみんなと合流したそのあとは……ストーリーだろうな。
折角、ゲーム本編とも言えるシナリオが実装されたのだ。遊ばない手はない。
「アリス。ストーリーは王都に行かないと始まらないんだよな?」
『はいファクト様。その通りです』
ストーリーを始めるための条件は、やはり王都到着か。でも王都がどこにあるかとかよく知らない。
「王都への道は……」
『その情報は私から提供することは出来ません。お調べになって向かって頂くようお願いします』
「そうか。ありがとう」
やはりダメだった。
アリスは冒険者の行動における基礎知識は授けてくれるけど、いわゆる攻略に関する情報は開示してくれない。ダメ元で聞いてみたが、予想通り回答は得られなかった。これがポンコツマスターだったら、うっかり口を滑らせてそうだけどな。それに、ミゲルあたりが既に情報を入手しているかもしれない。
焦る必要はない。オレはまだログインしたばかりだ。
イルグラード時間では既に3日は経っているのだから、オレが知らないだけで既に広まっている情報はいくらもあるだろうし、急いだからってストーリー攻略の旨味が減るってもんでもないだろう。となれば……
『お出かけですか?』
身支度を調えてドアに向かうオレにアリスから声が掛かる。
「ああ。冒険再開だ」
『気をつけて行ってらっしゃいませ』
アリスは深く一礼して、オレの見送りをしてくれた。
……
『つ、ついに昇格だねっ!ボクのギルドからもう二人も昇格者が出るなんて……みんな優秀だ!あ、そうか!ボクが優秀だからか!』
オレは調合士ギルドの昇格魔法陣のある部屋にやってきた。
ブツブツと背後から聞こえてくるのはポンコツマスターの寝言である。うっかりが多すぎるクリエラのどこが優秀なのかと小一時間問い詰めたくなるが、そんなことよりも今は『魔導技師』への昇格が重要である。……一人目ってのは『薬師』になったフィーロのことだな。
「で、どうすりゃいいんだ?魔法陣の中央に立てばいいのか?」
『そうだよっ!で、立ったら分かるけど、目の前に昇格対象の職業……えっとファクトの場合は『魔導技師』だけだと思うけど、それを選択すると完了だよっ!』
なるほど。要するに最後の決定ボタンは自分で押せってことね。そんなことを考えながらオレは魔法陣の中央に立った。
すると、確かにクリエラの言うように選択ウィンドウが表示される。
・-
・魔導技師
・■※¥&%#$×
あれ?
オレは表示された選択リストを見て違和感を覚える。
確かにクリエラの説明の通り『魔導技師』の選択肢はある。上のハイフンで表示されていない所には、恐らく『薬師』が表示される筈なのだろう。
じゃあこの意味不明の記号の羅列はなんだ?
バグ?なんだろうか?
好奇心に駆られて『魔導技師』ではなくそちらをタップしてみる。が、特に何かが変わった様子はない。オレとしては押したつもりだが、押せてないのだろう。選択出来ないのであれば表示されていない『薬師』と同じでオレにとってはあまり意味の成さない表記だ。
気を取り直して『魔導技師』をタップすると選択ウィンドウは消え、魔法陣内が光で包まれる。
……と思ったがほんの一瞬のお話。直ぐに光は消えて無くなった。そしてまた画面上にウィンドウが表示されている。
・調合士
・-
あの意味不明の記号文字羅列ボタンは選択肢から消えている。
調合士ボタンは押せるようだが、折角『魔導技師』なったというのにそれを選択するわけにはいかない。オレは魔法陣から出た。
『おめでとうっ!これでファクトは立派な『魔導技師』だよっ!』
マスタークリエラが満面の笑みで迎えてくれた。
この笑顔だけは、心の中でポンコツと言いまくってごめんなさい。と素直に謝りたくなるほどの破壊力がある。
『声に出てるけど?』
いつの間にかクリエラの笑顔はジト目に変わっていた。
しまった。また声に出てしまっていたようだ。反省。オレはイルグラードでは建前と本音は上手く使い分けるのが苦手らしい。
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名前:ファクト
性別:男
種族:ドワーフ
称号:採集王
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職業:魔導技師
LV: 1 (総合LV22)
腕力:52 (43+ 9(STR+70%))
活力:61 (49+11(VIT+50%)+1)
敏捷:69 (59+10(AGL+70%))
器用:74 (70+ 3(DEX+70%)+1)
魔力:39
運 :45
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武器:ハンティングダガー(STR+12) :即死効果50%
盾 :
サブ:クロスボウ(STR+10) :命中精度80%UP:調合士装備時
:拳銃(不明)
弾 :ウッドボルト(STR+5)
頭 :ハードレザーバンド(VIT+4) :VIT値+1
手 :ハードレザーリスト(DEX+4) :DEX値+1
胴 :ハードレザージャケット(VIT+12) :毒無効
下肢:ハードレザートラウザ(VIT+5/AGL+4) :クリティカル回避5%
足 :ハードレザーブーツ(AGL+10) :移動速度20%UP
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所持金:
26,730G
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固有スキル
調合
アイテム鑑定:調合士
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修練スキル
虫の知らせ
必中
短刀術
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レシピ
回復薬小
回復薬中
毒消し薬
麻痺治療薬
木片
蜜蝋
磨き粉
砥石
魔力粉 ※2way
木の弾矢
標準弾矢
徹甲弾矢
火炎陣
回復領域
魔力障壁
ブーストLV2
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受注クエスト
回復薬小の納品(束)350G/10個
毒消し薬の納品(束)250G/10個
麻痺治療薬の納品(束)300G/10個
回復薬中の納品(束)1,500G/10個
魔力粉の納品(束)6,500G/10個
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